水沢朱実

第1話

朝、台所を片付けていたら、ちょうど二階から降りてきた、父と鉢合わせた。


「なんだ、起きてたのか」

「うん。おっはよ」

おっ、と跳ねさせて挨拶を言う。

これは私の父への、特別の挨拶だ。


「紅茶、持ってくね」

「ああ」


台所が片付いたタイミングで、父にバトンタッチする。

「じゃ、よろしくね」

「解った」

朝の台所は分担作業だ。


リビングに持ちこんだ紅茶をテーブルに置き、私は天然水で紅茶を薄める。

本来は、熱い紅茶冷ますためだ。

父は、紅茶を自然に冷ます派なので、父の紅茶は放置したままだ。


台所に自分の紅茶を飲みながら戻ると、父は計量カップでうがいをしていた。

「血、出てる?」

「うん」


父は夜と朝にうがいをすると、口から血が出る。

計量カップを使うのは、ちょっと敬遠したいが、これをネタに喧嘩になるので、今は何も言わないでいる。


「電気釜、変わろうか?」

「ああ、頼む」

父と場所を替わり、お米を研ぐ。

うちのお米は、ゆめぴりかだ。


コーヒー派から、紅茶派になってから、随分になる。

きっかけは、父が紅茶派だったのと、ご近所さんがゆずジャムを持ってきてくれたからだ。


ゆず紅茶はとても美味しくて、つい最近飲み切ってしまったけど、紅茶だけは今でも飲み続けている。


・・・父はゆず紅茶は飲まなかったけどね。


「替わるぞ」

「うん、お願い」


お米を炊いたタイミングで父と替わる。


お父さん、いつまでも元気で、長生きしてね。

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