1勝0敗。防御率0、00。
「イエースッ!!」
「フォー!!サイコーの気分だぜ!!」
「凄すぎるぜぇ!!」
「新井さん、新井さん!サヨナラ!」
「ジャパニーズサヨナラだな!!」
「「サ・ヨ・ナ・ラ!サ・ヨ・ナ・ラ!」」
まさかまさかの展開であったが、全員が狙い球を絞って、大きいのを狙わずに、出来るバッティングをして、次のバッターに繋ぐ気持ち。
そして最後に欲しいところで、お釣りなしのサヨナラホームラン。この調子でいけば。本当にこのメンバーなら優勝いけるのでは?
そんな予感が思わずよぎってしまう。
スタンドも狂喜乱舞。
楽勝ムードからあまりにも痛すぎる逆転劇にそそくさと帰る相手チームファンは非常に気の毒。
何十年に1回あるかないかのハチャメチャなサヨナラ勝ちに、俺たちはベンチ裏に引き上げても躍りながら喜ぶしかなかった。
シャワーを浴びにいくのも忘れ、多くの選手が上のシャツを脱いで、踊り、騒ぎ、歌いながら喜びを爆発させた。
そんな俺の元に、クロちゃんがやって来た。
「新井さん、新井さん、実は……」
「マジかよ!じゃあ、バットあげちゃうか!」
「えっ!?バットですか!?」
「ああ、ちょうど昨日アンダー社からの補充があったから、交換しようと思っていた頃合いだったからね。じゃあ、早速いこうか」
クロちゃんが相談しにきた内容は、クリスタンテが打ったホームランボールをゲットしたお客様。
その方からの提案は、アライさんの記念のボールになるから、代わりに何かくれたら交換してあげるぜ!
という申し出があったとのこと。
俺は脱いだユニフォームをも1回着直して、そのボールを交換してくれるというファンの元へと向かった。
ベンチを出て、ライトポール際へと向かう。多くのファンが喜びを噛み締めながら席を立って帰ろうとする中、フェンス際で待っている3人の親子。
体格のいいお父様に、大きなサングラスをした金髪のスラッとしたお母様。
何より、お人形のような。まるで絵本から出てきたような愛くるしい、反則的な可愛さの女の子がいらっしゃったのだ。
クロちゃんがお待たせしましたー、と挨拶をする。
「本当に来てくれたのかい?」
「信じられないわ!」
ご両親は熱心なシャーロットファンのようで、緑色のホームユニを着こなしている。
まずは、サヨナラ勝ちの興奮冷めやらぬといった感じのまま、低いフェンス越しにハグを交わした。
そんな様子を目の当たりにしても、女の子はちょっと控えめな性格なのか緊張しているようだった。
彼らは、マーカスさんという。
早速俺はエクスチェンジ用の、金より輝くピンクバットを取り出して、彼らに差し出した。
「ミスターアライ、いいのかい?バッティンググローブやキャップくらいでよかったんだが……」
パパさんは、シャーロットのハイスクールでベースボールをやっていたみたいで、バット1本の価値をよく分かっているようだ。
そう言っているわりには、ボールは娘に大事そうに持たせているわけだが。
「いいんだ。今日あと少しでホームランになりそうな打球を打ってしまったからね。あんな打球は俺らしくない。このバットとは、2つの意味でサヨナラなのさ」
などと、思い付きで達人ぽいことを言ってカッコつけるのであった。
「おいおい、4割打者は言うことが違うぜ」
「これがサムライスピリッツね!」
「それじゃあ、交換しようか。君の名は?」
「シャーロット……」
なんと、マーカス夫妻は自分達が生まれ育った街の名前を娘に命名しているのだ。
俺が自分の子供に宇都宮と命名するようなもの。
しかし、シャーロットウイングスというチームにいる人間がその街の娘さん。
その子をシャーロットと呼ぶのはまどろっこしいところがあるので、ここはポピュラーな愛称で。
「シャーリー。バットにサインしてあげようか?好きなお花の名前は?」
などと、言葉巧みに誘い、おケツに忍ばせていたマジックをバットに走らせる。
親愛なるシャーリー、マーカス一家へとサインし、最後は4人で記念撮影をしたのだった。
そして何より、今日の勝利投手は、このわたくしなのである。
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