第85話 エピローグ・ユウ

「いや‼離して‼ウチはユウと‼」

「黙れ。静かにしろ。…俺たちにはお前が必要らしい」


 魔王を倒した勇者たちの裏側で起きていたこと。


 人ごみをかき分けるというよりは、全く人にぶつからずにすり抜けていく男。


 カラーズの皆は、その存在に気付いていないのか、誰もこちらを見ることもない。

 勿論、今見るべきは世界を救った勇者様に違いないのだが。


「嫌じゃ。お兄ぃも殺した…。ウチは絶対アイツらを許さんけん‼」


 見たこともない男。肌や少し褐色で灰色の髪の誰か。

 少女は彼の肩に担がれてはいるが、その体勢にも拘わらず、何が自分を運んでいるのか分からない。


「黙れ。今のお前はこの世界の人間だ。これを頭から被れ」

「何するんよ。ウチはもう…」


 ただ、頭から被った何かは、彼女の心を何故か落ち着かせた。

 世間一般には体に悪いとされているモノ。

 それはどうやら間違いなく、異物が体内に入り込んでいく感覚がある。


 でも…、この匂い…


 ただ、彼女にとっては特別な香りで、人体に悪いかもしれないけれど、入られることに抵抗を感じないモノだった。


「俺には良く分からない。だが不快って話だが、我慢しろよ…」

「…ううん。ウチは大丈夫。じゃけど、やっぱ離して‼これを嗅いでしもうたら、やっぱやらんとって‼」

「だから、喋るな。それに落ち着いて聞け。…お前の兄はまだ生きている」

「え…?嘘…じゃ。だって、お兄ぃは…」

「喋るな。とにかく、お前の兄の話で、お前が必要ってことになったんだ」


 カルタは運ばれながらも目を剥いた。

 確かに、兄が生きているなら、妹を助け出して欲しいと話すだろう。

 だけど、兄は目の前で切られて、血がみるみる床に零れ落ちて…

 治療をしようにも、自分は拘束されて。だから、何もできずに動かなくなった。


 そして、放っておかれた。


 あの時点で、鼻つまみ者のエイスペリアの人間に大回復魔法を使う者など…


「心配するな。俺の師匠の腕は帝国一だ。人体の構造を知り尽くした人だ。ただ言葉を紡いで治った、治らないと言う僧侶と一緒にするな」


 薄紫の姫はそこで目を剥いた。

 師匠、先生。彼が尊敬していた誰か。…名前は確か


「インゲ兼先生…」

「インディケンだ。どんな言い間違えだよ。っていうか知ってたのか」

「…うん。聞いたことは…。アイテベリアの生まれって…」


 そこまで話をしたところで、ボンと乱暴に投げられた。

 ムッとしたいが、頭からすっぽりと袋をかぶせられている。


「時間がない。飛ばすぞ」

「そこにお兄ぃがおるん?じゃったら、ウチが…」

「ダメだ。暫く魔法は使わない方がいい。走りにくいから、下ろしただけだ。背負うから、俺の後ろに乗れ」

「へ?…ウチ、知らん男は…」

「文句を言うな。これも俺の飼い主からの命令だ。妙なことをすると叱られるから、そういうことはしない」

「でも、ウチ。前が見えんけん」

「そのまま前に倒れろ。舌を噛むなよ…」


 勇者がユウを惨殺した場面は、まだ鮮明に残っている。

 だけど、その後に起きた奇妙な出来事で、少しばかりそれを忘れることが出来た。


「しっかり掴まれよ」

「…うん。でも…、君…、ふぇ!」

「馬鹿。口を開けるな。舌を噛むぞ」


 本当に意味不明。初めてユウと出会った時とは違うけれど、少しだけ似ている。

 彼からは何も感じない。だけど、魔法でも使っているくらいの速度で走っている。

 振り落とされないようにギュッとしがみつくと、知らない女の臭いがした。


『私のものですので、妙な誘惑をしたら殺しますよ』と、嗅いだだけで声が聞こえてきた。

 これもまた、意味が分からない。

 そんな魔法は習ったことが無い。

 そして、微かではあるが、よく嗅いだ臭いもする。


