第22話 ジェシカと文化祭

 私、エリム

フロンティア学園の生徒だ。


 このフロンティア学園、そろそろ文化祭が始まる。

私たちのクラスは劇をやることになった。


 原作は「百合な魔法少女」


 原作は、主人公の魔法少女、ミレムがリゼルタという少女に恋をし、付き合い、愛のパワーで敵に勝つといった内容になっている。


 で、私たちはその作品の劇をやることになった。


「はい。それでは劇の方ですが、配役を決めましょう」


 先生が、誰に配役を当てるのか黒板に文字を書きながら決めていこうとする。


「誰役がいい?」


「誰が良いかな?」


 クラス中はどの役をやりたいかで盛り上がっている。


「凄い皆盛り上がってるね…」


「そうじゃない?お芝居って楽しいもの」


「ジェシカはお芝居好きなの?」


「えぇ。昔、小さな劇団にいたわ。解散しちゃったけど、楽しかったわよ」


 ジェシカにそんな過去があったなんて知らなかった。


「ミレムは誰が良いと思う?」


 主人公のミレムは元気な魔法少女、配役に合う生徒はいるだろうか?


「いるじゃない。私、見当がつくわよ」


「誰?」


 ジェシカはミレム役が誰が良いかが分かるらしい。


 それは一体誰だろう?


「エリム、貴方よ」


「え?」


 いや、私?


「ちょっと待って!それならジェシカの方が良いんじゃないかな?」


「私よりエリムよ。合ってると思うわ。皆はどう思う?」


 大勢の生徒が頷く。


「そんなにかな...私、演技に自信ないんだけど主役やっちゃって大丈夫?」


「えぇ。私が色々と教えてあげるわよ。自信、持ちなさい!」


「じゃあ...やるよ!」


 周りが全員拍手する。


「ありがとうっ」


 そうして配役が次々と決まっていった。


「後はリゼルタだけだけど...誰が良い?」


 残りはリゼルタだけになった。


「肝心な役よね」


 ジェシカも頭を悩ませた。


「ねぇ...ジェシカこそリゼルタ良いんじゃないかな?」


「私?え、私?」


 ジェシカが焦る。


「ジェシカ良いと思う!」


「ジェシカ合いそう!」


 周りの生徒も話に乗る。


「し、しょうがないわねぇ!頑張るわよ!」


 ジェシカが乗ってくれた。


 これで配役は全員決まった。


「とりあえず台本の確認からね」


「そうだね。台詞覚えなきゃ...」


 とりあえず私は一通り台本を読む。


 が、台本を読みながらあることを思い出した。


 原作はラスト、ミレムとリゼルタの抱き合いながらのキスシーンで終わる。

劇の方はどうなっているだろうか?


 気になって台本の最後の部分を確認した。


 キスシーン、やっぱりあった。


「えっと...」


 この流れだと私はジェシカとキスすることになるのか!?


「あ...キスシーンはそれっぽくフリで良いので...」


 台本を読む私の反応に気付いた先生はそう教えてくれた。


 フリなので、キスしそうなギリギリのところまでジェシカの顔に近付けば良さそうだ。


「ふぅ」


 私は安心して一息ついた。


「...」


 ジェシカは何も喋らなかった。


 そして、練習が始まった。


「これ、使ってください」


「ありがとうっ」


 シャロリアがいる道具係が作ってくれた小道具を使って練習している。


「エリム、もうちょっと大きく振ると良いわよ」


「こう?」


「そうそう!」


 練習は順調に進んでいる。


「どう?着てみたけど...」


「可愛い...」


 ミシェルとシェシカがいる衣装係が作ってくれた衣装を着てみる。


 なんか衣装とか着たことなかったのでかなり緊張する。


「ミレムっぽいわよ」


「ありがとう。ジェシカのリゼルタの格好も凄く似合ってるよ」


「そう?嬉しいわ。ありがとう」


 ジェシカのリゼルタの衣装もとても似合っている。

私がもし、本当にミレムだとしたら、惚れていたかもしれないぐらいに。


「本番...もうすぐね。大丈夫そう?」


「うんっ。お芝居って楽しいね。私、ジェシカがお芝居好きな理由がよく分かったよ。これは好きになる...」


 舞台の上に上がり、誰かになってお芝居をする。

実際にやってみるとそれが楽しくて楽しくて仕方がなかった。


 ジェシカがお芝居が好きな理由が分かったし、この劇の練習をきっかけに私はすっかりお芝居の虜になってしまった。


「そんなに好きになってくれて嬉しいわ。こんなに上達するなんて思ってなかったもの。最初はあんなに棒読みだったのに...」


「そ、そうだね...」


 そう。

私は最初の頃はかなり棒読みだった。


 しかし、ジェシカのアドバイスのお陰で段々と上達していった気がした。


 今ではお芝居を披露する度に周りから拍手されるレベルにまで成長した。


「ねぇエリム...将来、舞台女優になったら?まだ進路も決まってないんでしょ?」


 そういえば、フロンティア学園を卒業した後、どうするか全く考えていなかった。


 劇の練習を始めるまで夢とか特に考えたことがなかったが、舞台女優の道に進むのもありかもしれない。


 だけれど、まだそこはもう少し考えておくとしよう。


「まぁ...考えておくよ。まだ本番も迎えていないからね」


「そうね。きっと本番、上手くいくわ。頑張って!」


「ありがとうっ!」


 そして迎えた本番当日


「皆、準備は良い?」


 舞台の袖で円陣を組み、私は皆に聞く。


「えぇ」


「勿論!」


 皆は準備万端だ。


 皆で今日まで繋いできた。


 絶対にこの劇、成功させよう。


「絶対成功させるよ!」


 そうして劇は始まった。


 私も皆も練習通りにお芝居をする。


 順調だ。


 そして、遂に最後のシーンになった。


「リゼルタ、好きだよ!」


「私も...ミレムが好き!」


 最後の台詞の掛け合いを行い、顔と顔を近づけてキスしたみたいにする。


 これで劇はフィナーレだ。


 照明が暗くなる。


 が、ここでまさかの。


「...好き」


 ジェシカは私にしか聞こえない。


 皆に聞こえないぐらいに小声で囁いた。


 こんな台詞は存在しなかったはずだ。


 そして。


「...受け取って」


 ジェシカは私の唇にキスをした。


「え?」


 そして、舞台の幕が降りた。

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