ポニテちゃんの物語。
初球、インコース低めに96マイルのボールが決まり、2球目は外を僅かに外れる変化球。
3球目の反応しかけてしまった高めのボールはなんとかバットを止めて、低めの落ちる変化球もしっかり見極めることが出来た。
「これも見ました!これで3ー1ですね、クックさん。チャンスボールが来そうです」
「新井は、ボール球の見極め率が全メジャー選手の中で1番ですからね。100投げて3、4球程度しか振ってくれません。
ちょっとやそっとのボール球では、カウントが稼げませんから、ピッチャーは自然とゾーン内での勝負を強いられますよ」
「なるほど。機械のように精密なバットコントロールと確かな選球眼。これなアライの武器です。さあ、連続フォアボールは許されないぞ。ピッチャーのボルカノ。セットポジションから……投げました!
チェンジアップだ!打ってライナー、ショートの頭の上!超えていきました、上手いバッティング!!左中間にボールが落ちてタイムリーになりそうだ!」
やや泳ぎ気味になりながらも、低めのチェンジアップに上手く反応することが出来た。僅かな時間のタメで、ショートの頭上を超すパワーだけを充填し、バットでボールを拾う。
打球が鮮やかな芝生の上へ埋もれるように落ちると、スタンドとベンチから歓声が上がり、回れ、回れ!と声が飛ぶ。
2塁からザム君がチーターのような速度でホームを駆け抜ける。
平柳君が3塁を伺う位置で止まるのを確認して、俺は1塁側のスタンドに向かって、今度はリフティングパフォーマンスをして喜びを表現した。
ポニテちゃんの胸元を中心として、女子サッカー代表の面々がフィーバー級に盛り上がっているのが分かる。
ポニテちゃんは、大学を卒業してから、アスレティックトレーナーの専門学校に通い始め、持ち前の明るさと豊満さで見事主席で卒業した。
その後すぐに、女子サッカーのUー17世代のチームにアシスタントとして帯同。
そこでも俺仕込みの献身的な素晴らしい働きをして、日本サッカー協会公認トレーナーとして表彰されることとなった。
そのUー17世代は、かつてのワールドカップで、女子サッカーが初となる優勝。
その快挙を目の当たりにしながら幼年期からサッカーに取り組んでいた辺りの女の子達である。
ですから、稀に見る非常にレベルの高い世代とされながらも、意識の高い選手の集まりですから。
ぶつかり合いも多く、ややチームとしてのまとまりにかけていた。
そんな時にやって来たのが、若手トレーナーとして経験を積み始めていたポニテちゃんである。
彼女がチームに帯同するようになると、自然といい方向に皆が向き始め、翌年の世界大会で世代としては初優勝。
次のUー19のカテゴリーでも連覇という形になり、今やその世代の多くの選手がトップ代表に選出されて、女子サッカー史上最高の黄金世代という評価を得ることとなった。
そんな中で、当初はその世代代わりまでの契約だったポニテちゃんも、選手達と一緒にA代表への階段を駆け上がった。
親しみを込めて、さや姉と呼ばれる、選手達のお姉ちゃんのような存在となっているのだとか。
その選手達の強い要望もあって、気づけばA代表のチーフトレーナーである。
とはいえ、選手達にとってはお姉ちゃん。俺にとっては逆に妹のような存在である彼女も、気づけば三十路だ。
俺に想い焦がれるのは卒業して頂きたいですわね。
カキィ!!
「バーンズだ!!レフト後方!!大きな当たりになっている!!……入りましたー!!バーンズの3ランホームランで一気にリードを広げます、シャーロット!!
バーンズは今月7本目のホームラン!第38号です!!」
よし、一気に4ー0。
これはもらったなと、俺は油断していたのだが、フレッグリン君も2巡目の中軸に2ランホームランを浴びてしまった。
さらに、たまによく出るザム君のファンブルとロンギーの悪送球もあり、一瞬で4ー4の同点に追い付かれてしまった。
そんな時は俺の出番。
セカンドを強襲するヒットを放った平柳君が1塁へ。
そして走る。
俺は空振りしてアシスト。
ズササッー!!
「セーフ!!」
オッケー、オッケー。
「平柳が初回に続いて走り、今度は成功しました。今シーズン、20個目の盗塁成功となります」
「初回もアウトになりましたけど、間一髪でしたからね。今回はその時よりもいいスタートを切りました」
「クックさんも、通算300盗塁超えのスプリンターでしたが、何を心掛けて走っていたのでしょう?」
「ピッチャーの牽制するタイミングですよね。このピッチャーはこの間合いだと牽制する確率が高いとか、この長さのセットポジションで持ったら、もう牽制はないとか。
とにかく情報を集めて分析しましたよ。実はキャッチャーの肩の強さとかはそれほど気になりませんでしたね。
アライのような足でなければ、いいスタートを切ることが出来れば成功します」
平柳君が2塁にいったことにより、セカンドの選手がやや1、2塁間を詰めるようなポジショニングになった。
やはり1、2塁間に打球が飛ぶことが多いというのはバレていますから。
それでも、1塁か2塁にランナーが居てくれたら、そうは極端な守備体形には出来ないわけで。
高めの球をミート。
ピッチャーが差し出したグラブの僅か先を抜けて打球はセカンドベースの右へ、ワンバウンド、ツーバウンド。
強い打球でないが、1、2塁間に寄っていたセカンドは無理。
しかし、ショートの選手が打球に反応し、アンツーカーから外野への芝生に抜けようかという辺りで、ダイビング。
その打球をグラブに収めやがった。
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