Overcome obstacles‐遭遇

「……いい? 目的はターゲットの調査。くれぐれも目立った行動はしないで」

「分かりました」


 カーラ西部に位置する区画……【赫飾区】

 この区は他の建物よりも大きな施設が多く並び立つ。その理由は大陸中から集められたものを加工するためだ。加工された製品はカーラ全域の店に運ばれたり、他国に輸出されたりする。ゆえにここは産業地区として重要な場所とされている。

 そんな所にアーロとラベンタは来ていた……。

 なぜ、二人がこんなところにいるかというとすべては数時間前に遡る……。


♤♤♤


 数時間前――


「あること……?」

「そうだ、おまえさんとラベンタには赫飾区で”ポータル”の探索をしてもらいたい」

「ポータル……?」

「そう――」


 二年前から発生している神隠し事件、これは『魔障』が引き起こしている……。

 魔障とは魔力と瘴気を結合したことによって誕生した魔造生命体のことだ。性格は極めて凶暴で、狙いをつけた獲物を必要に追いかけて、襲うという習性を持っている。

 だが、実はとあるものから生み出されている……。

 

「私たちはそれを”ポータル”と呼んでいる」


 ポータルは魔障を精製するための魔力と瘴気を大量に内包しており、自立して稼働している……。そのため意図的に停止させるか破壊するかしない限り、永遠と産み出し続ける。またこれは町全域にいくつも存在しており、刑査団などが対応中だ。

 だが正直に言って追いついていない……。このまま行けば、被害が拡大するのは必死だ。

 

「そこでおまえさんたちにこれの所在を調査し、可能であれば破壊してもらう」

「あの……」

「なんだい?」

「今の話とさっきの魔装具の話、何の関係があるんですか?」

「魔装具は訓練を行わないといけないという話をしたの覚えているかい?」

「はい……」


 おまえさんに魔装具を提供すると言ったがこちらも渡す以上、すぐに死なれてはかなわない……。

 だからその兼ね合いでこいつに適性があるか確かめさせてもらう。いわばこれはってやつさ。


「まぁ、こいつの扱い方を学べる絶好の機会だから悪い話ではないと思うがな」


♤♤♤


 ――この地区のどこかにポータルが……。

 魔装具とアズマの情報を得ることのできる絶好の機会……、アーロの中で気合が入る。

 とはいえ最初は何をするのか見当がつかない。調査といってもまず何をしたらいいのか分からなかった……。

 そう思っていたが、ここでラベンタが振り返る。


「まずはこの辺の魔力濃度を調べましょ」


 そう口にすると懐から何かが取り出される。


「なんですかそれ?」

「これは濃度計」


 大気中に散らばる魔力の粒子……、その濃さを計って異常がないか確かめる魔装具よ。

 この円盤の中心にはその結果が魔石を通して表示される仕組みになっているの。

 例えば、濃度が正常ならば反応はしないが異常を検知したら赤く光るといった具合にね。


「ポータルは魔力と瘴気を大量に内包している。だから異常表示が出ればそこにある可能性が高い」

「じゃあ、その反応が出た箇所を集中的に調べるということですか?」

「ええ、そういうことになるわね」


 そう答えると早速、濃度計のスイッチを押して起動させると反応を見てみる……。


「……」

「――どうやらこの辺は正常のようね」

「でもこういう工業街って異常があったらすぐに気づくもんじゃないんですか?」

「確かに魔石を利用した産業において魔力濃度は重要な要素ね」


 だけどあれにはその存在を探知されないよう結界が周囲に張ってある。だから一般の濃度計では捉えられなくて見逃されることが多い。

 けれどこれは微細なものも察知できる専用の魔装具。まぁ、私たち魔石士にとってはこういったものは加工する上で重宝するから日常的に目にしているけどね。


「へぇ……、魔石士の使う濃度計かぁ……」

「見るんだったら後にしなさい。次行くわよ」

「あっ、ちょっと……」

 

 もう少し見せてくれてもいいのな……。

 そんなことを思いながら、彼女の後を追いかけてく。

 ――気を取り直して二カ所目……、結果は一カ所目と同様、正常だった……。

 三カ所目……、四カ所目……、その後、いくつかのポイントを巡って測ってみるものの濃度計の魔石は一向に反応をを示さないままだった。

 そして次のポイント……。そこは影が多く重なる所だった。建物と建物との間は路地裏ほど狭くはないが、冷たい隙間風が吹き、どんよりとした雰囲気が漂う……。


「ここね……」

「なんだかひどく暗い場所だな……」

「大きいからね。こういう建物だと、こういった場所が生まれるのも仕方ないわね」


 そうコメントする彼女であったが少しして、『あら……?』と一言がこぼす。


「何か、ありました?」

「……どうやら当たりみたいね」

 

 そうボソッと出た言葉に首を傾けるがその手元にあった魔石の光が視界に入り、目を向ける。すると赤く、しかも透き通るような光り方をしており、アーロはゴクリと息を呑む。


「いよいよか……」

「いい? ここからは慎重に行くわよ。私の後についてきて……」


 ――コツ、コツ、コツ、コツ……

 それにしてもなんとも不気味な道だ……。外から陽の光が差し込んでいるはずなのに、目に映る光景はなぜか夜道のように薄暗い……。そういえば、アズマと再会した時もこんな道だったか……。もしかしてこれがラベンタの言う結界の影響なのだろうか?