「これ、ロザリーの臭い…」

「へぇ。やっぱ女は嗅覚が鋭いんだな。…そうだよ。俺たちが動いたのは、そのロザリーって女が来たからだ」

「え…」


 マイマー家に匿われていたが、彼女とは顔を合わせていない。

 因みに、ユウと女が一緒にならないようにと通達があった。

 魔王の遺伝子を残してはならないという、ムカつく通達。

 あの草食系のユウがそんなことする筈ないのに。


 そしてカルタは兄と一緒に監視されていたが、そこにロザリーが訪ねてくることはなかった。

 いや、ロザリーの様子は最初からおかしかった気がする。

 レンに会いに行く様子もないし、家族からも距離を置いていた。


「あの女の天使はなかなかの存在らしい。その天使によると、もうすぐデビルマキアが来るって話だ。だから、急ぐぞ‼」

「え?どういう…」

「口を開けるな」


 前は見えないけれど、空気がぶつかってくるから速度が分かる。

 理由は分からないが、カラーズにも負けない速度。それから跳躍力。

 余りの不可思議な存在、ユウがいなければ彼に傾いてたかも…、その場合あの匂いの主に殺されるのだろうけれど。


「アナタは…誰?」

「マリアの所有物」

「え?…所有物って」

「あぁ、でも。今はエアリスとマリアの共有財産ってことになってるんだっけ」


 袋の中で目を剥く。


「エアリス?…あの最強のカラーズって言われる?」


 正確には帝国最強のカラーズ。ただ、それは南側が認めていないだけで、世界中の貴族でその名を知らない者はない。

 ただ、カルタの前半身の密着に1ミリも動じない男は、器用に走りながら背負いながら肩を竦めた。


「世間一般のカラーズとは違う。っていうより、お前達が言うカラーズは、勇者の子孫のことだろう」


 やはり目を剥きたくなる。ただ、あんまりやると瞼が傷つきそうなので止めておいた。

 だが、正しく彼の言う通りなのだ。

 勇者の子孫は、勇者の力に呼応してスロットに力を宿す。

 そして髪の色が変化した者をカラーズと呼んでいる。


「それは…、そう…かも」


 だけど、本来の意味は天使や悪魔の加護を、有した者に起きる髪の色の変化をカラード。

 その複数形がカラーズなのだ。


「似たような変化だし、力を有するのも同じ。そして勇者の子孫のカラーズの方が、圧倒的に多いから、そっちのイメージが強いけど。そういえば、そうじゃったかも」

「…登り坂だ。一気に駆け上がる。カラーズの力を使って良いから、絶対に離れるなよ」

「え、もう、この袋とっていいん?」

「それは駄目だ。ゲヘナの炎を越えるまでは影響を受ける」

「ゲヘナっ地獄ってこと?つまりウチは今、死んで…」


 そして、急に重力がなくなって…

 落ちていく。地獄に落ちていく。つまりこの青年は死神…


「勘違いするな。おまえ達の祖がそう名付けただけだ。袋をしっかり噛め。それが外れたらお前の時が止まる。熱いと思うけど我慢しろ。壁が崩れたら、すべてが終わりだ」

「へ?壁が…?熱い?もしかして、今向かってるのって…」

「メリアル王国だ。三百年前、最後の最後に現れた真白の勇者の置き土産…。…俺がずっと敵だと思っていた誰か。アイツだったんだな…」


 その瞬間、カルタの記憶が繋がる。

 悲しい記憶も蘇る。アイツとはユウのこと。そしてユウは…

 今被っているモノはユウで作られている。小さな袋だけど、ユウが作った世界が詰まっている。

 ユウが語る泡沫の世界。その世界は崩壊して神の時間が戻る。

 時の止まった世界がどうして動いているのか、ユウは言った。


 ——俺の心臓のリズムを万物に記憶させる。伝播させる。そしてそれが時だと誤認させる。限られた範囲でしか、狭い範囲でしか出来ないけど。


 彼は、そんな世界は間違っていると言った。

