第84話 エピローグ・四人の勇者

 魔王を倒し、意気揚々と帰る四人の勇者。


 …え、それでいいの?


 …常識的に考えて、良い訳がない。


「ちょっと‼待ってよ、四人の勇者様!今からが、大事なんだよぉ?」


 聞いた声。勿論知っている。


「主役に帰られちゃうと…、ボクは困っちゃうなぁ」


 このまま終わりにしたかったのは、四人の勇者の方。

 この流れは、あの悪魔が登場する流れだ。


「やっぱり出たわね、イスルローダ」

「今からが大事って、アレか?新年の日の出を一緒に見ようって話かよ」

「そりゃそうだよ。ほらほら、ここにはまだまだ人が残っているよ?主役がいないと、盛り上がらないじゃないか。世界中の人達がずっと待ってた新世界の幕開けなんだよ?」


 とは言え、逆さゆで卵の殻が完全に剥けるのは、もう少し時間が掛かりそうだった。


「ってか、こんなに明るいんだから、太陽なんてとっくに上っちまってんじゃねぇか?」

「眩し過ぎるくらいね。これが終わらない夢の世界…」

「それがもうすぐ始まるんだね。三百年の安寧の始まりを眺めてから帰ろっか」

「流石、勇者様。話が分かるねぇ。…どっかの化身とは大違いだ」

「化身?」

「…ん?ボク、そんなこと言った?気のせいじゃない?気にせずに眺めよう」


 イスルローダは珍しく、人々の前に姿を見せている。

 あの謎空間以外では、初めてのこと。勿論、過去に同じようなことがあったかもしれない。

 だけど、記憶にないなら別の自分。それはこの悪魔が言ったこと。


「言ったぞ。なんだよ、化身って。…それ、もしかして」

「そっか。ボクは浮かれて口走っちゃったのか。だって、本当に久しぶりの新しい世界なんだよ?ここまで来るのって、本当に大変だったんだ。その神の化身が邪魔をしちゃってさー」


