光の先

「なんだ! 何が起きてるんだー!」

 カウントダウンが始まった直後に部屋の中央に青白い光の球が表れた。それと同時に部屋中を風が吹き荒れ、書類や人が吹き飛ばされた。光の球は直視できないほど輝くと、表れた時と同じように突如として消え去った。そしてそこには抱き合ったドロシーとトトの姿があった。


 ドロシーが目を開けると、そこは見覚えのない場所だった。大小のモニターに囲まれた学校の教室ほどの部屋に紙切れが舞い、人々が倒れ、ドロシーたちの周りにある機器類は叩き壊されたように火花をあげていた。

「お姉ちゃん、ここどこ……」

「わかんない。研究、じょ?」

 怯えるトトを抱きしめて、ドロシーは部屋の中を観察した。

 一番大きなモニターには地図らしきものが描かれており、一点からいくつもの放物線が四方へと伸びていた。小さなモニターに映し出されている先の尖った円筒形の物は、ドロシーに見覚えのある物だった。

「ミサイル? ミサイルだ! ここって……コントロールルーム? 月にこんな所が?」

 ドロシーが戸惑っていると、銃を持った数人の男が部屋に入ってきた。全員が軍服を着ていた。

「おい何をやっている! 早く発射……いったい何が起きた」

「怖いよ、お姉ちゃん」

 トトがドロシーにしがみつくと、言葉を失って部屋を見回した男とドロシーの視線がぶつかった。

「どうして子供が! ここは最高機密トップシークレットだぞ!」

 ドロシーたちに銃を構えたリーダーらしい男の叫びが部屋に木霊こだましたが、それに答えらる者などいるはずもなかった。

「おい。小僧を地下に監禁しておけ。奥のお前。娘を尋問して情報を聞き出せ。残りは俺と事態の収拾にあたれ」


「近づかないで!」 

 促された男二人がトトを連行しようと歩み寄ると、ドロシーは咄嗟に両手を広げて盾になった。

「抵抗するな。今はまだ手荒な真似はせん。今はまだな」

 リーダーらしき男は、今度は静かだが凄みのある声でドロシーの目をみつめた。抵抗が無駄な状況なのは一目瞭然だった。男の言葉を信じるしかないドロシーは、頷くとトトに振り返った。

「大丈夫。何もされないわ。必ず迎えに行くから、大人しく待ってて。いい。大丈夫だから」

 ドロシーはトトを抱きしめると背中をさすり、自分にも言い聞かせるように囁いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る