幼少期〜少年期(2ヶ月〜5ヶ月)
僕は、6年前、地底国ニャガルタで生まれた。
母さんの名は、“アルシオネ”。
名前も書きたくないけど、父さんの名は“アトラス”。
兄弟はいない。ひとりっ子だ。
僕は、父母に色んな場所へ遊びに連れて行ってもらった。その代わり、厳しく躾けられもした。
ご飯を食べる時に行儀が悪かったり、誰かと会った時に挨拶をしなかったりすると、よく大きな声で叱られた。
今考えれば、初めての子供ってことで、どう育てたらいいか分かんなかったのもあると思う。だからそれに関しては、今はもうどうでもいい。
でも、父さんは……。
まだ僕が初等学校に入る前からマタタビ中毒になって、機嫌が悪い時は理由もなく僕を殴り、引っ掻き、噛みついた。
止めようとした母さんに対しても同じように殴り、首を絞めたりした。今でもはっきり覚えている。大声で喚きながら、ヒゲや尻尾を引っ張ったり、頭を叩いたり、近くの物を投げつけたりしていた。
僕は怖かった。だから、おばあちゃん(“プレイオネ”)の家によく逃げ込んだ。
――――
「プレアデスや。一緒におやつ食べよか?」
「うん! こざかながいい!」
「……またケガしてるねぇ。お父さんがやったのかい?」
「……うん」
――――
優しいおばあちゃんが、僕の唯一の味方だった。
初等学校に行ってからも、父母が喧嘩をした日にはいつもおばあちゃんの家でご飯を食べ、寝泊まりしていた。
テレビゲームも買ってくれて、好きなだけ遊ばせてくれた。
小さい頃の記憶は、ほとんどおばあちゃんとの思い出ばかりだ。
僕は、弱虫の意気地なしだった。
父さんの暴力は嫌だったけど、母さんの厳しい教育も、別の意味で辛かった。初等学校に入る前頃は、おばあちゃんの家に逃げ込むのも許してもらえなかったっけ。
それも、僕を心配する気持ちからだったんだろう。
何もかも甘やかされて、学校教育についていけなかったりクラスメイトにバカにされたりしないかって。
――――
「ほら、虫も捕まえられないようじゃ、クラスの子たちにバカにされるわよ。情けないねぇ」
「母さん、帰ってご飯食べたい」
「できるまで帰しません!」
――――
ま、大人になってそれなりに出世はしたからその教育は間違いじゃなかったんだろう。
けど、『心の教育』は、ハッキリ言って大失敗だったと思う。
この歳になって、
生まれてから2ヶ月頃。僕は初等学校に入学した。
たくさんの同い年のネコたちと、これから基礎教育を学ぶのだ。
僕は戸惑った。母さんの心配どおり、僕は弱虫の意気地なしで、他のみんなの仲間に入ることもなかなかできなかった。
成績自体は悪くはなかったけれど、通知表での生活態度のほとんどが△印だった。集団行動が苦手で、よく周りをイライラさせていた。
そんな僕にも、初めて2匹の友達ができた。
“ポルックス”と、……“ムシダ”だ。
――――
「プレアデス! 俺の描いた迷路見てよ!」
「やるじゃん、ムシダ! どーやったらそんなに面白い迷路が描けるの?」
「ここをこうして……分かれ道をいくつも作るのさ!」
「なーるほど! ここをこうして……」
「そうそう! すごいじゃんか、プレアデスー!」
――――
ムシダは、何をやっても遅れがちな僕を責めることをしなかった。できない事は親切に教えてきた。
僕をいじめてきたり責めてきたクラスメイトには、「やめてやれ!」と怒ってくれた。
ああ、友達っていいな。
初めてそう思った日だった。
――――
「ポルックス、公園まで走る?」
「僕は速いよー。ついて来てよ? あ、さっきはペン貸してくれてありがとうね。プレアデスは親切だね」
「ううん、またいつでも貸すよ。あ、ムシダも来たよ」
「よう、プレアデス、ポルックス。公園行くのか? さっきお菓子買ってきたから、着いたら3匹で分けようぜ」
――――
初等学校が終わる6ヶ月頃まで、一緒によく遊んだなあ。
“ナインライブス3匹組”だとかいって。
今思えば、たった4ヶ月だけど、長くて楽しい日々だった。
荒れている家庭環境の事すら、忘れることができた。
この2匹とはずっと、友達だと思っていた。
大人になっても、ずっと、ずっと。
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