episode12:【新人さん】
会社によってにはなるが、人の出入りが激しい会社も中にはあるだろう。働いてみないと、会社の内情は分からないし、思い描いていた仕事内容と食い違っている場合もある。葬祭業は特にそうかもしれない。
「あれ? この間入った新人さんは?」
「あー……えっと、どの人の話ですか?」
「どの人って言われても……」
「うちの会社、一か月に何人も入って一人残るか残らないかなんで……。新人さんのこと、いちいち覚えてないんですよ」
「……大変ですね」
「はい。教えてても、【すぐ辞めるんだろうな】って考えながら教えてます」
火葬場は、市内・市外の葬儀社が利用している。そのため、葬儀社同士で話をする機会も多い。だいたいは、【新人】の話。「新しく入ったんだよー」と嬉しそうに話す者もいれば、「うちじゃない所に行くって……」と肩を落としている者もいる。年齢層も高いため、20代の人が入社した日には、「おめでとう!」「よかったね!」と、別の会社なのにみんな自分のことのように喜んでいる。
ただ、続くか続かないかは新人さん次第。
「お疲れ様です!」
「……あー、お疲れ様」
火葬場には売店があり、売店さんたちは歴が長く、人の移り変わりも目にしている。いつも通り、挨拶をして待合室の準備をしていると、お世話になっている料理屋さんが「新人さん入ったんだって!?」と部屋に入ってきた。が、部屋には私しかいない。
「え、何の話ですか?」
「え、新人さん連れてきたって、さっき売店さんが……」
「え、誰が?」
「え、あなたが」
「え?」の往来が続く。驚いている私の顔を見て、業者さんも驚いている。
「なんか、若い女の子連れてたって」
「……私が?」
「そう。だから、『新人さん入ったんだね!』『若い子入って良かったね!』って話してたんだけど……え?」
「え……ご覧の通り、私しかいませんけど……?」
「えぇー!!!!!」
怖くなり、業者さんと手をつないで売店さんのところへ向かった。
「あれ? 新人さんは?」
私を見るなり、売店さんはあたかも一緒に誰かいたような口調で言う。業者さんが「新人さんいなかったの!!」と言うと、売店さんも「え!?」と驚いた声を上げた。
「ちょっと、待って! だって、さっき挨拶にきたとき、隣にいたよ?」
「いやいやいや! うち、新人なんて入ってないですし、今日私だけですよ?」
「え!? だって、普通に隣にいたよ? ペコッて会釈してたもん。ニコニコしながら」
「えぇ!? ちょっと待ってください!! 私の隣にですか!?」
「そう。可愛らしい女の子。……じゃあ、私が見たのって──」
「あー!! その先はやめましょう! 怖くなるから!!」
「でも、ちゃんと足も生えてたよ!!」
「霊感がある後輩が前に言ってましたが、幽霊にも足は生えてるそうですよ」
「えぇー!!!!!! ……見ちゃったの、私?」
薄っすら涙目になっている売店さんに私と業者さんは静かに頷いた。
何もしてないのに、またしても怪奇なことが起こってしまった。火葬場という場所柄、幽霊が集まりやすいのは確かだが……。私と一緒にいた【新人さん】は誰だったのだろうか。
その数日後。葬儀のご依頼が入った。
遺影写真の中で微笑んでいる女性を見て、私は息を飲んだ。あの日、売店さんが見たと話していた女性と特徴が一致していたからだ。
「マジかー……」
新人さんではなく、【依頼者】として私に会いに来ていたのかもしれない……。
新人さん【完】
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