さすがのわたくしでもこれは捕れませんわね。
スカンッ!!
今までそんなボール投げてなかったんですけどねえ。
真ん中低めのカットボール。
3ボール1ストライクというカウントになり、フォアボールは出せないとストライクを取りにいったボールになってしまいましたね。
左ピッチャーの真ん中低めのカットボール気味の球なんて、メジャーの舞台になると結構危ないやつ。
ファイヤーレベルの強烈な打球は、あっという間に俺の足元まで。
角度がついてホームランにならなくてよかったですわ。
8回表、ノーアウトランナー1塁。リードはたった1点。球数も、もうすぐ100。
ピッチングコーチがマウンドに上がり、ロレンス監督も球審の元へ。
フレッグリン、交代。
しかし、遠くから見る限り、その表情はどこか晴れやかだった。
デビュー戦というにはあまりにも立派なピッチング。
生涯たった1度と言っていい緊張感。それに加え、自らのクオリティが招いた、ノーノーがかかった独特の雰囲気からようやく解放されたのだ。
真新しいボールをピッチングコーチに返し、内野陣やロンギーに労われながらマウンドを下りると、スタンドのシャーロットファンが立ち上がる。
そして、彼をいっぱいに包み込むような温かい拍手。
バーンズ、クリスタンテ、俺も。グラブを外して若き左腕に賛辞を送った。
ベンチに入ると、賑やかに迎えるDHのブラッドリーや控えメンバーの声が響く。
そしてライト後方にあるブルペンから走ってやってきたのは、イェーガー。オールスターにも選ばれたシャーロット8回の男だ。
身長が175センチと大きい選手ではないが、とにかくロッカーがきちっとしてましてね。
メジャーリーグに限らず、野球選手のロッカーって、本当にごっちゃごっちゃになりがちでして。
どうしても、替えとか予備の道具やウェアを置いとかないといけませんから、上から下までぎっしりになってしまうものなんですよ。
ですが、シャーロットの8回の男のロッカーは素晴らしいね。
もう何も置いてないレベル。
幅1メートル、高さ2メートルに、奥行きが70センチくらいで、真ん中に突っ張り棒とハンガーある真緑のデザイン。それで上2段下1段の棚とナンバーロック付きの引き出しがあるようなロッカーなんですけど。
最低限のウェアと上着と予備のグラブだけ。
所定の場所に所定の物が必ずきちっとした形で存在していないと気が済まない几帳面さ。
ですから、こんな空気の中で、初球アウトローギリギリに93マイルのツーシームを投げ込むのなんて、お手のもの。
引っかけさせた打球がセカンドの正面に飛んだ。
2歩ほど前に出て、ザムが掴み、バックトス。それを平柳君がもらい、ベースを跨ぎながら1塁へ鋭い送球でダブルプレー完成。
次のバッターもチェンジアップを打ち上げさせて、サードフライで3アウトチェンジ。
なんてきちっとしたリリーフなのかしら。
「おめでとうございます!今日のヒーローは、見事なピッチング、フレッグリン選手です!!」
イェーガーが抑えて8回裏、ランナーを1人置いてロンギーの13号2ランが出て勝負あり。
試合終了後、グラウンドに出て全員で勝利を分かち合い、ベンチに戻る選手を掴まえてすぐにヒーローインタビューをするのがメジャー式。
左肩に、アイシングをしたまま、サングラスを外したフレッグリン君がスタンドにキャップを向けた。
「今日がメジャーデビューでしたね。8回の先頭までノーノーでしたね。どんなピッチングを心掛けました?」
「マイナーでやってきたことをそのままやるだけでしたよ。アライサンに、自信を持って、低めを狙って、腕を振ってと言われていたので、その通りにしました」
「なるほど、ミスターアライの助言でしたか。打線は終盤にようやく先制点を挙げ、フレッグリンさんにも嬉しい1勝目が付きました。出来るなら最後まで行きたかったんじゃないですか?」
「もう少し援護が早ければなんて言ったらロンギーに怒られてしまうんで。アライさんからもらったガムの味もなくなってきたので、ちょうどいい頃合いでしたよ」
「またアライさんですか。ちなみに何のガムを?これはすごい宣伝になるかも」
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