3話

さて、敵を切り倒しそれなりの人の目につきそれなりに偉い人達がある丸場所に連れてこられた自分は、この場所から敵意を感じないため当初の目標は果たせたと感じていた。


「我らをお救いいただき感謝いたします」

「いえいえ、私は人の子を救うために神に遣わされた存在。当たり前のことをしただけではありますが…その感謝、ありがたく頂戴いたします」


自分が神の使いであることを言うと彼らはざわつき始めた。


「なるほど…その尾もありえぬほど強力な力も神の使いであれば説明はつくか…」

「ええ。それと神から伝言がございます」

「それは…」

「あの穴は時間経過でどんどんと大きくなり、最終的には人の子では対処できないほど強い怪物が産まれます」


頭の中に書いてあった言葉をそのまま伝えると彼らのざわつきは大きくなる。

自分は手をかざしてでざわつきを制すると、言葉を続ける。


「少なくとも100年間で戦いを終わらせなければ人の子に勝算は無くなるでしょう。そうなる前に自分が何とかしますが、自分だけでは全ての人の子を救うことができない、あなた方の武器がどんどんと発展し、穴から出てくる怪物と同等かそれ以上に強くしなければいけないでしょう」

「…」

「この国は鎖国状態であると神からお聞きしました、それでは技術の発展は大幅に遅れるでしょう。どうか上の者に掛け合い、すぐに鎖国を時技術を学び吸収してください。このままではこの町はすぐに怪物の巣となり果てるでしょう」


沈痛な面持ちの周り。恐らく何となくだが彼らの頭の中ではこれ以上このままの武器では持ちこたえられないという事は分かっているのだろう。


「…あいわかった。お上に掛け合ってみましょう。…もし南蛮の者達がこの国に無礼を働こうとした場合、貴方様も我ら人の子を守っていただけないでしょうか?」

「分かりました。私も手を取り合うことを望んでいます、侵略等もっての外。その言葉お約束いたしましょう」

「ありがたい!おい、まずは将軍から話を付けるぞ。急げ!!」

「はっ!!」


とりあえず自分の役目は一旦ここまでかな。

それまで自分の力を少しだけ出して完全に人の子の味方であることと、すごい力を持ってることを見せて「神から遣わされてるよ~」という事を証明しなければ。


「そこの方、私も戦闘の事後処理を手伝わせていただいてもよろしいでしょうか」

「えっ!は、はい!こちらです」

「ありがとうございます」


自分は先ほどの戦場に連れてこられると、多くの者達が崩れた壁や怪物の死体等を片付けていた。

少し遠くの場所では怪我人が倒れており、かなりの重症で呻いている声も聞こえる。


「ふむ…中々に辛そうですね」

「はい。幕府の命令もあり、各地から戦力が集まってはおりますが、この江戸がそれほどの人数を抱えられるほどの準備を整えられておらず、穴を囲うように作られた壁もまだまだ見てくれだけの物であり、大襲撃を止められるほどの強度を持ち合わせておりません」

「なるほど、それでしたら私が人手を増やしましょう」


手に札をイメージすると3枚の光る札が現れる。それを投げると頭上に三つの穴が現れる。怪物が現れる穴のように空間が引き裂かれたような物ではなく、円のような穴から現れたのは狐の巫女、筋骨隆々な角が生えた鬼のような者、大量の道具を持つ小人。

それが数十人程度現れる。


「あなた方に命令を与えます、貴方は重病人の治療を、貴方は瓦礫や怪物の死体の片づけを、そしてあなた方は壁の修復を。ですがすぐに行っては驚かれるでしょう。この方についていきなさい」


全員が頭を下げると隣に居た方の後ろに控える。


「こ、この方々は?」

「私の眷属のようなものです。どうかお使いください」」

「かたじけない。その前に恩人の名前を伺ってもよろしいでしょうか。私は巴こうぞうと申します。」

「こうぞう殿ですか、私に名前は無いため狐とでもお呼びください」

「お狐様…はっ!それでは私は苦しんでいる者達のところへ行きます。お狐様には私の部下をお渡ししますのでなんでもお申し付けください」

「分かりました」


部下一人を残し彼は眷属を引き連れていった。


「さて、私もできることをいたしましょうか」


と言ってもさっきの眷属だけでほぼ問題はないが、皆に印象付けるために何かはしたい。尻尾を使うときの感覚の練習でもしてみるか。

鎧武者の状態を解除し、巫女の姿へと変わる。


「お、お美しい」


こうぞうさんの部下が自分の顔を見つめ呟く、その言葉に気づきそちらを向くと部下はすぐに膝をつけて頭を下げると謝罪の言葉を口に出す。


「も、申し訳ございません!あまりに美しく言葉に出てしまいました!」

「いえいえ、気にしなくてもよろしいですよ。さあ、顔を上げてください。私達も手伝いに行きましょう」

「はっ!!」


自分は瓦礫や死体が散乱している場所へと向かうと、九本ある尾を手足のように使い瓦礫や死体を持ち上げる。


「(ふむ、50Kgぐらいは軽く持てるか…)」


指定された場所に瓦礫や死体を置く。


「怪物の死体はいつもどうされてます?」

「燃やして灰にしております」

「ふむ。それでしたら私の手で灰も残らず燃やして差し上げましょう」


手を下に翳し「燃えろ」と念じると怪物の死体だけが一瞬で燃え、言った通り灰も残らず消えてしまった。


「ふむ。ちゃんと死体だけ燃やせましたね。さあ、次に行きましょう」


力の程度を確認出来て満足した自分は野戦病院へと向かう。

そこには自分の眷属達が力を使い、少しずつ傷を癒している姿があった。周りの人達に感謝されており、関係が拗れてはいないことに安堵した。

1体の眷属が近づき、状況を説明してくれる。


「死に際の重傷50、骨折や欠損等の中傷者140、軽い傷の者達も含めこちらでできることはいたしました。現在この場での死者は0です」

「分かりました。重傷者はこちらでやっておきますので、引き続き中傷者の手当てをお願いいたします」


頭を下げて下がる眷属を横目に自分はいまだうめき声が上がる重傷者のところへと向かう。一応眷属達の処置により黄泉から引きずり出されたと思うが、いまだ傷は深い。


「祝詞等の大層なものはございませんため、こちらで勘弁してください」


手を叩くと重傷者たちの周りに小さな光が集まる。それは傷をどんどんと癒していき、目を失った者には新たな目を、四肢を失った者には新しい手足を、内臓に傷がついていた者は傷が塞がり、死ぬ可能性のある傷はすぐに癒えた。


「ふぅ…だいぶ疲れますね」


疲れたなんて嘘ではあるが、こうでもしないと疲れたふり人はすぐに縋って怠惰になると頭の中に書かれているので芝居をしておく。汗も出しておこう!


「ありがとうございます。後はこちらで」


眷属が自分の額を袖で軽く拭ってくれると、自分はこの場を離れようとする。


「お、お稲荷様方!我らを助けていただきありがとうございます!」


負傷者達から聞こえてくる声に振り向くと、そこには正座でこちらを拝んでいる者達が居た。


「できることをしたまでですよ。これからは共に戦い、この国を守ってい行きましょう」


その言葉に彼らは涙を流し、頷いた。

これで自分の存在は多くに知られるようになっただろう。後は将軍に話をしにいった武士の人がどうなるかだけど…。まあ、うまくいかずとも手段はまだある。

自分はこのままここにいる人たちに自分の存在を刻み付けていこう。


自分は戻り、壁の方へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

属性過多転生  @danboru1232

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