 ここで、勇者たちの時間が止まる。

 彼の口ぶりは、安寧の三百年というより…


「新しい世界…、ソレは…そうだけど…」

「何を言ってんだよ。さっきから神とか化身とか。冗談にもほどがあるぞ」

「そうよ。アタシ達は見事にやり遂げたのよ。勇者は魔王を倒し、平穏を、世界を取り戻す。ちゃんとやったわ」

「それはイスルローダ、お前も見ていた筈だ」

「だから、そんな質の悪い冗談は…、…えと、あれ?地面が揺れてる…」


 彼らの時間は止まっても、世界の動きは止まらない。

 真っ白な空の正体がついに明るみになる。あの時行った、世界の端の外。

 遥かなる水平線に浮かぶ泡沫の世界だったのだから、そうなって当たり前だ。


「なんだ、これはあの時の世界。お前、まさか…」

「ボクが悪魔だからって嘘を平気で吐く?その緑の髪の人が言ってたよね」


 周囲の人間は何が起きたのかと逃げていく。

 そんな中、悪魔はピタッとナオキの顔に人差し指を向ける。

 同時に、その指を上に向け、メトロノームのように左右に振った。


「いいねぇ、その顔。でも、残念。これはボクのせいじゃないし、ボクは嘘をついていない」

「待てよ。どう考えても嘘だろ!お前、何をした!!この世界をどうするつもりだ。ここは俺達の安寧の世界だろ?」


 すると、悪魔は首を傾げて、真っ当な返事をする


「ボクは何もしていないよ。君たちも知ってた筈。ユウはマリス、そしてマリスは泡沫の世界の主。君たちはそれを壊したんだ」

「そうよ!アタシ達はお前の言葉通り、ユウを壊した。でも…」


 納得がいかない。殆どの人類が納得していない。

 だが、悪魔はそんなこと気にしない。


「ねぇねぇ、三百年って何基準?君たちが言ってるのはマリスの泡沫の世界の時間だよね?」

「意味分かんねぇこと言ってんじゃねぇぞ。時間は時間だろ。宇宙共通の時間だよ。んで、ちゃんとした三百年寄越せ。お前が決めたことだ」

「ふーん。それじゃあ天魔大戦の時間を進めないとねぇぇ…。あの子はちゃーんと教えた筈だよね?君、ちゃんと返事をしてたよね?」


 この世界の時間は止まっている。

 理由は天魔大戦を止める為。だけど、それでは世界が消滅してしまう。

 だから、世界が消滅しないように数刻だけ時間を進める。


 それがデビルマキアだと彼は言った。


「待って‼そうなんだ。レンは分かってないんだ‼僕たちが欲しいのは泡沫の世界の時間なんだ。ね、皆。そうだよね?」

「それはそうよ。アタシ達が望んだのは、アタシ達が知っている世界の三百年だもの」

「…そう、その為に私たちは…、ユウを殺した。でも、これは一体…」


 四人の勇者を除いた人間たちの動きがおかしい。

 動物など殆ど見かけないが、明らかに動きが遅くなっている。

 そして、遂には止まる。


 時間の流れ。その話をするには…


「マリスの世界の三百年。これっておかしいよね。だって、時は止まっていたんだ。彼は必死でその説明をしていたよ。知ってなお、彼の首を落とした。君は理解してると思ったんだけど…?」

「は⁉何、言ってんだよ。時間は時間だろ。意味が分かんねぇよ」

「勿論、新世界の時間の流れだよ。マリスの泡沫の世界は別のものを時間軸にしているからね」


 顔面が蒼白、土気色で、全員が声を荒げる。


「俺達を騙したのか」と


 だけど。


「悪魔って…そういう者、でしょ?ちゃんと理解して契約しないとダメじゃないか。…それにしても、見てて痛快だったよ。あのお人好しマリスが尽く裏切られるんだもん」


 色々問題はあったかもしれないが、彼はずっと世界のことを考えていた。

 しかも、あちらの世界のことまで考えていたお人好し。


「駄目、早くしないとデビルマキアが来る。イスルローダ!アタシ達は痛快にマリスを倒したんでしょ?だったら、元の世界に戻してよ!」

「私達にはその権利が…ある…筈。世界を…マリスを倒して…、お前の望みを叶えたんだから‼」


 必死に訴える二人。だけど、悪魔は顔を顰めてしまった。

 そして、こう言う。


「おかしいなぁ。あの時、四人とも聞いていたよね?あれはマリスとあちらの世界が結びついていたから出来ただけ。君たちはソレを、知っていながら見事にあっちの世界との関係を断ち切ったんだよ」


 立ち眩みを覚える言葉。

 だって、それは記憶だけしか戻せないと悪魔が言ったからだ。

 ずっとずっと、踊らされていた。


「お願い…。記憶だけでもあっちの世界に送り届けて…。私は死んでもいいから」

「むーりー。自分たちで鍵を壊しといて何を言ってんの?でも、大丈夫だよ。君たち四人合わせたら、丁度彼になる。これも知っていたよね?」

「それはスキルの話だよ。僕たちはアイツの体を材料に世界が出来るって思ったんだ。こんなのは聞いてない」

「はぁ…。ノープランで殺したってこと?呆れるなぁ。泡沫の世界を作る権利を彼から分捕った。だから、君たちはこの中で動けるんだよ。因みに今はさ、サービスタイムなんだよ。何もしなければ、神の時間が始まる。君と君なら覚えているよね?」


 勿論、アイカとサナ。


 だって、太陽が落ちかけてて、アタシ達には時間が残されてなくて…

 私がもっと準備していたら。もっと考える時間を残していたら…


 ——見え透いた罠に、嵌らなかったのに


「じゃあ、その方法を教えてくれよ。どうすれば、世界を作れるんだ…」

「先ず、君たちの次元の一つを差し出す。その次元を展開して空間と誤認させるんだ」

「は⁉ちょっと待ってよ。僕たちの体を使うってこと?」

「次に君たちの次元の一つを差し出して、世界を作る。その為にはこの世界の情報を次元に書き込む必要があるんだ」

「ちょっと待って。そんなの…」

「その次、君たちの次元の一つをエネルギーへと変換する。これは生命活動に必須だよね。しかも、これが相当厄介なんだ。物体に運動を与えることで時間を誤認させるんだから。本当に大したものだと思うよ」

