Overcome obstacles-突破

 銃身の先……、そこにいるは己が初めて戦う敵。握る手に緊張が走る……。


 「……」


 間には妙な静けさが漂い、その先には邪悪な表情が待ち受ける。この狭き戦場の中、引き金にかけた指が引くタイミングを待っている……。

 はやる気持ちを抑え、引くべきその時を見定めるために……。


「――!!」


 だが、大きく開いた口から出てきた突起物はあまりにも速すぎた……。その速さは肉眼で捉えられても一瞬……、わずかに残った残像だけだった……。

 そんな予想外の展開に思わず体が地面に転がっていく。


「チッ……、当たらなカッタか。運のいいやつメ」


 狙いが外れたことに対し、男は舌を打ちつつ突き刺さったものを口の中に戻す。

 そんな中、アーロは倒れた体を起こし、て銃を構えようとする。だが、さっき自分のいた場所が目に入り、その状態に思わず体中にわずかな寒気が走る……。


「一突きであんな……。まともに喰らったら、即死じゃないか……」


 鋭くえぐれたその後を前に、恐れがこみ上げてくる。

 だが、そこで足をすくめているわけにもいかなかった。前に進むためにも必ず、この試練をやり遂げてみせる。

 そう、胸に秘めた思いを掲げ、握る手をギュッと強くし、引き金を引く。

 ――バンッ!!

 擦れるようなはじける音が銃口から鳴り、小さな光弾が真っすぐな線を描く。そして男の体を貫き、小さな穴を空ける。


 「……クク――」


 けれどケロッとしており、倒れずにピンピンとしていた。

 すると穴がどんどん小さくなっていく。まるでしぼんでいくようにその穴は収縮していき、気づけばまっさらな状態になっていた。

 この一連の現象にアーロは眉をひそめる。


「やはり、あの時と同じ……」


 傷を負っても再生する性質……、あの時はヴェルメリアがいたからなんとかなった……。けれど現状、彼女はいない……。果たして、自分だけでこの状況をなんとかできるだろうか……?

 拭いきれない不安が心の中にあった。

 『もし、できなかったら……』そんなネガティブな想像ばかりが頭の中に幾度も思い浮かんでくる。けれど……。 

 いや、これに対抗できるようにならなければ、アズマはおろか、目の前の敵にさえ勝てない。だから、何とかしてその方法を見つけなければならない……。

 そう勇気を振り絞って前に出る。だが、男の腕が赤黒く変色していくのが見える……。さらに、腕は徐々に細長くなっていき、最終的に軟体動物の触手を思わせるようなものへと変化していった。


「あれは博士がやっていた……!?」


 過去の記憶を思い出し、警戒するアーロ。

 するとその状態で急に走り出すと、横に大振りをする。腕は鞭のようにしなやかな曲線を描き、伸びていく。

 アーロは体を全体を倒し、その攻撃を回避する。だが、そこへ突起物が飛んできて、休む暇もなく体を動かす。

 そして体勢を整え、再び撃ち込むが依然として効果は薄い……。

 切り返して、今度は連続で放つ――


「……クッ、ダメだ」


 攻撃が効かないことに動揺を隠せない。

 単発で撃っても連続で撃っても傷はすぐにふさがってしまう。さらにあの長い腕と高速で飛んでくる突起物が厄介……。リーチの長い攻撃のおかげで反撃に転じるのも一苦労だ……。

 どの動作も目から離せない。油断していたら……


「……ッ!」


 今負った傷じゃ済まない……。

 頬に入った傷の血を拭い、アーロは睨みを利かせて銃を構える。


「……クク、どうだ? 俺様ガ出す攻撃の味ハ」

 

 状況はとても悪い……。距離があるとはいえ、あのしなやかで長い腕と口から飛んでくる突起物をもろに喰らえば終わりである。

 油断できない状況下、大柄な態度でゆっくりと近づく男に対して、アーロは銃を威嚇するように構える。

 どうする……? あの不死の肉体にどうやったらダメージを負わせられる……。考えろ……、あの再生する体質に何か対抗策は……。

 しかし、だんだんと忍び寄る足音に畏怖の気持ちが大きくなっていく……。『残り数キロという距離の中で果たしてその答えを出せるのか……』そんな不安が無意識的に足を後ろへ寄せる。

 

