an encounter with scarlet⑤

「……動けッ!! 動いてくれ――」


 伸びゆく強大な魔の手を前に、アーロは己の体に訴える……。それは目の前の化物や全身からくる痛みによる恐怖から逃れるためではなかった。

 あるのはたった一人……。目の前の少女を助け出すこと。それだけが彼をそうさせる……。


「クソッ!! 彼女だけが希望なんだ……! 彼女だけが……」


 しかし体に刻まれた二つの深い傷と脚のけいれんで動くことすらままならない状態であった。

 そんな不甲斐ない状態に対して、苛立ちと焦燥感が生じる――

 

「くぅ……!」


 だがそんな時突然、首飾りから光が――


「な、なんだ!?」


 キィィィン!!!

 光はどんどん強まる。それは太陽のように眩く、周囲を照らすほどの輝きとなって周囲を飲み込む。

 そして次の瞬間、目の前の視界は一瞬にして白く染まっていった――

 

「……」

 

 光が収まってしばらく……、目が開く……。

 目の前は何か変わった様子はなかった……。同様に自身の体にも特に変化がみられるわけでもなく、アーロは首を傾ける。

 けれど右手が妙に重く、違和感があった……。

 銃……? 幻覚か……? だけどこのずっしりとした重量とひんやりと冷えた金属の感触……まるで本物のようだ……。

 

「クックックッ……何ガ出ルト思イキヤソンナ豆鉄砲ダトハ……」


 するとマークはあざ笑うように拳を振り上げる――


「ズイブント軽イナッ!!」

「……!」


 駆け巡る刹那の一瞬……それは彼の直感を刺激する。時間にして僅か0.5秒。腕が反射的に上がり、強く引き金を引せる。 

 バンッ!!!

 その瞬間、衝撃とともに大きな音が響き、スライドが後ろに引かれると同時に銃口には黄色いエネルギーが収縮し始め、放たれる。その軌道は直線で、線を描きながら進み――マークの腕を一瞬にして吹き飛ばす。


「ギャァァァァァァァッ!!!」


 その威力はマークの口から断末魔を引き出し、怒りの形相を露わにさせる……。 


「……コッ、コノォッ!! 残飯ノ分際デェェェ!!!」


 怒りに燃えたぎる腕がアーロへと迫る。

 だがこの時、再度放たれた黄色い弾丸の前では意味をなさず、腕は砕け散っていく……。 


「グガガガ……ナゼダ……。ナゼ……アンナ銃弾ゴトキデコノ俺ガ……」


 自ら味わった目を疑う体験に、マークは解せないという顔つきでいた……。


「俺ノ腕ヲ消シ飛バス程ノ威力ダト……。ア、アリエネェ……ダガ、アレハ間違イナク……」


 その時、背中の管が撃ち抜かれ、ヴェルメリアの拘束が解放される。

 力尽きるように倒れる彼女に不安げな表情を浮かべ、その体を起こしていく。


「……おにぃ……さん」

「……よかった……」

「もう……無茶して……」

「すまん……だけど放ってはおけなかったんだ……」


 彼の言葉に彼女は少し驚いたような表情を浮べたが、すぐに安らぐような表情をする。

 そして――


 「ん……ありがと……」


 そう口にする。

 この時、2人の間には穏やかな雰囲気が漂った。それはうまく混ざり合った絵の具のように美しく調和された色の様にはっきりと。

 しかし――


「クックックッ……マサカ、コンナコトガアルトハ……」


 一人の歪んだ声がそれをかき消す……。


「素晴ラシイッ!!」

「……」

「ソノちから……マサカ、2度モ見ルコトニナルトハ……」

「何のことだ……」


 投げ出された問いに、マークはニヤリと顔とする……。


「分カラナイカ……? オ前ガ持ッテイルソレハッ、ソコノ小娘ト同ジ魔石……ツマリ世界ヲ担ッタちからの一端ダッ!!」


 これを聞いてヴェルメリアの目は大きく見開いた――


「……おにぃさん……それ本当!?」

「分からない……。だけど、首飾りが光った後、これが手に……」

「……」


 難しい顔で沈黙する彼女の姿を見て、アーロは首を傾けた……。


「アア……早ク……早ク……喰イタイ……」


 しかしそんな中、猛獣のような目つきが2人を捉える。


「今スグオ前ラヲ……グ"ガァ"ァア"ァア"アァ"ッ!!!」


 うなるような咆哮を上げ、その足は駆け出す。その姿は飢えた猛獣のように獰猛で、もはやそのものと言っていいほどであった……。

 そんな彼に向けて、アーロは引き金を引く。

 だが――


「なっ……!?」


 何も起きなかった……。もう一度、引いてみるが、結果はやはり同じである……。


 「クッ……!」

 

