Billy the Kid vs Dracula

 こう、なんというか「面白くないことはないんだけどどこを褒めて良いのかよくわからない」という作品があります。

 あえて表現するなら「味わい深い」作品……

 本作は、ラストの展開に目を剥く作品。「そんなんありか!」と持っているDVD床に投げつける方向でね。いや、やりませんけど。

 早撃ちガンマン、ビリー・ザ・キッドの次なる敵は、銃弾が効かない不死身のドラキュラ!!

 キッドはこの凶悪にして好色な怪物から恋人取り戻せるのか!?


「Billy the Kid vs Dracula」

1966 年製作(米)

英語版のみ(英語版はDVD/BD ともにあり)

日本語吹替なし・字幕なし

監督:ウィリアム・ボーダイン William Beaudine

脚本:カール・K・ヒットルマン Carl K. Hittleman

ドラキュラ伯爵:ジョン・キャラダイン John Carradine

ビリー・ザ・キッド:チャック・コートニー Chuck Courtney

ネリー(※):メリンダ・プロウマン Melinda Plowman

ジャンル:ホラー(?)

時代背景:十九世紀頃・アメリカ西部

(※)おそらくヒロインはネリーと呼ばれているように聞こえるのですが、日本語字幕はもとより英語の字幕もないので、確認できません。


『あらすじ』

 夜、草原の一角に停車した幌馬車……空には蝙蝠。幌馬車のそばで眠る家族に迫る影。娘の首筋に覆い被さる男……しかし娘の手には十字架が。

 男は十字架に驚いて姿を消すが、娘はすでに咬みつかれていた。

 起き上がり、一声叫んで絶命する娘(すごく自然に起き上がったので、助かったのかと思ったら死んでしまった……)

 昼、客を運ぶ旅の幌馬車、同乗者のひとりに昨夜の男(ドラキュラ伯爵)の姿が。

 しきりにあくびをしている。

 客が見せてくれた姪(ネリー)の肖像画に、思わず笑みを漏らすドラキュラ。

 娘は美しかったのだ。


 野営地でドラキュラはネイティブアメリカンの娘に催眠術をかける。翌朝、首に咬み痕を遺して死んでいる娘。

 ネイティブアメリカンたちは昨日野営した白人たちが殺したに違いないと幌馬車を追いかける!

 壮絶な追跡劇ののち(……という映像はないので、観客は各自適当に馬車の白人とネイティブアメリカンたちの死闘を思い浮かべよう!)、白人たちは殺される。そのなかにドラキュラはいない。

 と、空から蝙蝠が舞い降りて、ドラキュラの姿になった。

 彼は死んでいる客の鞄を漁り、昨日見せてもらった写真を取り上げた。


 場面変わって、写真の娘(ネリー)が青年と語らっている。ふたりは恋人同士。

 青年は早撃ちを得意とし、ビリー・ザ・キッドと呼ばれている。

 娘のいる町の酒場にやってくるドラキュラ伯爵。

 酒場に宿を求める。

 酒場の店主に紹介され、伯爵と面会するビリー。伯爵は娘の写真をビリーに見せた。その娘のことをよく知っているとビリー。

 いっぽう、階下の酒場ではネリーの家の住み込み召使いの夫婦者と娘の三人組が、ヴァンパイアが現れたと噂し合っている。また、ネリーの叔母が死んでいたという

情報も。

 恋人に叔母の死を告げるビリー。

 ネリーの家の召使いの夫婦者の夫は、可愛い娘と妻の部屋の前で、椅子に座って寝ずの番をするが、ドラキュラ伯爵は窓から侵入し、娘の血を吸って殺す。

(年増の妻は無視して娘の血だけ吸うってところがまた!)

 召使いの娘を殺したその足で、ドラキュラが普通に玄関からネリーの家を訪れる。

 ビリーは叔母を亡くしたネリーの悲しみを慰めていた。

 ドラキュラはネリーに、自分は貴女の親戚だと名のる。(写真を持っていたのが親戚の証拠!)

 ネリーに催眠術をかけようとするドラキュラ。しかしネリーはなかなか催眠術にかからない。

 ドラキュラを怪しく感じたビリーは彼に難癖を付けるが、ネリーはドラキュラをかばう。怪しむ確実な証拠もないため、ビリーは謝罪する。


『物語のあれこれ』

 まずもってドラキュラが、ビリー・ザ・キッドの活躍した西部開拓時代(1860 ~ 1890 年代)のアメリカにやってきている理由がよく分かりません。

 1859 年生まれだと言われているビリーが十八歳~二十歳くらいなの

で、1870 年代後半頃とすると、ブラム・ストーカーの物語以前の話(ストーカーの「ドラキュラ」は1880 年代後半~ 1890 年代前半あたりが想定されています)、と

いうことになるので、イギリス侵攻の予行演習だったんでしょうか?

 それとも東欧の女性の血は吸い飽きちゃったので、ちょっとグルメ観光に……?