 絶対に友達に教えるから、とも言った。だけど、彼が一番心配していることが現実になってしまった。


 あの時点でカルタとカルドには、逃げ場なんて何処にもなかった。

 ロザリーが機転を利かせたが、彼女にもそんな力は残されていない。

 とんでもない人数のカラーズと、闇に包まれたエイスペリア以北の大地に囲まれて…


 ウチはユウの邪魔をした。…そして、ユウは友達に殺された


「…い。おい、生きてるか?」

「…生きて…ない。彼は…死んだ」

「知ってる。だから俺が動いてんだ」

「…どうして。どうして彼はあんなに友達を信用していたのかな」

「俺には見えなかったけど、女神の使徒なんだろ。それより、生きてるなら頼みがあるんだけど」

「頼み…?ウチには…何も…」

「ったく。そういうとこなんだろうな。とにかく回復魔法、よろしく。思ったより熱くて、俺が死にそうだ」

「あ…」


 グレイ。ユウの体術の師匠。いつかの剣闘士の乱の首謀者。

 魔法が使えないけれど、最強。ユウがいつも言っていた男。それが…彼。


「えと…。オールヒーリング……、……あれ?…ゴメン…なさい。やっぱりウチ…」

「本当にコイツで大丈夫なのか?エイスペリア殿下カルタで間違いないんだよな。人違いじゃなければ、知っている筈だ。魔法は時が止まった神の影に…」

「魔法はイメージ…。そか。えっと…、水平の彼方にお隠れになられた優しき水の女神。その名は失われても、気高き神を我らは忘れていない。いつか、その恩を返すから…、彼に水の癒しを与え下さい。アクアス・ヒール」


 閉じてしまった時の中でも、神々は生きている。意志を持っている。だから存在の代わりに影を落とす。

 実際にその世界を目にしたから、イメージやしやすかった。


「え…。凄い。ユウ…みたい」

「元々、そいつが簡略化したのがお前たち勇者の子孫の魔法って話。…使えないのは過去の遺残と、今のそいつがいなくなってしまったからって、エアリスとマリアが言ってた。まぁ、俺に分かりやすく説いてくれたのはインディケン先生だけどな」

「……」


 何がどうなっているのか分からない。だけど、彼の死を再確認するには十分すぎた。

 女神の使徒だから、あんなに優しかった?

 女神の使徒だから、世界の為にいつも犠牲になっていた?


「あっちの世界びいきして…、ウチたちのことなんて考えずに…死んじゃって…」

「さぁな。神様のことはよく分かんねぇ…。とにかく、もうすぐだ…。それに…」


 その瞬間、パチンと何かが弾ける音。

 反対側で外に出た時…?…いいや、戻った時と同じ感覚に襲われた。

 もう、なんでもいい。そう思った時…、彼は言った。

 その後、投げ捨てられたけれど。


 ——お前もその一人だったんだろ


 そして私は。


 真白の世界と呼ばれる地で、祈りを捧げた。


 最後に見た姿と子供の頃からの願望で、うまく祈れたかどうか自信はないのだけれど。


 それでも、きっと…


 ユウ——


     □■□


 カチッ…

 古臭い時計の秒針が一つ進む。


 カチッ…カチッ…カチッ…

 目の前にいる鏡の中の自分が動く。黒い髪が揺れる。

 鏡の中の時計はいつも五分遅れで進んでいる。なんてことはない日常風景だ。

 どうして自分がここに居るのか、自分が何者か分からないという非日常は存在しているのだけれど。


「遊、制服は着てみた?」

「んー。首元がきついよ、母さん」

「そういうものよ。それにそこは先生の前だけでいいのよ」

「そういうもんなの?だったら、なんでついてるんだよ」

「済まないな。父さんの趣味で学ランの学校を選んじまったんだ」


 父親と母親。だけど、二人は本当に両親じゃない。

 そもそも、自分の名前が本当に遊なのかも分からない。

 

