Is the lie true? ②

 ――どうする……。

 ヴェルメリアに近づく危険な魔の手……。アーロは思考を巡らせる。

 ……考えろ……考えろ……。

 そう自分に言い聞かせるが、やはり自分自身が無力であることに変わりはない……。

 くそ……、せめてあの時の力さえあれば……。

 心の中でないものねだりが出てしまう。だが、過ぎ去った時を望んでももう帰ってこない……。そんな現実を目の当たりにし、グッと拳を握る。


「おにぃさん……逃げて……」

「バカっ!! そんなこと言ってる場合か!」

「ふっ、逃げたところで残るのはだけだぞ。お前はそういう人間なのだから」

「く……」


 逃げてしまいたい……。だが彼女を見殺しになんてできない……。

 歯がゆい状況が続く……。

 くっ……! どちらかを選ぶなんてオレは……。

 けれどどちらか選ばなければならない……。その時間は刻一刻と迫る。けれど自分の中に判断がつかない……。


「オ、オレは……」

「……そこまでにしなよ」


 するとそこへ幼い声が聞こえ、アズマは足を止める。


アナリズ……」

「まったく、遅いと思ったら君というやつは……」


 そう声がするとコツ……コツ……コツ……と足音が繰り返し聞こえ、しばらくすると暗がりから人影が見える。

 表れたのは幼き少女の姿だった……。その少女は余裕があるような表情をしており、アズマに近づいていく。


「なんだ、これから行う行動に問題はないはずだが……」

「だけど今のはそれじゃない。イーくんに叱られてもしらないよ」

「……」


 少しの間、アズマは黙り込むと引き下がって離れていく。


「まったく普段の君は慎重なのに……悪い癖だよ」

「ふんっ」

「それにしても君は運がいいねぇ。まさかあんな上玉を引き寄せてくるだなんてね」

「だ、誰なんだ……? あんたは一体……」

「ボクの名は判……血盟の審判者さ」

「血盟の審判者……?」

「そう――ボクらは偉大なる黎天の使者アーテロン・ノーチスの一人、イミアの従順な僕にして

「最高傑作だと?」

「ちなみに彼もボクと同じだよ」

「なっ!?」


 判の口から出た衝撃の一言……。そんな一言にアーロの目は大きく見開いた。

 さっき、ヴェルメリアの口から出た耳を疑う言葉に加えて、今の発言ときた……。もはや信じられないというものはもう通用しない。

 そしてこの事実はアズマが人ならざる者ということを証明する決定的なものになったことを意味する……。


「じゃあ……アズマとの関係は……」

「もちろん、君とは【偽り】の関係だよ」


 聞きたくなかったワードが自身の耳に入ってくる……。

 正直、覚悟していた……。さっきのことを聞けば、当然彼との関係など無に等しかったことぐらい分かっていた。けれど、それを差し引いてもこうして発言として出されると、きついものがある……。

 そうアーロは胸を痛め、顔をしかめた。そんな彼に判はゆっくりと近寄り、顔を近づけた。

 

「どうだい? 今の感想は――」

「……」

「きゃはははっ、その反応を見れば聞くまでもないか」


 そのあざ笑った声は彼の心にさらなる冷たい風を吹かせる。それは痛めた心をさらにえぐるように鋭く……。

 

「ふざけないで……」

「おや、怒っているのかい?」

「人の心を弄んで……。あんたにおにぃさんの……人の気持ちの何が分かるっていうの……?」

「人間なんてもんだよ。こうやってヒビが入ったらすぐに崩れる」

「違うっ! 心があるから頑張れるの! 確かに嫌なことをされたら落ち込むかもしれない……。だけど、そうじゃないことだってたくさんある。今のアタシとおにぃさんの関係だって……」

「ヴェルメリア……」

「だから……人の心を弄ぶあんたたちが許せない!!」


 それは純粋な怒りだった……。そのまっすぐで真剣な声がその行為に対して、彼女が心情的にどう思っているかを物語っていた。

 だがそんな彼女を見て、クスッと笑う。


「……だったら、頑張ってみなよ――」


 すると背後から黒い霧のようなものが立ち込め、中から幾匹かの魔獣が現れる。そして後ずさるように後ろに下がる。


「あ、こらぁ! どこに行くの!!」

「ボクたちは暇じゃないんだ。ここでお暇させてもらうよ」

「こらぁ~、逃げるなぁ~!!」


 去っていく背中を追いかけようとヴェルメリアは手を伸ばす。しかし魔獣の群れが彼女の行く手を塞ぎ、後ろへ余儀なく下げられてしまう。

 目の前の獰猛な壁に対し、切り抜けようと構える……。

 ――さて、どうしよう……。

 魔術はなんとかいけそうだけど……原色はまだ出せない……。それに出せたとしても今のアタシでもこの数を捌くのは体力的にしんどい……。

 難航した状況下、できることに制限がある今……彼女の顔は難色を示していた。しかしその心の中はぶれなかった。

 だけど、どうにかしなきゃ! 今戦えるのはアタシだけなんだから……。もうは二度と嫌だ……。 

 そう震える手を抑え、意を決して前に出る。


 ♤♤♤


「アズマ……」 


 一方、アーロはアズマに対して思いをはせていた。

 なぜ、あいつは自分が生きていることを隠していた……? なぜ、あいつはオレと関係を構築した……? 一体何が目的だったんだ……!

