第21話 イリスと魔法少女

 私、エリム


 最近、メイドのイリスが何か本を読んでいる。


 けれど、何を読んでいるのかは私に教えてくれない。


 気になる。

とても気になる。


「では、入浴してきます」


「うん」


 よし、イリスが入浴したので今だ。


「えっと…これかな…?」


 イリスがよく座っている椅子を探していると椅子の下に本があった。

多分これだろう。


「何々…?百合な魔法少女…か」


 私が好きな本の百合なファンタジーと似ている。

これはどうやら魔法少女が主役の内容になっている。


「イリスも…好きなんだ」



 イリスがこういった本を読んでいるのは意外だった。

でも、本は誰でも読んで良いのでイリスが読みたくなる気持ちはよく分かる。


 そして2日後


「面白かった…」


 私も気になって次の日に同じ本を購入して読んだが、あまりにも面白かったのですぐに読破してしまった。


 主人公の魔法少女、ミレムがリゼルタという少女に恋をして、付き合い、愛のパワーで敵に勝つといった内容だ。


「語りたい...」


 せっかくイリスが好きで私も読んだんだし、この作品を語りたい。


 何かきっかけは作れないだろうか?


「あれ?エリム?」


「ジェシカ?」


 フロンティア学園の教室で友達のジェシカに話しかけられた。


「実はこの本なんだけど...」


 私はジェシカにある程度の話をした。


「なるほどね...確かにそんなに面白いなら語りたくなっちゃうわよね」


「そうでしょ?」


 ジェシカは私の伝えたいことを理解してくれた。


「それなら、その百合な魔法少女のグッズかなんか渡したらどう?」


「グッズか...それ考えたんだけどまだ知名度が出てないからないんだよね」


 そう。

この作品はまだ世に知られ渡っていない為、グッズがない。


 なので、グッズをプレゼントしたくても、不可能な話だ。


「それなら...手作りは?愛情込めて作ればきっとそのイリス?ってメイド、喜んでくれるわよ」


「そっか...その手があった!」


 ジェシカはここで手作りのグッズを作る案を出してきた。


 手作りのグッズなら自分で生み出せるのでプレゼントが可能だ。


「ジェシカ、ナイス!ありがとうっ!」


 私は珍しく、自分からジェシカに抱きついた。


「そ、それ程でも...あるわよ!」


 ジェシカは恥ずかしそうにはしたが、嬉しそうだった。


「じゃあ私、作ってみるね」


「エリム、私も手伝うわ」


「良いの?」


「作る素材とか集める必要あるでしょ?私、素材集めなら任せて!以前、ミリの誕生日に手作りのハンカチをプレゼントしたことがあるから」


「ジェシカ...ありがとう!」


 こんな手伝ってくれるなんて良い友達を持った私は幸せ者だ。


「じゃあ...何作る?」


「この主人公のミレムが持ってる変身ステッキが良いんじゃないかな?」


「良いわね。せっかくだから、衣装も作っちゃうのはどう?」


「作れるかな?」


「大丈夫よ!素材なら任せて。エリムならきっと作れるわっ!」


「ジェシカ...ありがとう!作ってみる!」


 そして百合なファンタジーの主人公、ミレムの変身ステッキと衣装作りが始まった。


「素材はこれよ!他に必要な物とかあったら言って」


「ありがとうっ!」


 ジェシカが素材を用意してくれるので私は作るのに励める。


 途中、どうしたら良いか分からなくなりそうになったりもしたが、ジェシカがアドバイスをくれたりしたのでスムーズに作ることができた。


 そして。


「できたわね!」


「うんっ!」


 ミレムの変身ステッキと衣装が完成した。


「イリス...喜んでくれるかな?」


「大丈夫よ。エリム、とっても頑張ってたじゃない。きっと喜んでくれるわよ」


「ありがとうジェシカ...行ってくる!」


 そして、帰宅した。


「ご主人様、おかえりなさいませ」


「ただいま...ちょっと今、大丈夫?」


「良いですよ。何でしょう?」


 私は、手作りのミレムの変身ステッキと衣装をイリスに渡した。


「これは...ミレム?」


「イリス...今まで言わないでごめんね?百合な魔法少女、好きなんでしょ?私、イリスと語りたいから作っちゃった...どうかな...?」


「ご主人様...私の為に...」


 イリスが泣きそうになる。


「そんな泣きそうになる程!?」


「はい...ご主人様がここまで作ってくださるなんて...」


「ジェシカにも頼っちゃったけどね...私1人じゃ...」


「誰かと協力することはこの先とても大事になっていきます。ご主人様は分からなくなったら誰かに分からないと聞ける。それはとても素敵なことです」


「イリス...」


「この作ってくださったステッキと衣装から愛情が感じ取れます...私はご主人様のメイドでいられてとても幸せです」


「ありがとうっ!私もイリスがメイドで幸せだよ」


 なんて会話をする。

イリスが、いてくれるお陰で毎日楽しく暮らせている。


 これからもずっと一緒にいたいと願う。


「イリス、せっかくだしそれ着てみてくれない?」


「は...はい...分かりました。着てみます」


 そうしてイリスはミレムの衣装に着替えた。


「ご主人様...どうでしょうか?」


「イリス...イリス...」


 とても可愛い。

とてつもなく可愛い。


「その前に...な、なんか台詞言ってみて?」


 感想を伝えたいがその前にイリスのミレムの台詞を言うところが見たくなったので頼んでみる。


「え?はい...ううん」


 イリスが一旦深呼吸をする。


 そして。


「ミレム、悪い敵さん倒しちゃうぞ!...どうでしょうか」


 これは驚いた。


 いつもとイリスとは一味違う。


 流石は魔法少女だ。


「可愛いよぉっ!」


 私はそのままイリスに抱きついてしまった。


「ご主人様!?もうっ...」


 すぐにイリスは元のイリスの口調に戻る。


「えへっ。また今みたいなイリス、どこかで見せてね」


「分かりました。ご主人様」


 後日、「百合な魔法少女」はフロンティア学園の生徒の間で大ヒットを超えて世界中で社会現象を巻き起こした。

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