第2話

ある真夜中のひと時、ひどい下痢にあった。

下着を汚して、パジャマを濡らして、もう何が何だか解らなくなった。


真夜中にシャワーを浴びて、リビングに戻ると、そこに、父が座っていた。

「大丈夫か?」

差し出されたのは、熱い紅茶。

「はあー」

真夜中の甘い紅茶。

ため息とともに、ささくれだった気持ちまで溶けていくようだった。

「ん、大丈夫」

自然に言葉が出た。

「ありがとね」

「ああ」

幸せかもしれない。

何となく、そんなことを思ってしまった。


     ※        ※       ※


父を先頭に、二階へと上がる。

「起こしちゃったね」

「ああ」

怒っている風ではない。

「エアコン、消しちゃった?」

「いや、点けっぱなし」

「よかった」

私は父と同じ寝室だ。

「うわー、さむっ」

効きすぎたエアコンに迎えられ、思わず声を上げる。

「お父さん、エアコン消していい?」

「まだ暑いんだよな」

「じゃあ、いいや」

「さてと」

父は自分史を書いていて、今、推敲をしている。

布団の上に胡坐をかいて、ばらばらの紙の束に手を伸ばす。

後は、父の時間だ。

父は一度起きたら、何かをしないと眠れない。

勿論、それは私もよく解っていることだ。

「先に寝るね」

「ああ」

もう、父は紙の束に集中した。

今の「ああ」は上の空だろう。

「おやすみ」

「うん、おやすみ」


夜は、更けていく。

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