「今ので三つ目…?もう、私たちに次元は残されてないよ…」

「大丈夫。これで最後だから。記憶、もしくは心を差し出すだけ。その三つの次元を繋ぎとめるんだ。細かいやり方は…。…はい。魔法硝板に専用のアプリを入れたから、それをタップするだけだよ。使い方は分かるね?大丈夫。世界と一つになるのよ。自我は勿論失われるけど…ね」


 イスルローダが魔法硝板をタップすると、全員の魔法硝板がバイブレーション機能で揺れた。

 間違いなく、その為のアプリが追加されたのだろう。


「こんなの…、使うと思うのかよ」

「さぁ。ボクは天魔大戦の続きがやりたいから、気に入らないなら使わなくても全然いいよー」


 元々、この悪魔はデビルマキアを引き起こす為に動いていた。

 それは今までの行動を見ていれば分かる。


「…僕たちがこんなの使う訳ないだろ。これだって別の方法が絶対にある筈だ。」

「うんうん。勿論、他の方法を探したっていいよ。但し、期限は世界の壁が完全に崩壊するまで。そうなると、君たちの大嫌いなデビルマキアが始まっちゃうからね」


 時間は限られているが、まだ半分くらい壁は残っている。天井だって、全部崩れた訳じゃない。

 でも、どこを探せばいいのか。


「それにしても、アレだね。大好きな泡沫の世界の為とは言え、あの子には処刑をしようとしたり、自殺に追い込もうとしたり、仕舞いには本当に殺したりするのに、自分たちのこととなると、勇者様はこんなにも判断が鈍るんだねぇ…」


 答えは目の前にある。

 このイスルローダとかいう悪魔は、その力を持っている。


「お前が全部悪いんだろ。アイカ、補助魔法を頼む‼」

「うん、任せて‼…アイ・シルフィード‼」

「サナ、僕たちも行くよ。…ナオ・キャッスル‼」

「分かった。…サナ・トリウム‼動きを封じる‼」

「俺達を侮るなよ。時空を超えてやって来た、勇者様だ。大・レン・げ…き?」


 だが、四人は目を剥く。体が固まる。

 悪魔が勇者の動きを封じたわけでもないのに。


「気付きそうなものなのにね。その魔法だって、そのスキルだって、あの子が使いやすく構築したってのに。来る日も来る日も、みんなの為に魔法硝板と向き合ってたんだよ。私は過保護すぎやしないかって心配してたんだけど、案の定そうなっちまった。あー、そういえば…、そこの女二人は知ってるわよね?」


 イスルローダの気配が変わる。元々、男か女かも分からない存在だった。

 だけど、喋り方や仕草が女っぽく変わる。


「く…、アンタ、何者なのよ‼」

「ただの悪魔…じゃない?…え、そか」


 短かった髪が、白と黒の髪が大地まで達する。

 同時に、体付きも女のソレへと変わっていく。


「どういうことだ、アイカ」

「サナは何か知ってるの?」

「魔法は水平の彼方の神々の力を借りているの…。だから、ちゃんとイメージしないとダメ…。アタシの知っている世界で、ユウが作ってくれたの。体感することが大事…って」

「真白君に聞いた名前、シクロ。その名で問いかけたら、イスルローダの声が聞こえた。それって女神シクロの影だったってことだよ」


 赤い瞳に黒が差し込み、虹彩が独特な文様を象る。

 その瞳が半分隠れて、軽くサナを睨みつける。


「それは違うわね。っていうか、そのまんまなのよ。私はこの世界じゃ女神デナって呼ばれてる。大神官殿なら知ってて当然よね?…それにシクロは、あの子だけに特別に呼ばせてただけ。…そうね、本当は嫌だけど、私のことをデナ様と呼んでもいいってことにするわね」


