第八話
さらに一週間が経つと、事態は次の展開を見せました。同日、同時刻、各国に記された名前がすべて別の文字に変容したのです。それは長い人類史のどの文明を参照しても類するものがない未知の文字でした。
同時に、同じ文字で書かれた巨大なメッセージが空に浮かび上がりました。世界のどこからでも、昼夜問わずいつ見上げても、それは同じように見ることができました。
メッセージは二行で構成されており、二行目は全部で十種類の文字だけで書かれていました。末尾が一秒おきに決められた順序で別の文字に変化し、十回目の変化でまた元の文字に戻ると、同時に左隣の文字が一度だけ同様に変化することから、おそらく十進数のカウントダウンであろうと予想されました。果たしてカウントダウンが終わると何が起きるのか。謎を解き明かすべく各国の言語学者が一行目の解読を試みましたが、遅々として進みませんでした。手がかりとなる文字の数が少なすぎるのです。
しかし、実際にはこの時点で解読に必要な文字はすべて出揃っていました。「シール事件」を隠匿した国が多かったせいで文字が一処に集まらず、解読できなかったのです。
※ ※ ※
カウントダウンがゼロに近付くにつれ、終末論が世界中を席巻し、人々の心は不安と怒りで満たされていきました。空に何が書いてあるのかはわかりません。しかし、理解ができないものに対して、人は最悪の想像をするものです。
カウントダウンが残り一ヶ月を切るに至り、ようやく国際サミットの場ですべての文字が集まり、本格的な解読作業が始まりました。はじめからそうしていればよかったのですが、このサミットのきっかけですら、お互いのスパイ活動による秘匿情報の漏洩だと言いますから、無理な相談です。
※ ※ ※
"はじまりの男"
その解読結果を導き出したとき、カウントダウンはすでに残り三日を切っていました。
「大平和 幸福之助を探せ!」
彼を連れてくれば解決するなどとはどこにも書いてありません。ただ、「はじまりの男」に関する何かのカウントダウンであるということだけです。しかし、人々は勝手に彼に一縷の望みをかけ、大捜査網を敷きました。
日本政府は真っ先に幸福之助の家に押しかけましたが、一体いつからなのか、すっかり埃の積もった空き家になっていました。別れた奥さんを見つけて問い詰めましたが行き先は知りませんでした。日本……いや、世界中の人間が幸福之助を探しました。しかし、この広い地球上でたった一人の人間を見つけ出すには、あまりにも時間が足りませんでした。
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