「一体どうすれば……」


 しかし、そんな時――


「単に打ち込むだけじゃ、魔障は倒せないわよ」


 外野からラベンタの声が聞こえ、振り向く。


「それってどういう……」

が存在する……。今のあなたはその表面しか見ていない……」

「湧き上がる水……」


 投げ出された言葉に対して、アーロは神妙な面持ちでその言葉の意味を考える。

 しかしそこへまたも突起物が飛んできて、身をかわすが腕にかすってしまう。

 滴る血を見て男は食欲をそそられるように少し舌をなめると腕を振り上げる。

 

「なぁ、そろそろ俺様二喰われてくレンカ」

「……」


 そして走り出すと腕を振り下ろす……。

 刹那の瞬間……、この時、アーロの頭の中は思考する。

 ――湧き上がる……、水……、基……。

 想像する、己が真に見るべき本質を……。そして連想させる、言葉と現実のつながりを……。


「元……、源……、心臓……」


 ――に……、あんたの『コア』は斬った……。


「!!」


 一筋の閃きが駆け抜けた瞬間、彼の体は迫る攻撃をいなす。そして指を銃のハンマーに掛けさせ、素早く引くとトリガーを長押しする。

 するとシリンダー部分が高速で回転し始め、銃口に光の粒子が一点に集中する……。


「確か、ハンマー部分を一度引いた状態で長押しすると弾の種類が変わるとか言っていたな……」


 光はどんどんと輝きを増していき、圧が増していく。そんな様子に男は一瞬、驚いた様子を見せる。だが、その闘争本能は消えることはなく、獰猛にまっすぐに……


「死ねェェ!」


 その腕を自ら振り下ろさせる。

 だが……

 ――カチッ

 ここで抑えていた指が離れ、ハンマーが動く。放たれた光は放射状に分散し、腕を二つに裂き、胴体を貫く。


「ギャァァァァ!!」


 その反応もさっきの攻撃とは一変して、苦しんだ様子であった。傷穴からは粒子が昇っていき、体表がどんどんと崩れていく……。

 そして最終的には――消滅してしまう。


「そう……、魔瘴を倒すには肉体全体を構成している『核』を撃ち抜く必要がある。ちゃんと気づいたみたいね」


 自ら課した試練を見事にやり遂げたその様子を目にしたラベンタは、クスリと口角を少し上げた。


「……ふぅー」

「見事にやり遂げたみたいね。まぁ、及第点ってところかしら」

「……ど、どうも」


 背後から聞こえた彼女の言葉に軽く返すアーロであったが、次の瞬間、しゃがみ込んでしまう。

 ――またあの時と同じ、脱力感が……。

 疲弊する感覚に耐えながら、意識を保つ……。そんな彼を見て、腕を組み、腰を落とすと顔を近づける。


「今の戦い方、魔障に対する”基本的”な戦い方だから覚えておきなさい……」

「は、はい……」

 

 何か脅すような言い方に聞こえたのは気のせいだろうが、絶対に忘れないようにしよう……。

 そう、心の中で小さく呟く。

 

「さて、このまま調査を続けたいところではあるけど、一旦引きね……」

「なぜです?」


 すると目の前に濃度計が出され、見てみる……。だが、そこに示された色は赤色ではなく、通常の透明色だった。

 赤色は魔力濃度が異常のときに示す色……。だけど反対に無色透明の状態であれば正常ということになる……。


「な、なんで……。だってさっき見た時は異常の状態が示されていたのにどうして……」

「さぁ……。だけどさっきの戦闘が行われていた時、あれは異常を示していた……。もしかしたら感づかれたのかもしれないわね……」

「感づく……? 誰が……」

「ポータルを護る者……、さしずめ番人ってところかしら」

「ば、番人って……!? な、なんでそんなものが……」

「そんなの決まってるでしょ――」


 ポータルには魔障を生み出す力はあるけれど、自らを自衛する力は持っていない。だから守る必要が出てくる。ともなれば必然的にそれを守護する者がいてもおかしくない……。

 おそらくさっきの戦闘を察知して、どこか別の場所へ移動させたのでしょ。


「そ、そんな……、せっかく手がかりを掴んだのに……」

「心配いらないわ。これくらい想定済みよ」


 そう言ってラベンタは濃度計を何やらいじり始める。

 すると透明な魔石に薄く赤い光がともる。

 

「まだまだ、調査はこれからよ……」

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