 艶やかな髪色、神々しい顔立ち。

 1マイクロも違わぬ、均整で並ぶ目鼻に口。

 ここまで来ると、もはや逆に違和感しかない。


「呼び方なんでどうでもいいんだよ‼神様なら俺達を元の世界に戻しやがれ‼」

「やっぱりアイツ、女神の寵愛を受けてたんじゃないか。やっぱりチートだったんだ。こっちでもあっちでも…、お前のせいで…僕は‼」


 魔王を討ちとった剣で、魔王の動きを止めたメイスで、女神の影を打ち倒さんとする。

 だが、それは以前にもやったことだ。女神の体が泥になり、その泥が美しき女神を象る。

 影はやはり影。彼女に攻撃をしても意味がない。


「あぁあ…。全く、どうしてそうなっちまったのかねぇ。最初の頃は二人ともいい顔をしてて、優しい少年だったのに…。やっぱりアレだね。こういうのはぶっつけ本番くらいが丁度いいってことだろうね」


 喋り方はクール。だが、息が詰まる程の冷たい視線。

 神に盾突くから?いや、彼女の使徒を死に追いやったから?


「クソ…。影を攻撃しても無駄…。どうする?」

「どうするって、本体を攻撃する…しか」


 つまり、彼女に触れるには、ある条件を満たす必要がある。


「本体を攻撃って…、デビルマキアが始まるのを待てってこと?」

「最悪、そうするしかないってことだよ。アイカもサナもデビルマキアの後に帰ったんだよね?このまま終わりなんて、僕は嫌だよ‼」

「ダメよ。二人は知らないからそんなことが言えるのよ」

「んなことねぇ。正直ブルっちまってるけど、…俺はお前を逃がす為なら」

「レン…、アナタ…」


 そのやり取りを、女神デナは半眼で眺める。

 そして、両手の人差し指をひょいと世界の壁に向けた。


「最後に愛する者を助けたい気持ちになった?…ちょっと遅かったわねぇ。もう時間だよ。押すの?押さないの?」


 愛らしい女神の人差し指二本が、ツンツンと指し示す場所には、今にも崩落しそうな壁があり、その向こうにはあの遥かな水平線が広がっていた。

 そして、ここで。


「私…、押すね。一番迷惑かけたの私だと思うし…」

「サナ、ダメだよ‼僕は君を失いたくない‼」


 サナの記憶には確かに前の世界の光景が広がっている。

 あの時は間違いなく、ユウのことが好きで、その行き過ぎた気持ちが、今回の世界をややこしくしてしまった。


 だから、私は…


「ううん。もう決めたの。」

「待って、サナ‼それなら…」

「だーめ。絶対にみんなで元の世界に戻ってね…。それじゃあね。みんな、今までありがと…」

「サナーーーーー‼‼‼」


 彼女の中にデビルマキアへの恐怖があったからなんて、無粋な話はやめておこう。

 とにかく、彼女は決断した。そして、先ほど新たに現れた球体が描かれたアイコンをタップする。


 ナオキが止めようとする中、彼の視界が彼女の指の動きを捉える。

 アイカも、レンも動けない。


 そして…


「え…、嘘…」


 三百年の世界が生まれる、彼女の三次元と記憶と気持ちを生贄に、時間の猶予が発生する


 …と、思った。だが、彼女の体に変化はない。

 強いて言うなら、絶望的に青い顔に変わったくらい。


「え⁉…サナ、押さなかった…」

「ううん。違う‼ちゃんと押した」

「な?おい、どういうことだよ。今、サナはちゃんとアプリを起動したぞ?」


 そうしたら、三百年の余裕が生まれて、っていうか。


「また、嘘をついたのね。どこまでアタシたちを…」

「それは心外。私は嘘なんてつかないよ。偉い女神様は嘘はつかないの」

「嘘だもん!私、ちゃんと押した。ほら、ちゃんと押してる…」


 サナの指先に女神以外の全員の視線が集まる。

 そのタイミングを待って…


「ふふ…。ふふふふ。君たち、焦り過ぎだよね。自己犠牲、献身的で勇気ある行動をとった彼女には大変申し訳ないのだけれど、アイコンの右上に1と表示されているね。どうやら勇気ある勇者サナだけでは力が足りないらしい。」

