時空回廊

『バウム時空間研究所』

 四人が降り立った目の前には、飾り気のない板に手書きされた看板と、無機質で巨大な倉庫はこが幾つも並んでいた。それは各々が何らかの実験が行える施設だった。

「ほんとセンスがないなー。せめて看板くらい科学して欲しいわ」

 嘆きながら体を伸ばすドロシーに、ホビーとロザリオが声を出して笑った。

「お姉ちゃん早くー」

 トトは一人で、さっさと研究所に走って行ってしまった。

「こーらー」

 三人はトトを追いかえるように研究所へと向かった。


「パパー」

「来たなー」

 両手を広げて迎えたバウムがトトを抱え上げた。続けてきた三人も合流して、顔なじみの所員たちと挨拶を交わしながら実験施設に入った。

 実験ブースは、バスケットボールの試合会場ほどの大きさだった。その中央にはコンテナハウスのようなマシーンが鎮座し、昆虫の膨れだった触角のような鉄のアームが、頭上から実験用のドロイドを囲んでいた。ドロイドの見た目はアンドロイドの骨格標本のようだが、人工頭能を備えた自律機械で、情報収集だけを目的として作られていた。その為、感情を持ったアンドロイドとは一線を画している。

「こんなに大きいなんて、タイムリープの装置とは桁違い」

「タイムリープだって、最初はおっきな装置が必要だったんだぞ」

 ドロシーがこぼした言葉に、バウムがマシンの周囲を示しながら応えた。

 透明のシールド板越しに様々な機器がマシンを囲んでいた。所員たちによる調整も、いよいよ最終段階にさしかかっていた。

「二人はここで見てなさい。特等席だぞ。申し訳ないけど、ホビーは何か影響を受けるといけないから、そっちの少し離れた方で」

 バウムが案内したのはシールド板だけの、マシンを見上げるほど近いスペースだった。鉄のアームが動くたびにドロシーもトトも跳びはねて興奮を口にしていた。そんな二人を、ホビーは斜め後方のシールド板越しに微笑ましく眺めていた。

「よし。みんな始めるぞ」

 スピーカーを通してバウムの声が響いた。


「ワームホール確認」

「エネルギー上昇」

「時空値光速超えます」

 マシーンが低く唸るような音を上げてゆき、アームの動きが何かを捉えるように活発になった。実験は順調に進んでいた。

「時空値光速超えました」

「ワームホール捕捉」

「ドロイド安定」

 何本ものアームが指し示す先に蛍のように小さな光がチラつき始めた。誰しもが固唾をのんでマシンを見守っていた。ドロシーもまた、その美しさに見とれていた。気が付くと、その光に引き寄せられるようにトトがシールド板を抜けてマシンに近づいていた。

「ワームホール繋ぎます」

「ダメ!」

 ドロシーが慌ててトトに駆け寄った瞬間、マシンからドロイドに稲妻が走った。一陣の風がシールド板を震わせ、実験ブース内を嵐のように駆け抜けた。危険を感じたドロシーは咄嗟にトトを抱きかかえた。

 風は小さな光を乗せてひと固まりとなると、青白く発光する球体となってドロシーたちを包み込むと消えてしまった。

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