Awakening Prelude
――あの日……全てを失った……。
「はぁ……はぁ……」
激しく揺らめいた赤い情景がすべてを飲み込んでいく……。焼け付く痛みが肌に吸い付き、視界を遮るほどの灼熱が涙を枯れさせる。そしてその奥には目を逸らしたくなるような光景が広がり、鼓動を高まらせる……。
「あ……あ……」
痛くてつらくてどうしようもないこの状況に内側から声が溢れそうになる……。
けれど……目の前にはもっと……
「あ……あぁ……」
――そこにはとびきりの
♤♤♤
「さぁ、着いたよ」
カーラ北部にある区画……
「へぇ……ここが……」
その外観は意外にも質素なものであった。魔石の店というのだからネオンライトの光が目立つ看板だとか、特徴的な造形の屋根だとか、もっと煌びやかで派手なイメージというのがあった。
事実、今まで訪れたことがある店はほとんどそんな感じだった……。だがこの建物は案外普通で、周囲に立っている民家となんら変わらない。
「なんか、意外と普通?」
「ちっ! ちっ! おにぃさん分かってないねぇ~。こういうのは中に入るまでは分からないんだよ」
二ヒッとそんな含みのある笑みがヴェルメリアから出る……。
――カラン……コロン!
「たっだいま~!」
中に入ると知っている光景が目に入ってくる。
中央と左右の端に棚が並んでおり、その中にはいかにも高級そうな装飾とともにいろいろな魔石が鈍い光をちらつかせていた。また正面奥のショーケースの中には戦闘用の魔装具がズラリと並び、心を躍らせる。このワクワクさせるものこそが魔石の店というものだ。
「おかえりぃ」
そんな中で軽やかな声がすると一人の男の姿が見える……。眼帯で白い長髪を後ろで束ねたその男は飄々とした雰囲気を漂わせており、澄んだ表情をしていた。
「で、どうだった?」
「ねぇ! ししょ~、聞いて聞いて」
すると開幕早々、ヴェルメリアが嬉しそうにすると子供のようにはしゃいだ。
「どうした? やけにうれしそうに……」
「あのね、今日アタシね……すっごいものを見たんだよ」
「凄いもの?」
「うん! アタシと同じものを持ってる人がいてね……もうね、すごかったの!」
「ほう、それでそれを持っているのが彼と?」
「そうなのそうなの!」
彼女の反応を見て、男はなだらかにアーロを見た……。
「初めまして、ライターをしておりますアーロ・ガーナーと申します」
「弟子がずいぶんと世話になったようだね……」
「いえ、そんな……」
「まぁまぁそうかしこまさんな。楽に行こうじゃないか」
そう添えた手を向け男は爽やかに場の緊張をほぐす。
「改めて魔石商店【コーラル・ガーデン】のオーナーを務めるルーファスだ。よろしく」
「早速なんですが……」
アーロはここに来るまでの経緯を話した。仕事でカーラを訪れたこと、その際にヴェルメリアと出会ってこの場所を知ったこと、そして騒動に巻き込まれて首飾りが
「なるほどねぇ……つまりおまえさんがここへ来たのはその首飾りについて知るためと?」
「はい……しかしどうも分からないことが多くて……」
あの時、
「原色の魔石ねぇ……。で、実際どうだった? メリアよ」
「ん~……口で説明するのは難しいけど、なんかこう……懐かしい? ような感じだったかな~」
「ほう? 懐かしいとな?」
「ん……なんというかね、知っていたかのような感覚がしたんだよね……」
『うぅむ……』と一言置き、ルーファスは手を顎に当てると少し沈黙し、考えると『なるほど……』と一言こぼす。
「あの……何か分かりましたか……?」
「おまえさん、原色について知りたい……そう言っていたな?」
「ええ……」
「では、まず魔石の基礎から振り返ろうか」
――この世のあらゆるものの中には等しく万物を形成する粒子が流れている。これは魔力とも呼ばれ、生命の流脈としてこの世界の中を駆け巡っている……。そしてそれが長い年月を経て一部に集中し、結晶と化した鉱石を魔石と呼んでいる。この結晶は内に運動性のエネルギーを秘めており、魔術補助の道具として用いられていたが約1000年前……1人の魔術師がそれに術式を施して加工し、普及させたことで国や街は大きな発展を遂げた。以来、今日までに多くの魔石士がその発展に貢献しているというわけだ。
「さて、ここからが本題だが……おまえさんは【創世の色彩録】は知っているかい?」