 ——ユウ


「何?」

「何って…。そうか。学ランじゃ伝わらないか。そういう学生服を学ランって呼んでた頃があってな」

「それは知ってる。前も聞いたし。…そうじゃなくて、俺の名前を呼ばなかった?」


 慣れないけれど、遊が今の名前。

 どこか知らない場所に居た。それは何となく分かるのに、その記憶がごっそりと抜け落ちている。

 気がついたら、二人と一緒に森の中に居た。そこからの記憶は鮮明に残っているんだけれど。


「いえ、呼んでないわよ。それとも呼んで欲しい?遊…」


 ──ユウ‼遠い世界にいるユウ。ウチのこと知らんと思うけど、ウチはユウのこと知ってるよ。


「遊?どうした」


 誰かに呼ばれた。いや、そうじゃない。

 俺はこの呼びかけを何処かで聞いた?いつの間にか、知っていた?


「…父さん、母さん。俺達って何処に行ってたんだっけ」

「それは…、前にも話したけど」


 そう。二人も記憶がない。

 同じように記憶が消えている。

 だったら、これは何?何かを思い出した?


「そうだよね。ゴメン。ちょっと…考え事してた」

「やっぱり学ランじゃなくて、ブレザーにすれば良かったかの…」

「ううん。そういうのじゃなくて」


 呼びかけられたんじゃなくて、俺はこのことを多分知っているんだ。

 リアルタイムで話しかけられてるっていうか、いつの間にか、鮮明に思い出したって感じ


『ユウにちゃんと届くかな。ウチはユウのこと。大好きです。…じゃなくて、えっと』


 思い出すとこっちまでが恥ずかしくなる。

 カルタっていう子の想い。ユウっていう誰かに向けた言葉。

 いつ、どこで聞いたんだっけ。

 どんな子なんだろう。そのユウって人と遊って俺は偶然…かな


 えっと、続きは…


『覚えとる?時間軸がグチャグチャなのはゴメン。最後に見たユウの姿を思い浮かべてて。だってウチ、ユウの服の洗濯に失敗して、ユウが小さくなってくれて…。でも、アレはウチのせいじゃなくて、素材を教えてくれなかったユウの…。あ、もう時間!!えと、えと…』


 なんだろ、これ。ってか、小さくなれるとか…

 マンガかアニメかゲームだったっけ?

 こんな話、見たこと…


「遊…?貴方、どうした…の?」

「いや…、これをワシは…」


 思い出していると義父と義母の様子がおかしくなった。

 青ざめた顔?狼狽した顔?この記憶と…?

 いやいや、流石に関係ない。

 俺は多分、昔見たアニメか何かを思い出しているだけで。

 ほら、こっちに来た時、記憶を探るために色んな物を見させられたし…


 そして、このカルタって女の子の言葉は、こうやって締め括られる。


『ウチとユウはあの時、友達になったじゃん!!じゃったら、責任をとってウチを守ってよ!!』


 え…、責任…。


 ドクン‼


 あれ、胸が痛い。

 Brrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr

 スマホ?いやいや、今日着たばかりの学生服だからスマホなんて入ってない。


 でも、なんで?

 記憶が…、溢れてくる。頭が…割れそう…


「責任をとってウチを守って‼」

「いや。だって母国の命令で俺についてきたんだろ?だったら」

「ズルっこ。あの金髪には優しくしたのに」

「それはだって仲間…だし」

「ほら…。ズルい。ユウは異世界人は容赦なく殺せるのに、アイツは殺さない。友達だから殺さない。友達…仲間…友達…仲間…。それ…ズルい…」

「ズルいって言われても…」

「だからウチも仲間にして。責任をとって友達になって‼」

「どんな責任の取り方⁉カルド…、お前からも何か言ってやれ。多分、カルタは」

「…作戦は失敗。俺たちは見捨てられたに等しい。だったら俺はあのまま死んでいたろうな。まぁ、それでも俺はカルタの兄だが」

「って、それ何の話?そうじゃなくて」

「そういう話だ。今の俺にカルタを止めることはできない」


 誰との会話?この声、カルタって子?

