リクエストにお応えしますわ!

ほんのちょっとのメンタルや感覚の変化でバッティングというものはすぐに変わってしまいますから。



それこそ赤子の手をひねるようなもんで。


魔法のように出ていたセントルイスとの4連戦が嘘のよう。


2戦目も、猛打賞を記録した平柳君とバーンズの間で仕事が出来ず。


チームも地区最下位のマイアミ相手に、ホームでカード負け越しを喫してしまったのだった。



そうなると余計負けられなくなる、4位シンシナティとの試合。



初戦を落として3連敗となり、逆に2位ミルウォーキーが3連勝。一気にゲーム差が縮まり、ロレンス監督の眉間がまた険しくなってしまった。



まずい、まずいですわ!



チームキャプテンであるバーンズが試合前に選手だけでミーティングを言い出した。


もう1回気持ちを切り替えてしっかりやろう!と、当たり前の事を改めて言った試合の初回で、いきなり前村君が満塁ホームランを被弾。



不運な内野安打とエラーにフォアボールがあったけれど。


当たりのなかった5番バッターへの初球が真ん中高めに入ってしまったのだ。


ライトのクリスタンテがジャンプしてギリギリ届かないポール際へ運ばれる痛恨の1発。



続く2回には、ホームランダービートップをいく、3番ライスに完璧な3ランホームランを打たれてしまう。都合2回で7点ビハインドとなってしまった。




前村君は登板過多なリリーバー事情もあり6回までなんとか投げきりはした。


しかし7回にも若手のピッチャーがまたしてもライスに35号ソロを浴びてしまい、8点差。



打線も散発の3安打でまともなチャンスが作れるずにいると、不甲斐ないチームにファンからは厳しいブーイングを浴びせられた。



セントルイスのことなんて言っていられない無様なプレイの連続。



ザム君の内野安打の後、平柳君がピーゴロダブルプレーに終わり、8回裏も無得点。



ずーんと重い雰囲気のまま、守備に就こうとグラウンドに出たところで、突然ヘッドコーチに呼び止められた。


俺が気付いたのを確認し、通訳のクロちゃんと両方に右手を振るような動作を見せた。



返事をしながらのクロちゃんが俺の側までやって来る。



「新井さん。マウンドに上がって、1イニング投げてくれだそうです」



「マジ!?」



「マジっす!」



「やったぁ!!」



いきなり魚群が出て、外れたと思ったら、図柄が戻って大当たり!!



そんなはしゃぎっぷりである。



ドリンクを1杯飲んでからニコニコダッシュでマウンドに向かう。



「アライサン!!」



大量失点の試合となってしまい、責任を取らされた正捕手ロンギーは交代。23歳と若いキューバ生まれのキャッチャー、ヘスミリス君が俺に真新しいボールを渡す。



オリンピックの代表に選ばれた際に、母国を離れたハングリーマン。3年間マイナーでコツコツと実績を積み上げて、今年メジャーに初昇格した。



一応、クロちゃんもマウンドまでやって来て、何故か平柳君も近付いてきた。



何なら1番険しい表情をして、鼻息が当たるくらいに彼が1番近い。



人差し指1本が右バッターのアウトコースストレート、小指がインコース。親指と人差し指の2本でインコースのカーブ。小指と薬指でアウトコースのカーブ。



指3本はチェンジアップ。サインの後に4本指でブラブラは1球外しと、一通り決めた。



真面目な若者だ。




大量点差での、野手をマウンドに上げる采配。いわゆる敗戦処理というやつだが、れっきとした試合。



真剣勝負の最中である。



というわけで、見た目上はこの雰囲気を楽しむような姿勢。


それでも公園でかえでとキャッチボールするしている時のような球で投球練習を終わらせる。



「バティサー、サードベースマン、ラーイス!!」



敵さんチームの看板選手。今日2ホーマーホームランバッターのライスが左打席に入った。



その膝元を狙って。



いっちょ前にサインに首を振り、追いロジンをして、振りかぶって上から振り下ろすようにボールを放った。



「アアイッ!!」



リリースする瞬間に、漏れ出た声と共に、白球が唸りを上げる。




スパァンッ!!



「ストラーイ!!」



長身の選手の膝小僧の目の前。構えたヘスのミットにボールが収まると、球審はそれまでよりもやや大きなジェスチャーでストライクをコールした。





79mile。Four fastball。



振り返って見たバックスクリーンには一瞬そう表示され、バーンズと平柳君そしてレフトのフィレオフィッシュ君が拍手をした。



79マイル。



およそ128キロ。高校時代なんて、125キロが出るか出ないかだった俺が。8割くらいの力加減で低めに投げてこのスピードとは。



これなら全力で投げれば夢の130キロが投げられそう!




しかし、ヘスのサインはアウトコースのカーブだった。構えは低めだが、変化球のコントロールなんてままなりませぬ。


それでも、バッターのタイミングも合うこともなかった。



アウトコースの高めから真ん中付近に落ちるようにしてやってきた変化球。



キャッチャーのヘスかキャッチしてから一瞬間が空いて………。



「ストライーク!!」



思わずバッターもにやけてしまう感じのストライク。なんとなくサービスストライク。



それで追い込み、最後は外の真っ直ぐだった。



カキィ!!



コンパクトに当てにいきながらも、強く振り抜いたスイング。快音残してセンターに上がった打球は、バーンズがやや後ろに下がりながら余裕を持って捕球した。




カンッ!!



次のバッターにはカーブを叩かれ、いい当たりをされるも、これもライトへの正面へのライナーで2アウト。



その後、2人のバッターに連続でシングルヒットを打たれた後に……。



カンッ!!



ビッ!!



バシッ!!



痛烈なピッチャー返しも、上手くグラブに収まったのだった。


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