シャウラさんとの出会い
シャウラさん。
スラッとした体型、鋭いエメラルドブルーの目が印象的な、白ネコの女の子だ。
彼女は、戸惑う僕に尋ねてきた。
「本当に、そう思って書いたの?」
シャウラさんは怒っている。何で?
「それはプレアデスくんの思い? 言葉?」
「そう……だけど」
「本当に? だとしたら、よくそんな借り物の言葉で、主張作文なんて書けたものね、という感想だわ、私は。自分の気持ちをごまかしてるでしょ!」
図星だったんだ。大人が、先生が、世間が、「自殺はやめよう」とこぞって言って、それが正しいんだと、何となく思って、借り物の言葉で書いた。綺麗事を並べ立てて、どこか快感を覚える自分がいた。
シャウラさんに言われてそんな自分に気付き、吐き気がした。
「でも僕は死のうと思わなかった。死んだら、家族が、友達が、先生が悲しむ。死んだら、今まで頑張ってきた事が全部無かった事になってしまう。死んだら、僕に残された可能性も全部ゼロになってしまう」
――真っ赤な嘘だ。本当は死にたかった。前回の記録に書いた事――「でも、死のうとは思わなかった。死ねば、全てが楽になると言うネコがいた。それは違う。死ぬのってとても痛い思いをするだろうし、周りを悲しませるし、何より死んだ先に何があるのか……それが分からない怖さもあった」――それは『自分に嘘をついていた』という事も含めての話だ。ただ、痛いのが怖かったから踏み切れなかっただけで。それを、綺麗事でごまかしていた。
「だから僕はどんなに苦しくても、頑張って生きようと思った。そうしたら、受験勉強で合格を勝ち取った。よそよそしくしていたクラスメイトを見返すことができた。今、こうして高等学校生活を楽しめている。死んだら、その可能性もゼロにしていたわけだ」
――真っ赤な嘘だ。これを書いていた時は悪くない現状だったから、『苦しくても頑張った』事にして――死にたい思いをごまかしながら苦しんで悶えて受験を乗り切った記憶を、上書きしようとしていた。
「だから、死にたいネコがいたら、僕はこう言う。
自殺なんてしてはいけない。命がもったいないよ、自殺したら周りが悲しむ。生きてれば必ずいい事があるよ。生きる事を諦めちゃいけない。目の前の嫌な事から逃げちゃいけない。逃げずに頑張って耐え抜こう。耐え抜いて生き抜こう。頑張って乗り越えたら、きっとそこに希望がある。僕が今こうして、楽しく生きてるんだから」
――ああ、反吐が出そうだ。何で2回も書いたんだろう。自分の行ないから目を背ける方が嫌だからか。
全部、誰かが、大人が、先生が、どこかで言っていた借り物の言葉だ。書いていた当時は、自分の気持ちを押し殺して、何か優越感みたいなものに浸っていたんだなあ。
全く、情けない。気付かせてくれたシャウラさんに、僕は感謝した。
そんなシャウラさんも苦しんでいたからこそ、僕に怒りをぶつけてきたんだ。
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