 ……まあ、本作ではこんな真面目(?)な考察は要りませんね。

 おそらく真面目なホラー作品として制作されているはずなんですが、演出や脚本、キャラクターの関係上、全体的に、ゆるく笑えてしまいます。

 ドラキュラを演じるジョン・キャラダインは、B級映画界ではそれなりに有名な俳優です。(A級映画にも多数出演してますしね!)

 なので芸達者。

 ユニヴァーサルのフランケンシュタインシリーズ等でドラキュラを演じたこともあり、普通に怖さを醸す演技も出来るはずなのですが……

 その彼が本作では催眠術をかける演技で目を剥く(その表情はある意味凄い)だけだったり、終盤、ネリーを吸血鬼にしようとする儀式の際の変な手付きだったり。

 思うに、この「場末の奇術師風演技」はきっと監督(または演出)の要望だったのかな、と思います。

 シルクハットにマント、紅いリボンタイは間違いなくベラ・ルゴシ演じる「ドラキュラ」以降の「ドラキュラの衣装」の系統なんですが、口髭の具合もあいまって、やっぱり場末の奇術師に見えてしまうところとか、いろいろ「ホラーなのに笑えてしまう」。

 監督が、まさにこの路線を狙って撮ったんだとしたら、大成功の作品。

(そんなわけはないと思いますが)



 この映画の吸血鬼は、蝙蝠に変身します。

 十字架やトリカブトを嫌います。

 銃弾は効かず、心臓に杭を打てば滅びます。

 活動時間は夜間ですが、昼間も目覚めて、日光のなかを行動することもできます。

 また、催眠術で人を操ることもできます。

 この『銃弾が効かない』というのが本作のポイントで、早撃ちヒーロー、ビリー・ザ・キッドはドラキュラに対して有効な攻撃手段がないのです。

 それをどう解決するか……が、本作の見所になります。

 (ある意味)凄い展開ですよ!

 あと、西部劇をよくご覧になっている方にとっては当たり前かもしれませんが、酒場や自宅の家の前に馬を繋ぐための駒留が設置されているところなど、十九世紀のアメリカ西部の雰囲気はなかなか興味深いものがあります。


【どれだけすごい結末かご紹介するので結末を知りたくない方はここで回れ右してください】










 掠ってきたネリーに、坑道の奥のベッドで死のくちづけを与えようと(するまえにのんびり謎の魔法の動作をする)ドラキュラ。

 間に合ったビリーが銃を撃つも、まったく効かない!

 ビリーはドラキュラに締め上げられて気を失うが、そこにビリーに味方する女医と保安官がやって来る。

 保安官の撃つ拳銃も効かない!

 ようやくのことビリーが目を覚まし、保安官の銃をドラキュラに投げつける!

 銃(本体)に当たって昏倒するドラキュラ!(なぜ)!?

 すかさず医者が杭を取り出し、ビリーに渡す。

 ドラキュラは滅び、骸骨になる。

 ネリーが目を覚まし、ビリーと抱き合うのだった……



 驚愕の展開!!


 なぜ銃身投げつけられて気絶しますか?!

 そりゃ、金属でできた銃身が頭にでも当たれば痛いですけどね!

 でも銃弾だって金属ですよ?

 それが当たっても平気なのになぜ……


 結局「ホラー映画の人気モンスタードラキュラと、西部劇のヒーロー、ビリー・ザ・キッド夢の共演!

  銃弾で死なないドラキュラに、ビリーはどう戦うか?」というあらすじを思いつき、その路線で映画を撮ったものの、「どう戦うか?」の逆転劇部分について思いつきませんでした……ごめんなさい……みたいな展開……。

 意味分からん……と首を捻りつつ、でも気がつくと「ドラキュラ」のお約束シーン(吸血やトリカブトを恐れる、鏡に映らないなど)も、西部劇のお約束シーン(銃撃戦、的を正確に打ち抜く、悪漢にしてやられるが、後半、やりかえす等)結構楽しんでいる自分を発見します。

 あと、脇役ながら酒場のマスターと女医さんの役回りはなかなかいい。


 ただ、難点は日本版DVDが出ていない点なのですが、機会があれば是非。


 最後に、ここにツッコミを入れても仕様がない気もしますが……

 ドラキュラがこの時点で(1870 年代)滅びたら、ストーカー原作のドラキュラのイギリス侵攻(1880 年代後半以降)はなかったはずですよね?


『関連作情報』

「フランケンシュタインの館」

「ドラキュラとせむし女」(のちに「ドラキュラの屋敷」(こちらのほうが原題に即している)に改題)ちなみに当初の邦題にある「せむし女」はちょびっと出てくるだけで全然、重要登場人物じゃないよ! 邦題詐欺!

 

 二作には、本作品とのシナリオ上の関連はないが、両作品にはジョン・キャラダイン演じるドラキュラ伯爵が登場する。

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