鈍感


「ほんっとに気持ち悪い。他ニャンの気持ちなんてどうでもいいと思ってるから、一方的に“2匹きりで遊ぼう”とか“返事ないのは愛してないって事かい?”なんてメッセージ送りつけてくるのよ……。ハァ、もう精神病みそう」

「完全に片想いされてるね……。ブロックすればいいじゃん」

「それもそうね。別にもう、関わる事は無いんだから」


 シャウラがムシダのNYAINEアカウントをブロックしようとした直前、またムシダからのメッセージが届いた。ところがその内容だ。

 

『新しくアイドル事務所を立ち上げたんだ。そこで、シャウラちゃんをプロデュースしようと思うんだが、どうだ? 売れるために、一緒に頑張ろうぜ! 愛するシャウラちゃんのニャン生のために、俺は命を燃やすぜ』


 ――みたいなメッセージだったらしい。

 当然、シャウラはムシダの提案を断り、そのままブロックした。


 ムシダとの関係はこれでもうお終い、というわけにはいかなかった。

 連帯保証ニャンの件だ。

 ムシダは、最初こそちゃんと家賃の支払いをしていたが、シャウラにプロデュースを断られブロックされた時あたりを境に、滞納をし始めたらしい。

 ある日、僕の元に多額の請求書が来た。滞納をしたムシダに督促が届いているらしいが無視し続けているらしく、僕のところへ督促が来たのだ。その額、20万ミャオン。目を疑う数字だった。

 礼儀正しく振舞っていたのも、たぶん演技だったのだろう。これがムシダの本性なのだ。


「連絡したくないけど、ムシダにちゃんと払うよう催促してみようか……」

「ダメよ。連帯保証ニャンは、借主への督促を求める権利が無いのよ」


 やられた。シャウラにブロックされて僕へ八つ当たりしたかったのか、それとも単に舐められているだけか。

 無知は悪だと、強く思った。ムシダに何かされたら強く言い返せば良い、何ならもう1匹の僕に暴れさせれば良い、なんて思っていたが、甘かった。

 僕は本気で変わらなきゃいけない、舐められないよう強くならなきゃいけない、今後はもっと勉強して知識も知恵もつけないていかなきゃいけない、……そう強く思わされた。


 結局、ムシダの滞納分の家賃は、シャウラにミャオンを借り、支払う事にした。

 借金する事に、シャウラはやけにあっさりOKしてくれた。それにも、理由があったのだ――。


「ごめん、迷惑かけてばっかで。やっぱりシャウラは親友だよ」と伝えた時。シャウラは「親友、ね……」と言って黙り込んだ。「僕、何か変な事言った?」と聞くと、 「ううん、何でもないよ。お金ミャオン返すのはいつでもいいから」と言って、目を細めて笑った。


 シャウラは僕の事を親友だと思っていないんだろうか、と思った。少しショックだった。

 でも、そういう意味じゃなかったんだ。


 以降、シャウラが、やたらと優しい。

 一緒に出かける時はまるで芸能ニャンのように服装も毛並みも整えるようになった。アイドルを目指しているんだからそれは当然の事なのかもしれないが。でも、部屋にいる時でも、部屋着のだらしない姿は僕には絶対に見せなくなった。

 僕が帰ってくると、とても嬉しそうな顔を見せる。しばらく会えない日が続くと、シャウラ自身嫌がっていた『追いNYAINE』を送ってくる。「休み時間なら、返事してくれてもいいじゃない」って。僕は全然嫌じゃなかったけど。


 シャウラに好意を持たれていたのだ。


 シャウラの変化にうっすら気付いていたものの、僕はシャウラに返すためのお金ミャオン稼ぎに必死だったから――なんて言い訳か。

 シャウラの気持ちには、全く気付かなかった。

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遺書〜僕が生きた証〜 戸田 猫丸 @nekonekoneko777

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