 そんなことを思いながら歩いてると、突然ラベンタの足が止まる。


「……ん?」


 道端に何か小石のようなものが落ちており、しゃがんで拾うとジッと観察する……。


「……破片? なんですかこれ?」

「薄暗くてよく見えないけど、何かの断片のようね」


 視界が限られた中でそう言うとポケットから小さなライトを出すと光をつけ、当てる。その破片は少し細長く、先端が丸みを帯びていた。しかしその反対側を見ると欠けており、何か繊維のようなものが断面から見える。

 何かの部品だろうか? とそう思っていたが、何か違和感があった……。

 

「鉱石のようなザラザラとした感じというより、何か滑らかな感じね」

「それって金属みたいな感じですか」

「……いえ、何か成分か何かで形成されたような……、ん……?」


 周囲を見渡すとラベンタの目に何かが留まる。それは白っぽく、何やら球体のような丸みがあり、不思議に思いながら恐る恐る慎重に近づき、光を当てる。


「こ、これは――!?」


 それを見た瞬間、二人の目は大きく見開かれた……。

 照らされた先……、そこには白骨化した遺体があったのだ。


「こ、これって人の……」

「どうやらこれだけじゃないようね」


 そうまだ何かあるような言いぐさを放つと後ろに下がりながら光の幅を広げていく。すると同じようなものが他にいくつも転がっており、アーロは口元を押さえながら一歩後ろに下がる。


「うっ……! なんでこんなものがここに……」

「言ったでしょ――」


  ポータルは魔障を生み出す……。ともなれば必然的にここがその巣になってもおかしくない。この数を見ればどれだけの人間がその餌食になったのか想像したくないわね……。


「けれどこれだけ証拠ものがあれば可能性は高そうね」

「……」


 やはりこういうのは何度見てもきつい……。あの時もそうだが、人の肉が裂かれる瞬間や露出した骨を見るのはあまりにも目に毒過ぎる……。だけど、これに慣れてかなければ、魔装具を使うことはおろかアズマにだって……。

 そう耐えるように拳を握り、歯の奥を噛み締める……。

 するとそこへ突如、悲鳴が聞こえ、二人は驚く暇もなく走り出す―― 


「!?」


 現場に向かうとそこには人がおり、その前には魔獣が立ちはだかっているのが見えた。


「た、助けてくれ……」


 グルルルル……

 怯える男に魔獣は低い唸り声を出し、今にも襲い掛かりそうな体勢でゆっくりと距離を詰めていく。そんな状況を前にアーロは銃を取り出し、狙いを定める。

 大丈夫だ……、こいつの使い方は店で聞いた。あとは引き金を引いて……。

 だがそこへ一筋の閃光が横を通り過ぎ、魔獣の頭を撃ち抜く。振り返るとラベンタが銃を構えており、その銃口から煙が出ていた。


「まったく……、撃つならさっさと撃ちなさい」 

「あの……、今さっきやろうとしたのですが……」

「遅いのよ! これだと救える命も救えないわ」

「……」

「それよりやることをするわよ」


 彼女の促しに動揺するが、すぐ足を動かす。


「……あの、大丈夫ですか?」


 男の下へ駆け寄るとそっと声をかける……。

 ポータル探しの傍ら、これも大事な仕事らしい。なんでも神隠し事件の要因の一つにが挙げられている。そのため、こういった状況に目撃したら即時対応しなければならない。


「え、ああ……。あ、あんたたちは……?」

「ええと、俺たちは……」

「ここは危険よ……。今すぐに帰りなさい」

「え!? いやぁ……、どうやって?」

「案内するわ」 

「ちょっと待った……。その前に腰が抜けてなぁ、手を貸してくれないか?」


 男の要求にアーロは応じ、その体を起こす。


「ありがとよ……」

「いえ」

「ついでで悪いんだがヨォ……」


 すると男はうつむきながら顔を下へと向ける……。

 次の瞬間、顔が勢いよく前を向くとガバッと口を大きく開ける。するとその中から何か突起のようなものが出てくる。

 そして男はニヤッと邪悪な表情をすると……


「ジュっ、ジュっ……、命をくれンカ」


 そう悪意の籠った言葉を投げかける。

 しかしそれとは裏腹に突起はアーロには届かなかった……。彼の前には透明な壁が展開されており、寸前で止まっていた。

 一瞬の出来事に困惑の表情をしながらも目の前を見る。そこには赤黒く太い針が見え、危機感を感じる。


「ナ、ナゼだ……!?」


 そう、驚くが横から閃光が走るとその体に撃ち込まれる。


「チッ……、魔石士カ」


 分が悪いと悟ったのか男は後ろに下がり、距離を取ると逃げる体勢に入る。

 ――エオルフ・ソ・ウェイル

 しかし、先ほどの攻撃を防いだものと同じ壁がその周囲に展開され、逃げ道を塞ぐ……。


「やはり、魔障ね」

「ラベンタ、なんなんだあれ……」

「魔障よ。言い忘れてたけど――」


 魔障は内に取り込んだものに擬態する能力を持っている……。だから、さっきみたいに普通の人間を演じることだってできる。恐らくだけどあの道に転がっていた白骨化した遺体のどれかが擬態元なのでしょ。

 さっきやっていたことも私たちを誘い込むための罠か、単純に縄張り争いをしていたかの二択ね……。


「だけど丁度いいわ。アーロ……」


 そうクスりと微笑むと銃を収め、ラベンタは後ろへ下がる……。


「今からあなた一人であれと戦いなさい」

「え……!?」

「使い方聞いてるでしょ? だったら後は……」

「!?」


 すると背後から針が襲い掛かってきて、アーロは慌てて避ける……。


「実戦で覚えなさい……」


 そんな彼女の不気味で突き放すような言動にアーロは困惑しつつ、銃を抜き、構える――

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