遺書〜僕が生きた証〜

戸田 猫丸

この遺書を書くにあたって


 こんにちは、ニンゲンさん。

 僕は、キジトラネコの♂の、いや、キジトラネコの♂……、プレアデスといいます。


 ニンゲンさんには信じられないかもしれませんが、僕はかつて、地底奥深くにあるネコの国――“ニャガルタ”に住んでいました。

 地底世界には、ニンゲンさんと同じように、知性を持ち、衣服を着こなし、二足歩行で動き回り、言葉を話すネコたちが暮らしているのです。

 地底世界は決して真っ暗な世界じゃなくて、昼と夜があります。ニンゲンさんが暮らす地上世界とそんなに変わりません。地上世界のネコサイズ版だと思ってくれていいです。


 僕は、そんな世界に暮らす、しがない1匹のネコでした。

 それなりにいい歳になったから、自分自身を振り返る意味でも、この“遺書”を書こうと思いました。

 

 遺書といっても、自殺する訳じゃないです。実際は3回、死に損なってますけど。

 でも、明日生きている保証なんか無い。寿命であれ事故であれ、僕が死ぬ前に、ちゃんと遺したいんです。

 僕と共に過ごしてくれた、大切な誰かのために。

 

 過去にあった事。

 それを当時どう思ったか。

 今、思い返すとどう感じるのか。

 どれだけ、周りから支えられてきたのか。


 書くことで、気持ちの整理もできると思います。

 その上で、残された縁のある者たちに伝えたい事も、書けるだけ書きます。


 幼い時の事、少年期の事、大人になってからの事、……思い返せば色々とありました。色々とありすぎました。

 記憶って、歳を取るとどんどん失われていくんですよね。楽しい記憶も、辛い記憶も。

 それは嫌だから、こうして書き遺します。

 感謝したい気持ちも、恨む気持ちも。そのまんまにしておきたくないから。


 まずは幼少期の事から――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る