モービウス

 私はアメコミは「吸血鬼の登場人物」を介してしか知らないんですが(モービウス、ブレイド)モービウスはスパイダーマンのライバルなんですってね?

 原作のモービウス(1971年)は、ある意味で画期的でした。

 それまでヨーロッパからの輸入の怪物であった吸血鬼、魔人ドラキュラで確立された「貴族的な東欧の怪物としての吸血鬼」から、「吸血鬼」の部分を切り離し、アメリカ生まれの吸血ヒーローを創造したのです。

 それはさておき、残念ながら本作は、映画『スパイダーマン』にはまったく太刀打ちできない興行収入となり、モービウスがスパイダーマンのまえに立ち塞がることは……あるのかなあ……

(一応、ラストにスパイダーマンとの邂逅があることを示唆するシーンはある)

 まあ、新型コロナウィルスによる公開延期とか、ロシアのウクライナ侵攻による一部地域での劇場公開取りやめとか、『呪われている』作品であるとは思いますが、興行収入が伸びなかった一番の要素は作品自体にあったのは間違いないように思います。


 原題「Morbius」

 2020年製作(米)(公開2022年)

 日本版DVD・BD有

 日本語吹替:あり

監督 ダニエル・エスピノーサ

脚本 マット・サザマ

バーク・シャープレス

原作 ルイ・トーマス

ギル・ケイン

『モービウス・ザ・リヴィング・ヴァンパイア』

製作 アヴィ・アラッド

マット・トルマック(英語版)

ルーカス・フォスター(英語版)

出演者

モービウス:ジャレッド・レト(中村悠一)

マイロ:マット・スミス(杉山智和)

マルティーヌ:アドリア・アルホナ(小林ゆう)


『あらすじ』

 モービウスとマイロは特異な血液疾患を患う少年。

 そういう病気の子供たちの療養施設でふたりは出逢い、心通わす。

 あるときマイロの身体を健康に保つための器具の不具合を咄嗟の機転で直し、マイロの命を救ったモービウス。

 その科学的な知識と応用力を評価され、特別な学校に通うことになる。


 歳月は流れ、天才的な頭脳によっていくつもの発見・発明を行ったモービウスの新しいプロジェクトは、ある吸血蝙蝠の特性に着目し、自分の病気を治すことだ。

 コスタリカの洞窟で、モービウスは吸血蝙蝠を捕獲。

 研究所で飼育、研究を始める。

 研究所の資金を出しているのはマイロだ。彼は億万長者の親の財産を相続し、血液の病気で身体は思うようにならないながらも、安楽な生活を送っている。

 血液の病……その共通点と、その病気を治すという目的意識によって、おとなになってもふたりの友情は続いていた。

 やがてモービウスは吸血蝙蝠とヒトのキメラ細胞を生み出し、自分の肉体を使ってその効果を実験する。

 倫理的に問題がある実験故に、洋上に停泊する船内で、長年の同志であるマルティーヌだけを助手に人体実験を開始するモービウス。

 そのとき、船が襲撃される。

 その危機に、モービウスの肉体は変容を遂げる……


『物語のあれこれ』

 原作版モービウスとも微妙に話は改変されています。ですから、もうちょっと「原作は原作、映画は映画」と割り切った脚本で制作しても良かったんじゃないかと思います。

 映画は最後まで、モービウスとマイロの同志的なつながりに焦点を当てたシナリオにしたほうが良かったのではないかと。

 モービウスは実験の「成功」によって限定的ながら健康的な(というよりは超人的な)肉体を得ます。が、それは人間を遙かに超えた能力と、忌まわしい吸血の欲求が付随している。なので、出資者であるマイロには知らせられない。

 一方、マイロはなにかを隠しているモービウスに不審を抱き、実験の成果を探ります。

 マイロは人体変容の禁忌よりも、健康になることを渇望していたのです。

 ふたりの決裂。

 大筋はわかりやすくて、しかも「どちらの気持ちも分かる」んですよ。

 敵・味方どちらにも共感できる。

 ところがここにマルティーヌが割り込んできます。っていうか、モービウスがマルティーヌを引っ張り込むっていいますか。

 突然、親友そっちのけでマルティーヌと恋愛を始めるモービウス。

 「もうこれ、マルティーヌってモービウスがピンチのときに血を捧げてパワーアップさせる係にしかならんやろ」

 そう思ってたら、実際そんな感じでした。

 『ブレイド』でブレイドに終盤で吸血させる女医さん、『ドラキュラZERO』でヴラド三世に血を捧げる奥さん……まあ、伝統ですよね。

 もともとは「女が死んで男は復讐に立ち上がり、英雄的な活躍をする」という定番のシナリオの吸血鬼用派生版です。(ブレイドの女医さんは死にませんが)

 定番、テンプレ。

 定番は定番なりに上手くやればいいものの、やはりシナリオの比重はモービウスとマイロのマイノリティ同士の連帯とその破局なので、モービウスとマルティーヌの恋愛はとってつけたようにしか見えません。

 愛憎は、モービウスとマイロのふたりのあいだで完結させた方が内容も濃くなったのではないかと思います。


 まあそういう難点はあるものの、美しくより進化した蝙蝠乱舞、自在に変容する人間モービウスと怪物モービウスの変化、ジャレット・レトの身体に不具合を抱える青年の演技等、みどころはたくさんある映画です。

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