「確か……世界創世神話についての本……でしたよね?」
「そう、世界で最も知られている神話だな……」
かつて……この世界は無限に広がる無に満ちていた……。だがある時、そこに2つの色が生まれる。
一つは調和を紡ぐ【永劫の
しかしその器には死界と生界……二つのものが入り混じる不安定な状態にあった。そこで双方は二手に分かれ、役割を担うことにした……。これにより生の循環と死の循環という二つの概念が生まれる。そして間に
この時、鵠はその安定が強固になるように己の分身とも呼べる存在を6つ創り出した。【
7つの色に輝くそれは器に匹敵するほどの広さを持ち、安定を固定する契りとなって、理を強固なものにする。しかしそれにはもう一つ機能があった……。それは生を育む揺りかごとしての側面である。これにより生命が誕生し、後に文明が築かれることとなる……。
こうして色たちは自身の役割を終え、主とともに揺りかごの中で永劫の眠りへとついていった……。
「さて、ここで注目すべきは途中の色の件と最後の文だ」
――紅、蒼、綺、翠、茈、橙、それぞれの色たちはその役割を終えた後、揺りかごの中で眠りについた。そしてここで言う”揺りかご”とはわれわれが今立っているこの大地……つまり世界だ。ここでさっき話した魔石の話を思い出しほしい。
この世界には生命の源である流脈が流れている。そして、その一部が結晶と化したものが魔石だ……。この意味分かるかい?
「揺りかごと魔石……まさか!?」
「そう、つまり原色の魔石というのはその色が宿った魔石のことを指す名称だ」
「じゃあ、世界を担った力の一旦というのは……」
「もちろん、その膨大な力のことを指すのだろう……」
「……」
アーロは己の胸に手を当てると少しの間、黙り込んだ。それはさっきまで持っていたものが改めてとんでもない代物であると実感したからである。
まさか、自分が持っていたものが神話に出てくるようなものだとは思いもしなかったし、ましてや神話なんておとぎ話のような空想上の話だと思っていた。けれどヴェルメリアの発言やルーファスの話を聞いて、少し現実味が出てきたような気がした……。
「一ついいですか?」
「なんだい?」
「あの時……銃が現れた後、首飾りがどこにも見当たらなくなったのですがそれも関係があるのですか?」
正直、不思議に思っていた……。本来、加工した魔石には
この一連の疑問に対し、真剣な眼差しとなって彼から出ていた。しかし、帰って来たのはくすりと笑った顔だけである……。
「さぁて……どうかな? それは自分に聞いてみた方が早いんじゃないかい?」
出された回答に頭がこんがらがって、首が傾く。
「? あの……言っている意味がよく分からないのですが……?」
「要は己の胸に聞くということだ」
意味が分からない……。自分に聞く? 一体この人は何が言いたいのだろうか?
気を取り直して、質問を変えることにする……。
「ではあの騒動で出くわした魔獣は一体何なんですか?」
「そうだな……一つ言うと、さっきの話に付随しているものというべきだな」
「神話で出てきた輪廻の黎のことですか?」
「さぁて……どうだろうな」
「なぜ、答えないのですか!」
「そりゃぁ、そこは自分の目で確かめる方が理に適っているでしょ?」
「そんな、納得できません!」
そうアーロは強く訴えるが飄々とした態度の前では何もなく、彼は内心、イラつきを覚えてしまう。しかし、仕事に私情は禁物……その感情をグッとこらえるがこのままでは埒があきそうもない……。
「……分かりました。また日を改めてここに来ます」
「ああ、そうしてくれ」
「おにぃさん……」
納得いかないまま早々に店を出ていく彼を見て、ヴェルメリアは不安げに見届ける……。
「ししょー、なんで教えてあげなかったの?」
「まぁ、簡単に教えては面白くないでしょ? ほらぁ、物語だってネタバレを喰らったらつまんなくなるし……」
「でも……!」
「そんなに心配しなさんな。それに……」
心配そうな表情の彼女に対し、ルーファスは明るく振る舞う。しかしその表情は何かを案じるようにも見えていた……。
「必要なことなんだ……克服というものは……」
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