「…え?だって、ユウは一人で世界になったんでしょう。そんな…」

「全く、君たちはどうしたんだい?世界を作る…、神でも大変なの。人間には分からないだろうけれども、ね」


 最終的にユウの力は、彼らを大きく凌駕していた。

 今までだってそうなのだろう。だから、力が足りないと女神は言う。

 そして、ユウの力は途方もなかったのは、四人全員が知っている。


「四人がかりでも勝てる気がしなかった。…ユウは一人で作れても、アタシたち一人だと泡沫の世界は作れない…ってこと…」


 あくまで冷徹な目で四人を見下す女神デナ。

 そして、彼女の背後で最後の壁がガラッと音を立てる。

 その時。


「ねぇ…。私は…押したんだ…よ?押した後、みんなは私の心配じゃなくて…、世界の心配をした…。これ…おかしいよ」

「違う。僕は…」

「だったら、押してよ、ナオキ」

「と、当然だよ。僕も…押すに決まってる…じゃないか。でも、僕は戦闘向きじゃないから…。その…」

「どうして⁉みんなは関係ないでしょ?私は押したのに…、二人でもうまく行くかもしれないのに…」


 女神は肩を竦め、つまらなさそうによそ見をする。

 背後の壁は、あと少しで崩れ、魔王の死は無駄になる。


 っていうか。こやつら、まだ気付かぬのか?


 なんて、普段の喋り方で心の中で文句を言ってみたりもする。


「レン?アイカを助けたい…よね。レンは魔王の首をとった男だ。もしかしたらレンなら」

「何言ってんだよ。俺はアイカを助けたい。…これからも助けていきたい」

「でも、僕の方が頭が回る。帰る方法を見つけ出せるのは僕の方だ‼」

「…ナオキ?何を…言って…」

「もういい‼…アタシが押す。サナちゃん、アタシが…押す…から」

「待て、アイカ。お前は俺が…」


 だが、レンが駆け寄るよりも早く、アイカは魔法硝板のアプリをタップしてしまう。


 そして、


 いや、だが。


 ゴトリ…


「…はい。時間切れのようね。考えて見たまえ、未来・・ある勇者たち。勇者ユウ、私の使徒のスキルはここにいる全員を集めたもの…。三人でも足りない。ここにいる全員でなければ同じことは出来ない…。分かんないかなぁ…」

「貴様…、どうしてそれを早く…」

「ん?これって私が悪いの?みんな仲良く押せば、世界の人たちは助かったのに?勇者は須く…って、世界中の皆が言ってたのに?」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


 大地が揺れる、世界が軋む。もうすぐ…、やってくる。


「さぁ、みんなで楽しみましょう。地獄がひっくり返ったような天魔大戦を──」


 ゴロゴロゴロゴロ…ドン‼ドドン‼


 世界が荒れる。神々の時間が始まる。人類ではどうにもならない絶望が始まる。


「…サナ」「………」「アイ…カ?」「………」「レン…」「………」


 そして、魔王と名付けて、友人を殺した四人は逃げだした。

 彼らの彼女らの力では、どうにもならない世界の中を、少しでも生きながらえようと、脱兎のごとく逃げていく。


「はぁ…」


 最後の一件のせいか、バラバラになって逃げていく。

 本格的に始まる前に、何処かに隠れるつもりかもしれない。


「何処に逃げても、今までの歴史では全員が死ぬ。でも…」


 女神デナは先ほど眺めていた方を見やる。

 今回で言えば北西側に暖かな目線を送る。


 そして…


「前の時代にこっそりと潜ませたアレ。そういう意味があったのじゃな。さて、我が子孫を貶めた故、少々意地悪しすぎたが…。糸のような細い運命の糸…。あの子なら奇跡を──」



 ノーマルエピローグ・異世界に召喚された四人の勇者…終わり

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