 そんな疑問が脳裏に疑問が浮かび上がっていたが、やはり悔しさが多くを占めていた……。

 それにしてもオレの前にいたあいつがすべて偽りだったなんて……。

 そんな思いを募らせているうちに彼の手はグッと握り拳を作った。

 

 「あいつ、次会ったら絶対聞いてやる……」


 と決意を新たにする。

 するとそこへ隣から爆発音が聞こえ、爆風とともに煙が舞う……。中からはヴェルメリアが出てきて彼の下まで下がってくる。

 しんどそうな彼女にアーロは近づくが、煙の中からこちらを狙わんばかりの眼光が睨んでおり、緊張した様子へと変わる。

 

「やっぱり、きついか……」

「おい、大丈夫か……!?」

「ごめん、下がっててくれる……」

「だけど……その体でむちゃだ」

「だけどやらなくちゃ……。今はアタシが……うっ!!」

「お、おい!」


 だがそんな矢先、魔獣の群れが怒涛に押し寄せてくる。

 くっ……彼女はもう限界だ! どうする、逃げるか……? いや、今逃げたところですぐに追いつかれる。どうする……、あっ!?

 だが目の前には魔獣の鋭い牙の先端が見える。

 やられる!

 ――ガキンッ

 だけどその牙は届かない……。なぜなら間に透明な壁が展開して、その攻撃を阻んでいたからだ……。

 

「おいっ! むちゃをするな!」

「大丈夫だよ……アタシはまだいける……。それよりアタシのことはいいから、おにぃさんは逃げなよ……」

「ふざけるな! そんな状態で君を置いていけるか!!」


 そうだ、考えろオレ……。どうしたらこの場を切り抜けれるか……。考えろ……考えろ……。

 その時――


『……いい? 魔術というのは言霊を込めることによってはじめて起こすことができる。魔術というのは私たちにとっては身近な存在なんだ』


 そ、そうだ! 

 突然、何かを思い出したようにアーロは自分の手のひらを地面につけると意識を集中する。

 そしてスゥ……と一息吸うと口を開ける――


 『大地を巡りたる豊穣の流脈よ、わが意に応えよ……。その力、咎を祓う茨となりて悪しき者を貫かん』


 〈――ソーン・ベオーガル〉

 

 すると手を中心に周囲の地面に亀裂が生じ始める。

 深く、細かく……そのヒビはじわじわと広がりを見せ、次の瞬間……中からひしめくほどの茨が姿を現す。

 そして蛇のようにうねりを利かせ、群れに向かって急速に伸びて締め上げると管についた棘で一気に貫く。


「す、すごい……」

「や、やったのか……。ううっ!!」


 その時、覚えのない頭痛が彼の頭を襲い、体がうずくまったような状態になる。

 ……なん……だこれは……!? 急に頭が……。

 割れるような痛みが脳を刺激する……。その耐えがたい苦痛の中で見える……、一人の女の人の姿が……。


「こ、これは……」

 

 ノイズがかかる中、微笑んだ彼女にアーロの手は自然と伸びる。しかしその途中、ぷつんっ!! と途切れる……。

 次に映ったのは雨の中だった……。そんな中、口から血を流してぐったりする彼女の姿が目に入る。すると自身の目がしらが急に熱くなり、頬には涙が伝ってしまうと同時に、何か悲しみのような感情を抱いてしまう……。


「――さん」

「……」

「――ぃさん……」

「……!」

「おにぃさん!」


 そんな呼ぶ声が聞こえ、意識が現実に引き戻される……。

 そして前を向くと目の前にはその人の姿……ではなくヴェルメリアの姿があった……。


「ヴェル……メリア……」


 気のせいか? 一瞬、彼女の姿が……。確か、前にもこんなことがあったような……。

 だがさっきの幻覚はそこにはなく、その真偽を今は確かめることができない。そんなモヤモヤな空気が漂う……。


「大丈夫? 顔色が良くないみたいだけど……」

「ああ……それより魔獣は……?」

「さっきの魔術でぜ~んぶいなくなっちゃった」

「そうか……」

「それでさぁ、魔術なんて使えたんだ」

「まぁ昔、少しかじった程度には……」

「少しってことは他にも使えるの!?」

「ま、まぁ……だけどそんなに大したものじゃないからそんな興味津々な目を向けないでくれ」

「えぇ~知りたいのにぃ~」


 そんな残念そうにされても、本当に術のレパートリーなんてそんなにないんだ……。おまけに魔術を使ったのなんて、実家にいた時以来だ。あれ? そう言えば……なんで魔術を使わなくなったけ……?

 そんな疑問に対して、記憶をたどってみるがまったく思い出せない……。

 

「んん……?」


 溶けない謎が残ったまま、この場は静かな静寂が訪れる……。

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