 さらに視界が揺れ、体全体に脱力感が走る……。

 体が怠い……。ダメだ……体がふらつく。

 グラッ……

 視界が傾いて、体が落ちていく……。

 

 「……!」


 しかし、とっさに前に出し、グッと力を振り絞る。

 ッ……。

 そして標準を定め、指を引く……。だが今度は硬直してなかなか下がらない……。あと数十秒……マークとの距離がだんだんと縮まり、もはや万事休す……そう思われた……。

 しかしそこへ下から伸びた手が彼を支える――


「ヴェルメリア……」

「大丈夫……おにぃさんだったらきっとできるよ……」


 そう言った彼女の手は温かく、何とも言えない安心感を覚える……。

 ああ……なんて落ち着くんだろう……。

 昔……彼女のような温かさを持った人がいたような気がする……。

 もしかしたら、俺はあの人の影を見たからあの時、彼女を……。

 

――違うよ……。


 ……!

 突然、聞こえた声にアーロの目は見開き、周囲は時が止まったように静止する……。

 この声は……の……


――君は感じたんだ交差カルマを……

 「カルマ……?」

――そう、永劫を巡る彩の環……その流れの中で君は彼女にを無意識のうちに感じ取ったんだ……。そしてその調色まじわりが君の中に眠るモノを刺激した……。

「刺激? 一体何を……?」

――君の中に存在する…………と言えばいいのかな……。それが彼女というそんざいによって呼び起こされ、形となった……。


「根源となるモノ……」


 【色彩は一にあらず、幾千の調べからなっている】

 

「そうだ……! あの言葉がきっかけで……」

――思い出したようだね……。君にとって力の源であり、きっかけだ……。だから……それを――


 声が途切れ、周囲が動き出す。

 カチャ……

 そんな中、もう片方の手がグリップエンドへと伸び、銃口には光の粒子が集まっていく……。

 ああ……、なんで忘れてたんだろう……。

 未知を知ろうとする意志、考えを現実へ移す行動、己の中で知識が増える喜び……、それは――


「好奇心だ……」


 引き金を引いた瞬間、鮮やかなオレンジの光が放射状に線を描く。その光一つ一つが螺旋を描き、回転を帯びる。

 そしてその螺旋は一つに結合して収縮するとマークの体を貫き、小さな穴を開ける……。するとその周囲には細い痣が浮かび上がって行き、根を張るように広がっていく――

 シュゥゥゥゥゥ!!!

 そして次の瞬間、体表から蒸発するように粒子が上がっていき、亀裂が入るとその隙間から光が溢れ、マークの体は溶けるように散っていく……。


「ふぅ……」


 そんな様子を見届け、アーロは一息つくと同時に腕を静かに下げる……。

 

「おにぃさん……おにぃさんはやっぱり……」

「『やっぱり』……なんだよ?」

「……ううん……なんでもない……。それより怪我!」


 慌てた様子の彼女であったが、当の本人はぽかーんとした顔をする……。

 怪我……? ああ……そういえば……。 だけどその割に……。

 不思議に思い、負ったカ所に触れてみる……。するとなぜか傷がふさがった状態になっていた。

 そういえば、状況が状況だったから忘れてたけど、一度死んでいるんだよな……? それに首飾りもない……。

 謎が謎を呼ぶ不可解な現象、そんなモヤモヤが残る中で時間は過ぎていった……。


♤♤♤


その後、会場には刑査団による事後処理が行われた。

 アーロはこのことについて事情聴取を受けたがそんなに時間がかからず、すぐにここを出るように指示されることとなる……。

 狂気の研究家が起こしたこの凄惨な事件は後に【血の惨劇】と呼ばれ、世に知られることなった……。


「なぁに、難しそうな顔をしてるの?」


 外へ出てしばらく、俯くアーロを見て、ヴェルメリアは不思議そうに聞く。


「ん……? ちょっと考え事……」

「ふぅん……。あ、そういえばさぁ、お店に案内するって約束したよね?」

「あ? ああ……だけど今はちょっと……」


 そう素っ気ない返事をするアーロであったが彼女の手が彼の手を握る――


「行こッ!」


 またこの子は……

 この瞬間、頭の中で考えていた事が吹き飛んでしまった。それもそのはず、こんなキラキラした瞳に照らされたら誰だってそうなってしまう……。だけどそこが彼女の良いところではある。だけど……

 距離の詰め方が難点だ……。


「ね!」

「お、おい……!」

 

 『早く早く!』と言って満面の表情で手を引っ張るヴェルメリア……。その様はさっきまで剣を握っていたとは思えず、さながら年頃の少女のようであった。

 そしてそんな引っ張りが彼を街中へと飛び込ませ、溶け込ませる……。

 一つの都市の中で2つの色が交わった……。その出会いは新たな色彩を生み、彼らを羽ばたかせる。

 しかしこれはほんの一部に過ぎない……。

 これは色と色が交差する【調色】の物語……

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