第17話 少しずつ深まる親睦

 

「ミコトー!ご飯できたわよー!ゲームはやめて、はやく居間にいきなさーい」


 ゲームを始めてから早一時間。お母さんが遠慮なしに襖を横に滑らせ、ミコトに声をかけた。ちょうどミコトがプレイしているときだった。


「うん。あと二周だからまって」


「早くしなさいね、みんな待ってるんだから」


「わかってるって……。あぁ!お母さんが話しかけるから、五位になっちゃったじゃん!」


「知らないわよ。もう、そのレースが終わったら早く来るのよ」


「うん」


 お母さんの足音が遠ざかる。ゲーム画面に集中し、全神経を指に注ぐ。


 マビやタロジにゲームの先輩としていいところを見せたい。上手だと思われたい。

 ミコトのゲームを持つ手に力が入る。でも、一瞬の隙で開いた差は大きく、思うように操作をすることができなかった。


「ミコトは結局三位だったなー」


 居間へ向かう道すがら、タロジは手を頭に組み、軽い口調で呟く。


「運だって絡んでくるし、常に一位が取れるわけじゃないからね」


「本当にあのコンピューターイライラするぜ……。オイラの華麗な手捌きを邪魔しやがって……。おい、マビとミコト!ご飯食べたらまたやるぞ!あいつらにリベンジだ!」


「リベンジなの!」


 二人とも心躍らせ跳ねるように縁側の道を進む。


 相当ゲームが気に入ったようだ。楽しそうな二人を見て、ミコトの頬も自然と綻ぶ。


「あ、オイラ念のため、水浴びしたいんだけど、浴室はどこだったっけか?」


「えっとね、居間を抜けた先にあるんだけど、浴室行くのは変だから、手を洗うついでに、ながしで水浴びさせてあげるよ」


「ミコトはついてこなくていいんだぞ?」


「誰もいないはずの浴槽で、勝手にシャワーついたらみんなが怖がっちゃうでしょ?今はながしで我慢してほしいな」


 ミコトは申し訳なさそうに、眉を下げた。


 他の人々が妖怪を見えていないといっても、彼らが起こす現象はも感じ取れるらしい。


 車を降りた時、タロジの座っていた座席が湿っていて「なんでここ濡れてるんだ?」とお父さんに聞かれた。釣りの時も、タロジがイタズラをした時、不自然に水飛沫が上がったと奈緒が言っていたし、妖怪が見えてなくても、妖怪が起こした事象はわかるのだ。


 だから、先ほどお母さんが入ってきた時、ミコトがプレイしてい時でよかったと安堵した。もし、マビかタロジがプレイしている時だったら、ゲーム機が宙に浮いて見えたことだろう。


「人間なんて脅かしちまえばいいんだよ」


「脅かしちゃったら下宿させてもらえなくなるの。タロジ、人間のこと知ることできなくなるの。ゲーム、できなくなるの」


「ゲームできなくなるのは嫌だな……。くっそー、めんどくさいなぁ……」


「めんどくさくても仕方ないの。郷に行っては郷に従えなの」


「へいへーい」


 入縁が歩くたびにギシギシと音を立てる。三人の足音と三人の声が気持ちよく調和する。タロジは人間に対して毒を吐いたが、その言葉に、憎悪は宿っていなかった。三人の間には、もうわだかまりはない。


 これもそれも全てゲームのおかげだ。ゲームがミコトと二人の距離を縮めたのだ。小学校でもゲームがきっかけで仲良くなった友達がいるが、まさかゲームきっかけで妖怪と仲良くなれるとは思わなかった。


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