第九話

「外のことが気になりますか?」


 尋ねた住職に、幸福之助は目を瞑って首を横に振りました。


「その方がよいでしょう」


 住職は頷くと、部屋を出て本堂の方に帰っていきました。あの手紙は、幸福之助の状況を見かねた住職が、俗世を離れて、この山奥の寺で暮らすよう勧めたものでした。世界のすべてが敵に回った今、彼には他人と繋がる理由はありません。すべての通信機器を手放し、人間関係を絶ちました。外界の情報が入ってこないのですから、もちろん自分が世界のお尋ね者になっていることも知りませんでしたし、住職もそのことは伝えませんでした。


 庭の木々と自己を見つめる毎日。今の幸福之助にとっては、その穏やかな日々が宝物でした。


 そして、カウントダウンは終わったのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る