 ゴン‼って頭突き…をして、…した相手…って俺に似てる…。

 いや、俺ではないか。俺はそんなに身長高くないし…、声も違うし

 こういう実写…ドラマ?いや…、それでも…


「ウチのこと見てない‼ウチの事考えて‼」

「分かったから‼見る‼見るから‼」

「ウチも仲間にしてくれる?友達になってくれる?異世界人でも?」

「仲間…、友達って…。…お前たちも世界に光を齎そうとしてたんじゃないのかよ」

「うん‼デビルマキアなんて、もう知らんし‼」


 意味不明、理解不能。だけど、なんだか楽しそう。


「…なら、仲間だ」

「友達は?」

「友達でもある…」

「お兄ぃは?」

「…友達のお兄ちゃん」

「うん‼それでよし‼」

「なんだ、その。友達のお兄ちゃんって…」

「お兄ぃ、魔法硝板買って」

「アレは時の勇者にしか扱えない。それに作る技術もないから何処にも売っていない」

「うーん。それじゃユウ。これ持って」

「これって確かバードメール…だっけ」

「そ…。…二羽の青い鳥…ウチたちを繋げよ。リブズコンタクト‼」

「な。俺の反対側の内ポケットに勝手に…」


 俺の右の内ポケット…に?


「え…」


 俺はいつの間にか目を瞑っていて、右胸を押さえていた。

 そして、目を開けると…。


 ——真っ白な髪、赤い瞳の少年が鏡の中にいた。


 ついでに言うと、学生服の首元から青い鳥の頭が生えている。

 窮屈だから、今にも息絶えそうな顔で悶えている。

 急いでホックを外すと、鳥はやれやれという顔をして、俺の右肩に停まった。


 それから…


「大変、失礼しました‼ワシは…、いえ私はとんでもないことを…」

「マリス様にお助け頂くだけに留まらず、私たちはこちらへ連れて来てしまって…」


 平伏する義父と義母。彼らの話については全く思い出せなかった。

 けれど…、狼狽える彼らの話を聞いて、何となく理解した。


「俺がこっちに帰す役目…。そか。だったら、それって俺の意志だよ。こんなの間違ってるって…、今も思ってるから。そういえば、時間軸はあっちが持っているんだっけ。勇者が全滅した時は、過去に戻って俺を連れて行く…。そんな感じだった…け」


 とは言え、考える時間はなかった。

 こっちの時間が流れているということは、あっちも時間が流れているということだ。

 それに…


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


 世界が揺れている。


 あっちの世界の巨大スロットが強引に押し入ろうとしている。

 この鳥がとんでもない力を持っているのか、元々俺が持っていたとされる、こっちの世界へ送り返す力のせいか。


「ゴメン。こっちの世界に無理やり繋いだから、帰らないとヤバいっぽい」

「滅相もございません。無理やり連れて来てしまったのはこちらで」

「謝らないでって。ほら、二人とも体に無理が来てるんだし。…癒しの神。遠い世界からで申し訳ないけど、二人に奇跡を…」


 オロロロロロロロロロロ…


「って、お前かよ‼」


 青い鳥がクチバシを開けて、ゲボゲボの癒しの水を吐いた。

 どうやら、青い鳥を通してあっちの世界と繋がっているらしい。

 とは言え。


「体が…。軽くなって…」

「ワシらは勝手な事ばかりしたのに…、なんてお優しい」

「ううん。えっと六年間のお返しだよ」


 あんな出し方でも、見事に二人を癒すことが出来た。

 やっぱりこの力は大きすぎて、こっちの世界のバランスを崩すだろう。


「六…年?」

「なんでもない。今までのことを考えたら償いきれない。いつか、何かで補填するよ。お義父さん、お義母さん。さよなら、本当にありがとう」


 カルタの声が聞こえて、助けを呼んでいて、しかも時間が流れている。

 ということは、女神デナが意地悪をしたに違いない。


「全く…。早く帰らないとだ。バドメくん、道案内はよろしくね」


 ——そして、こっちの世界から俺という存在が消えた。

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