episode11:【ズッシリ……】
これまで不思議な体験をしてきたが、ついに自分の体に異変が起きた。
職業柄、いろいろな故人様とお会いする。孤独死をされた方、自ら命を絶った方、ご病気で亡くなった方、長寿を全うされた方、事件に巻き込まれて亡くなった方……。どの方にも、それぞれの人生があり、それぞれ人との繋がりがある。亡くなられた方を大切に思い、葬儀のお手伝いをしている。
病院や施設だけでなく、警察にご遺体を引き取りに行くことも多い。警察の場合、いい亡くなり方ではないことがほとんどだ。だから、警察にお迎えのときは気持ちがいつも以上に沈む。
ご遺族の方と警察署で待ち合わせてから、一緒に火葬場へ向かう。霊柩車には、運転手をしている上司と助手席に私、運転席の後ろ側にお棺に入った故人様、私の後ろの席にご遺族様。故人様を含めた、計四人が乗車している。
亡くなり方が亡くなり方なだけに車内には沈黙が流れ、静かに火葬場へと向かっていた。信号が黄色から赤信号に変わり、車は停車。右折するために出したウィンカーの音だけが、カチカチ……響いている。
突然、何の前触れも無しに左肩が重くなった。ズッシリと左肩を押さえつけられているような感覚。右は全然何ともない。左側が重いせいで体がそちら側へ傾く。何が起きているのか分からないが、ズッシリと確かな重みが左肩にかかっている。何なんだ、これ……?
これまで何度もお迎えに行っているが、一度たりともこういった現象にあったことはない。この状況、亡くなった故人様が自分に何か訴えかけている……と捉えるのが自然かもしれないが、故人様ではない気がした。絶対に故人様じゃない、なぜかそう思った。
火葬場に着き、車から降りて、後部座席のドアを開けた。車から降りた遺族様を案内する。……あれ? 肩が軽くなってる。火葬場まで私の肩に誰か乗って、一緒にここへ来て車から降りたのか?
先に火葬場で待っていた後輩と合流した。
「今日は霊柩車に二人乗ってたんですね」
「……いや、私と上司とお棺の中にいる故人様とご遺族様一人だけだよ。だって、三人しか乗れないじゃん」
「え……じゃあ、あの人──誰ですか?」
火葬炉の前に立つご遺族様たち。自家用車で一人、後から来た方がいる。霊柩車に乗車していた方と合わせて、二人。なのだが……後輩の目には三人いるようだ。
「もう一人、女性の方いますよ。ずごい剣幕で火葬炉に向かって唸ってますけど」
いろいろな亡くなり方がある。亡くなった方にもそれぞれの人生がある。私たちはあくまで葬儀のお手伝いをするだけ。そこに何があったかは知ってはいけないのだ。
「先輩、あの唸ってる女の人──生きてますよ」
ズッシリ……【完】
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