第2話 とある研究員
私の名前はD・S。
私はとある研究施設の職員だ。
施設は巨大で、職員の数は数えきれない。
そんな施設での私の立場は、とある研究プロジェクトのチームリーダー。
数名のメンバーをとりまとめ、器というものを完成させるのが目的だった。
器。
それは人の心を強制的に操るものだと聞かされている。
願いを叶える素晴らしい宝のようなものだと。
具体的な話は聞いていない。
聞かなくても、完成させれば分かるとだけ聞かされていた。
そんな私が勤めている研究室は、44044XX44044号室。
その部屋に用意されたのはたくさんの被検体。
どこかから連れてこられた、人間たちだ。
被検体は全て心が壊れていた。
だからどんな実験をしても、泣き叫んだり、逃げ出したりしなかった。
私はそれらに対して、非情に扱いやすいという感想を抱いた。
ただの物で道具だからだ。
けれども、それ以外の感情を抱く事があった。
それは歌をうたう被検体に出会ったからだ。
その被検体の歌は、なぜか懐かしく感じた。
私は気が付けば、その歌を何度も繰り返し聞いていた。
そのために、こなすべき実験をいくつか行わなかった。
定期的に投与すべき薬物がなかったからなのか、それともその被検体が特別強い個体だったからなのか。
それは徐々に心を取り戻していた。
「あなたの名前はなんですか」
私は名乗り、 彼女も名乗った。
それからは特別綴ることのない日が過ぎた。
だが、それらの日々は消え去る。
私はもう一度彼女に会いたかった。
だから、箱庭を作り、複製を作りあげた。
でも、どんなに似ていても、それは彼女ではなかった。
だから壊した。
また、彼女に会える日まで、私は何度も繰り返すつもりだ。
あと一度。
たった一度だけでもいいから、私のためにあの声で歌を歌ってほしい。
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