シャウラとの日々
『前向きな言葉』を使い始めてから、僕は神様を信じるようになった。
言葉には不思議な力が宿る。言葉は元々、神様に与えられたものだから、綺麗で前向きな言葉を使わなければいけない。だから、思わず「クソが」などと言いそうになった時はグッとこらえて、「これは神様からの試練だ。ありがたい」と言い直すようにしていた。
そうこうしているうちに、僕らが住む世界は、“グレイ”という神様が創った、という言い伝えがある事を知った。“グレイ”を絶対の神とする『灰緑の光』という宗教団体が発行した書物によれば、「幸せに生きるには“グレイ”の教えに従うほかに道はない」とのことだった。
僕は夢中で書物を読んだ。「我々が進化するには、競争心が必要だ」。誰かと競い合うことで、心が進化し、幸せに近づいていく。
僕がいじめられたのは、不幸だったのは、競争心が無かったからだ――素直にそう思うようになってしまった。
それからどんどんオカルトやスピリチュアルにハマってしまって、シャウラさんに引っ叩かれて目を覚ます事になるんだけど……。
今はその事は置いておこう。
シャウラさんは、自身の夢を語ってくれた。アイドルになりたいんだって。
「アイドルかあ。凄く大変な道だとは聞いたけど……シャウラさん、凄いね。僕にはそんな大きな夢はないよ」
「シャウラさんだなんて。呼び捨てでいいわ。夢ってのはね、誰かに言われて決めるものでもないし、決めようと思って決めたりするものでもないわ。プレアデスも、いつかはこうしたい、と思える事が出てくるはずよ」
「うん、シャウラ……。焦らなくてもいいんだね」
「そうそう。自分のペースでね! あ、プレアデスくんのことは、プレアって呼んでいい?」
「うん、呼びやすいならそれでいいよ」
シャウラとはあっという間に仲良くなり、一緒にテスト勉強をしたり、テーマパークへ出かけたり、多くの時間を過ごすようになった。
「ああ、財布が無い! どうしよう、大事なカードとかも入ってるのに……」
「プレア、あんた持ってるじゃない。左前足」
「うそ!? あ、あれ? 本当だ。ホッ、良かったぁ……」
「あっはは、あって良かったね」
シャウラは、ドジな僕を支えてくれた。抜けているところがあるのは気にしていたし、そのせいでいじめられていたのも知っている。けれど、シャウラは一言も「ドジ」だとか「抜けてる」とは言わなかった。気を遣ってくれていたんだ。そして僕が落ち込み気味な時は、持ち前の明るさで元気付けてくれたりした。
僕も同じように、明るく楽しくやっていこうとした。だがシャウラがいないと、逆に苦しくなってしまう。
ムカつく事があっても『前向きな言葉』でごまかしていた。『前向きな言葉』によって抑えつけられた僕の心の闇は、日に日に膨れ上がっていったのだ。
シャウラは、「無理して明るく振る舞え」と言った訳ではない、という事に気づいたのは、ずいぶん後だった。
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