パルス環状線

「ありがとうございます、ロザリオさん。受付のあなたが来ても、良かったのですか?」

 ロザリオが操縦する電磁自動車ビーグルは、助手席にホビー、後部座席にドロシーとトトを乗せると、バウム研究所へと向かって発進した。

「実験がある日は封鎖となるので、受付業務はないんです。久し振りにドロシーちゃんたちに会えると思って、お迎えを買って出ました」

「ありがとう、ロザリオさん」

 ホビーの問いに答えるロザリオに向けて、ドロシーが興奮気味にお礼を言った。続けてトトも「ありがとー」と元気に言った。


 ハリウッド街、ローマ街、ロンドン街、九龍クーロン街を通り抜け、月の都市ルナシティユグドラシルを一周する環状線。その電磁パルス道路を滑るように行き交う電磁自動車ビーグル。ドロシーは窓の外を眺めながら、整った街並みは頭上から見れば美しい電子回路のようなんだろうなと思った。そんな時、自分の中に開発者である母親を感じた。

「今回は成功するかな」

 ドロシーのつぶやきに、ロザリオがバックミラー越しに声をかけた。

個体の時空移動タイムスリップは所長の悲願だもの。ドロシーちゃんに見学を許すくらいだから自信があるんじゃないかしら」

「ほとんど家に居ないのに失敗したら許さないわ」

 ドロシーが頬を膨らませた。

「過去に精神の時空移動タイムリープして、やり直せないのですか?」

 ホビーが素朴な疑問を口にした。

「タイムトラベルの時空をトンネルとするなら、その先に扉がないといけないらしいです。要はタイムトラベルが存在する時代しか行き来ができない。だから私たちにとっては未来しかないんですよ」

「ホビー。過去に行けたら、とっくに終焉戦争ラグナロクを阻止して地球で暮らしてるわよ」

 ドロシーは憤慨したように、シートに音を立ててもたれた。


「ドロシーちゃんも終焉戦争ラグナロク知ってる年かー」

 ロザリオがオーバー気味のリアクションで明るい声を上げた。

「地球期の愚かしい記憶。ですよね。5年も続いた世界戦争。それも北の赤鬼レッドオーガの気違いじみた細菌ミサイル拡散で地球汚染を引き起こして終わるだなんて。その後11年かけて地球を捨てた月への移住が成功したなんて黒歴史もいいとこよ」

「す、凄いじゃないドロシーちゃん」

「もう着きますよドロシー」

 苦笑いを浮かべたロザリオにホビーは肩をすくめると、前方を指さしてドロシーの気をひいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る