第2話 夢か現か

 パンパカパーン♪


 突然そんな間抜けな音が響き渡った。

 


「何だ今の音………て、何だこのカッコ?」


 気が付くと見慣れた石畳の上に佇んでいた。服装は寝る時に着ていたジャージではなく、無地の袴姿。


 家業が神主なので祖父や父が着ているのを何度も見たことがあるが、俺自身が着たことは一度もない。


 着るわけがない。


 訝しげに周囲に視線を巡らす。

 参道に御神木の梅ノ木、起立する幟(のぼり)に鎮座する境内。少し外れたところに道場。

 よく見知った景色なのに、違う。

 どれもコレも細部の痛みやシミに至るまで剣の記憶通りだが、そこには生命の息遣いが感じられない。


「ついでに家もないと………」


 本来であれば神社の横に母屋があるはずなのだが、それがきれいサッパリなくなっていた。


 顔をつねってみる。


「痛い……のか?」


 感覚はあるようだが、普段より遥かに鈍い。

 夢か現実か判断に困っていると――





『紳士淑女の皆々様方! 大変長らくお待たせ致しました! 只今全ての依代との接続を確認しました』






「あ? 何だ? うっせぇな。一体どこから聞こえてきてんだ?」


 先程の陳腐な音と同様に突然声が響いた。

 場の雰囲気にそぐわない、陽気な声。


『【神之遊戯】の開催が決定しましたので、参加資格のある方々に急遽お越し頂きました』


 こちらの疑問に答えるつもりはなさそうだが(そもそも聞こえてるのかも分からんしな)、説明はしてくれるようだ。


 しかし、



「【神之遊戯】? 何言ってんだコイツ?」


 知っているようで知らない瓜二つの光景に、よく分からない声。

 全てがいきなりの事で理解が追いつかない。


『今回の【神之遊戯】の内容は戦闘! まずは各都道府県内で代表となる一人の依代を選別してもらいます。その後は各地方でまた一人の代表を決めます。次にあるのは東西対決。チーム戦で争っていただき、最終的に勝ったチームのメンバーでトーナメント戦を行い最後まで勝ち抜いた依代が【神之遊戯】の優勝者となります! 開催は本日より三年後の1月1日になります。各依代の方々は準備のほどよろしくお願いしま〜す』


 ハイテンションのアナウンスは言うだけ言うと『ガチャリ』と受話器を置くような音がした。

 続くのは風の音もない静寂。


「………て、はぁ? 今の何だ? 説明してるようで全然説明してねぇし。何だよ【神之遊戯】って。んでもって、ここは何処だよ」


 困惑。苛立ち。そして僅かな高揚感。

 湧き上がる感情を持て余し、砂利が敷き詰められた地面を乱暴に蹴りつける。

 いくつかの砂利玉が転がり、カラカラカラと思いの外大きな音が響いた。


『カッカッカッ 乱暴じゃなっ』


 突然声がした。

 先程とは違う声。

 少女の様な。老人の様な。どこか曖昧で定まらない不可思議な声が――目の前から。


「――!?」


 咄嗟に距離を取り腰を落として、腰の辺りに手を添える。


(しまった、竹刀がない………ッ)


 普段の癖で身体が動いたが、肝心の獲物を持っていなかった。

 歯噛みをしながら、声のした方を睨みつける。


(………いない)


 視界の範囲内には何もいなかった。

 先程確認した、よく知った知らない空間が広がっているだけ。


(だけど、確かにナニかいる)


 見えないが、その気配はある。

 ゆっくりと視線を巡らせ気配を探る。


『ほぅ? この状態で我の気配を感じ取るか』


 再び声がした。

 今度は背後から。

 反射の域で振り返る。

 構えは特殊空拳ファイティングポーズ。竹刀がないのなら仕方がない。


『カッカッカッ その戦闘本能は好ましいが、そう構えるでない。我は汝の敵ではない』


「………姿を見せずに敵じゃないってのは少し無理があるんじゃないか」


 俺は視線を空間の一箇所に固定した。


『うむ………もっともではあるが、コレばかりはどうしょうもない』


「そうか………ならやっぱり敵だ」


 言うが早いか、予備動作なしで彼我の距離を一瞬で詰めた俺は


 手応えは――ない。


 しかし、結果はあった。


『――!? カカカッ! よもやコレほどとは! 良い。その気迫と気概確かに受け取った。再び相まみえる時を心待ちにしておるぞ』


 目の前の気配が揺らぎ、歓喜ともとれる言葉を残し完全に掻き消えた。


「何だったんだ今の?」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神之遊戯 菅原 高知 @inging20230930

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画