連帯保証ニャン


 シャウラ、ムシダ、僕。

 複雑な関係が始まる事になる――。


 ムシダは早々に独立し、イベントプロデューサーの事業を始めた。それにあたって、物件を借りる必要があるとの事で――。


「何だいムシダ。用事って」

「ああプレアデス。すぐ終わる用だ。ここにお前のハンコ押してくれるか?」


 何の説明も無いので、書類を見せてもらった。

 物件を借りるにあたっての、賃料の『連帯保証ニャン』になるための契約書類。

 その時の僕は何の事かさっぱり分からなかった。実に愚かだった。


「新しい事業を始めるから、友達なら応援してくれるよな? ほら、ここにハンコ押すだけでいいんだよ」

「でもこれ、簡単にハンコ押しちゃダメなんじゃ……」

「応援してくれないのか……? だとしたら俺はすごく悲しいぞ……」


 あからさまに落ち込み、尻尾をダラリとさせるムシダ。「分かった、お前との友情はその程度だったんだ」と言い残してゆっくりと立ち去ろうとする。


「分かった、分かったよ。ハンコ押したらいいんだね?」


 その場の勢いで、実印を押してしまった。

 さっきまでの落ち込みは何処へやら、ムシダは顔を上げてニィーッと笑う。


「さっすが友達だ! これからもよろしく頼むぜ、プレアデス! お前は神だ! 最高!」

「う、うん、喜んでくれて良かったよ」


 

 帰ってからシャウラに、この事を話すと。


「何してるのよ! 連帯保証の意味分かってる? よく調べもせずにハンコ押しちゃダメ!」

「えっ……?」


 シャウラから、『連帯保証ニャン』の意味を説明してもらった。僕は青ざめた。

 ムシダは昔のようにあからさまに僕をいじめたりはしなくなった。でも、良い奴を演じて僕を騙し、利用しようとしたのだ。僕を舐めている事は変わらない。

 変わった、と思わされた僕が愚かだった。ムシダは友達でも何でもない。関わりを断とう。そう思ってももう、ハンコは押されている。


「気付かせてくれてありがとう」

「ほんっと、気をつけてよね。私もムシダは、初対面からちょっと変だなって思ってたのよ。思ってたけど、プレアデスには好意的だから、一応黙ってたの」

「いや、それは……」


 この機会に、ムシダから昔いじめられた事を覚えている限り詳しく、シャウラに話した。

 僕もシャウラも、プライベートでムシダと関わるのをやめようという事になり、3匹で遊ぶ事もなくなった。僕は『連帯保証ニャン』になった以上は完全に関わりを断つことはできないから、チャットアプリの『NYAINEニャイン』で、事務的な連絡だけを塩対応で返した。


 ところがムシダは、シャウラに執拗にメッセージを送り続けているらしい事が発覚。シャウラからの返信が無いのに「おーい」、「どうしたー」など『追いNYAINE』しているという。シャウラはとても迷惑がっていた。


 ムシダがシャウラに片想いしていたのだ。

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