勘当〜父の暴力〜再会
母親から勘当された後、大慌てでアルバイトに応募するも、住所不定であるため全て門前払いされた。このままでは本当にホームレスになり、警察に捕まってしまう。
僕は嫌々ながら、父親の家へ行くことにした。
母親から最後に渡された地図と住所のメモに、父親の居場所が書かれていた。住む場所が無いなら父親の所に行け、という事なのだろう。
僕は恐る恐る、父親に電話してみたが出なかったため、アポ無しで訪れる形になってしまった。
父親は年月を経て、まともになっているだろうか。
ちゃんと事情を説明できるだろうか。
嫌な緊張を感じながら、僕は郊外にあるマンションの、父親の部屋の、扉の前に立った。
「おーー我が息子よ! 立派になって!」
父親“アトラス”は、僕を機嫌良く迎えた。父の息からは、ムワッとマタタビの匂いがした。
事情を事細かに説明してみたが、話を聞いているのか聞いていないのか。「おう、おう」とご機嫌な声を出して頷くだけだった。とりあえずは、僕を受け入れてはくれるらしい。
あちこちに即席食品のカップが散らかったままの、カビ臭い部屋に案内され「テキトーに寝泊まりしてくれや」と言われた。僕も心を病んでからは、軍に提供された家を散らかしっぱなしにしていたから父親の事を悪く言えないが、それにしてもあんまりだから、重たい気持ちに鞭を打って掃除をした。
僕が部屋を掃除している間、父はどこかへ出かけて行った。
布団も、毛布も無い。薄汚れた冷たい床で寝ることになった。
掃除を中断して居眠りしていた時だっただろうか。父親が帰ってきた。
やたらとマタタビ臭いなと思いながら体を起こした矢先、父親はバンと部屋の扉を蹴り、僕の首根っこを乱暴に引っ張った。
「お前なんざ、お前なんざぁ! 出ていけ!」
「……ちょっと、父さん!?」
外へ引きずり出され、階段から突き落とされた。
この時の僕は運動神経は鈍かったから、受け身も取れずに階段を転がり落ちた。
痛みのあまりうずくまっていると、父は僕にまたつかみかかり、殴り、蹴り、唾を吐きかけた。
「お前なんざ息子じゃねえ! バカが! アルシオネ(母親の名前)のとこでぬくぬくと生きやがって!」
父親の事情など知らない。マタタビに酔って、暴れているんだろう。
僕も、無自覚とはいえ母親を刺そうとし、おばあちゃんに暴力をふるった。そんなところをシャウラに見られたくなかった。因果応報だと思いながら殴られ続けた。僕も父親と同じじゃないか。いつかシャウラにも、父親のように酷い事をしてしまうんじゃないか――。
「……!? プレア!! ……このーっ!」
路上で殴られている時、聞き覚えのある声がした。引っかき傷のついた父親の顔が見えた。父親がひるんだ隙に、声の主が僕の前足をつかんで、曲がり角まで逃がしてくれた。
「プレア、傷見せて」
「シャウラ……」
助けてくれたのは、シャウラだった。
この辺りに住んでいて、体づくりのため走り込みをしていたところだったようだ。
スラッとした体型になり、大人っぽくなっても、僕に微笑みかける表情は、変わらなかった。
覚えててくれた事が、とても、とっても、嬉しかった。
僕は父親との関係も含めて、今まであった事をシャウラに説明できる限り説明した。
「連絡してくれないから、私の事忘れられたのかと思っちゃった」
「えっ、既読放置したのってシャウラの方じゃ……」
「違うよ、プレアだよ! ……ほら、見てよ」
「……あれ」
その後、一匹暮らしのシャウラの部屋で、ともに暮らすこととなる。
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