ムシダとの再会


 僕は毎日、シャウラに励まされ続けた。日に日に元気を取り戻していった。そしてどうにか飲食業――レストランのアルバイトを始めた。

 その間、シャウラはアイドル事務所に所属すべく、ライブ活動や配信活動などを本格的に始めていた。ツアーに出て帰ってこない日もあった。その時は寂しかったが、シャウラの夢のためだ。

 シャウラはこれだけ励ましてくれたんだ。僕も頑張らなきゃ。そう思って日々を過ごしていった。



 ある日。バイト先で、見た顔が現れた。


「ムニエルをお願いいたします」


 忘れもしないロシアンブルーのその姿。スーツをピシッと着こなしている。

 ムシダだ。

 僕をさんざんいじめた、ムシダ。

 だが奴は、社会人として厳しく教育されていたためか、礼儀正しく振舞っていた。

 僕は半ば無心になって、応対した。


「ご注文承りました。ムニエルですね。すぐにお持ちいたします」

「ありがとうございます」


 最初、互いに知らぬふりをしていた。

 小太りの体型ながら、姿勢をしっかり正して完璧に近いテーブルマナーで食事をするムシダ。変われば変わるもんだ、そう思いながら仕事に戻った。


 バイトが終わり、帰路につこうとした時。


「久しぶりじゃないか、プレアデス」


 ずっと待っていたらしい。ムシダの方から声をかけてきた。「元気にしてたのか?」などと言う。

 今の自分なら、以前のようにムシダに嫌がらせされても、反発できる。そう思っていたのだが――。


「疲れてるんじゃないのか? たまには休む事も大事だぞ」

「……ああ、ありがとう。それじゃ僕はそろそろ」

「……会いたい子がいる、って顔してるな。大事にしてやれよ。じゃあな」

「……」


 やけに良い奴になっていた。あのムシダが。やはり時が経てば、性格って変わるもんなんだ。

 拍子抜けして、しばらく店の前でボーッとしていたのを覚えている。

 うちのバカ親父も、身勝手な母親も、ムシダみたいに変わればいいのに――。


 今のムシダならば大丈夫だろうと、僕はシャウラを連れてムシダに会わせた。


「この子がプレアデスの彼女か。やるじゃないか」

 

 僕はとっさに「いや、彼女じゃないよ」と返した。ムシダは「このこのー」と僕の肩を叩きながら笑う。


「初めまして、ムシダさん。シャウラです」


 シャウラが明るい声で挨拶すると、ムシダは名刺を差し出して一礼した。通信関係の一流企業に就職したようだ。


 ある日、シャウラ、ムシダと僕の3匹で、遊びに出かけることとなる。

 すっかり3匹仲良くなり、過去の事はもう水に流そう、そんな気にすらなっていた。

 だが、ムシダと話せば話すほど。


「プレアデスこのー、やっぱり彼女とラブラブなんだなぁ?」

「いや、シャウラは彼女じゃないってば……」


 僕をいじってきたり、話の主導権を強引に握ったりする(その結果、シャウラとムシダだけが話し、僕が浮く)など、やはり昔の癖は抜け切っていない事が分かった。

 

 そう、関われば関わるほど違和感を覚えた。油断した僕が悪かった。その違和感というのは、やはり当たるものなのだ。

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