びっくりしましたわね!

平柳君にも、俺にも初球はストレートでしたから、裏をかきにいったというところだったのだろうが、内側から真ん中に曲がってくる軌道でした。



足を上げたバーンズの目がキラリーンと光ったのを俺は見ましたよ。



そしてシバかれた打球は左中間スタンドに一直線。ライナー性だったのにも関わらず、中段までのぶっ飛ばし。



エグすぎる。




東アメリカンリーグ現役最強の右打者とされている男の1発で先制した。



「凄いよ、バーンズ。これはいきなりMVPの可能性が出てきたね」



「いや、そんな言葉には騙されないぞ。こういう舞台になると、君はいつでも狙っているらしいじゃないか。既に日本でも、何台も車をゲットしているんだってな」




「な、なに!?どこでそれを……」



「いやいや、有名な話ですよ……。あと、無事にオールスターで出れているのもちょっとした奇跡ですから」



珍しく平柳君がうんざりしたような表情。そして、悪夢のような設定を思い出させてくる。



しかし、バレてしまったのなら、仕方ない。メジャーリーグのオールスターとなれば、MVPの賞品もアメリカンなスケールですから、譲るわけにはいかないしね。



「君がそういうつもりなら仕方ないね。悪いがホームランを打ったくらいで有利になったと思わないことだ」



「ほう、言ってくれるじゃないか。よっぽど凄いプレーを見せてくれるみたいだね。それなら負けた方が、来月発売のVR機能搭載のゲーム機を買ってくるということでどうだ?」



「臨むところだぜ、バーンズ!」





「2人とも、ゲーム機なんていつでも買えるでしょうに」



そんなわけで身内に思わぬライバルの出現となってしまった。



さっきはああいう風に啖呵を切ってしまったが、同じ1打数1安打でも、ライト前ポテンと先制2ランでは差は明らかである。



東アメリカンの2番手ピッチャーは、本拠地タンパベイのエース格。


だが、力みが出てしまったのか、コントロールが定まらずに気付いたら、満塁。それでもなんとか2アウトまで漕ぎ着けた。




カンッ!!




「バットの先!!しかしレフト、面白いところだ!!」



どリャー!!!




「アライが飛び込んだ!!取りましたー!!ここはナイスダイビングでチームを救いましたー!!」




よっしゃあー!!





しかし、次の回。




カンッ!!



「打ちました!ピッチャーの足元、抜けていきます!!セカンドランナー、3塁を回ったぞ!!センターはシャーロットのバーンズだ!強肩だぞ!!バックホーム!!


ノーバウンド!!素晴らしいボールが来ましたぁー!!タッチアウトだー!守ってもこのレーザービーム!!MVPにまた近付くプレーが飛び出しました!!」




なにぃ。





おバーンズは躍動した。



2打席目も、ゴツイ当たりを右中間に打ち、センターが若干クッションボールをもたつく間に3塁まで進み、3打席目はランナーを3塁に置いてレフト線を破るツーベース。



サイクルヒットがかかる4打席目には、センターバックスクリーンに飛び込むホームラン。



3打席目が終わった後に交代となった俺は、3打数2安打とするも、彼はサイクル越えの4の4。


チームの全打点となれば、彼のMVPは満場一致の見解というものだった。



オールスター戦が終わり、シャーロットに帰って、いよいよ明日から後半戦開始というそんな日である。



英気を養うために、夜は日本式の焼き肉屋さんがありましたので、そこを予約して、昼ははスタジアムで練習だ!!



と、クラブハウスに到着したら懐かしい顔に再会した。



「アラサーン!!お久しぶりデース!!ケッコン式以来デスネー!!ミノリンとヤッてますカー?」



鼻の高い色白のイタリアマン。日本を離れて久しいですから、なんだか怪しい日本語力。



それでも、初年度ビクトリーズを知る元助っ人マン。シェパード1世その人である。



「うえーい!久しぶりー!!どうした、メジャーのクラブハウスに!?」



「今、ワタシはマイナー3チームの巡回コーチしてます。去年からメンドウ見ていたピッチャーが初めてメジャーに上がりますンデ、付き添いと案内デス」



「おっ、その案内してきたピッチャーというのはもしかして……」



「そうデース。アイダホ生まれのフレッグリンクン23歳デース!!」



ババーンと現れた青年は、少し赤みを帯びた白人の選手。少し体格は細身だが、しなやかで強い筋肉を纏っているのはすぐに分かった。



俺なんて到底及ばない、素晴らしいバランス。



しかし、どこか緊張しているように見受けられた。



俺は彼の利き腕ではない右手とグータッチを交わす。


そしてちょうど、アジアンショップで大人買いしていた、梅味のチューインガムを与えたのだった。





「噂には聞いていたぜ、フレッグリン君。何でもルーキーリーグからトントン拍子で昇格してきたらしいじゃないか」



「アライサンと一緒にプレー出来るなんてサイコーっす」



「ハハハッ!明日の登板の結果ではその日限りになるかもしれないから気張っていけよ」



「ウェイ!了解っす!」



「そんな固くならなくて大丈夫だって。昨日ちょっと映像で見たけど、十分メジャーで通用するボールだよ。自信持って、腕を振って、低めに。これさえ出来れば問題ないさ!」



「自信持って、腕を振って、低めに……了解っす!」



これから他の何人かの選手にも挨拶をして、明日の先発登板を控えてのトレーニングがあるからと、ここでお別れ。



後半戦最初の試合をルーキーに託すとは、なかなか思いきった判断をしましたわね。



確かにオールスターを挟むとはいえ、1番投げてもらいたいウェブは出場していた。


ピーターソンと前村君は次の手強い相手にぶつけたいところだから、後半戦の初戦誰にしようかという悩みはあったようだ。




少ないベンチ入りメンバーの中には、いわゆる先発もリリーフもこなせる選手もいるので、安定を取るならというところはあるのだけれども。



30球団の中で1番勝率の悪いチームとの対戦、スタメンに左バッターの多い打線。



何より、マイナーとはいえ、スリーカテゴリーを無敗でやってきた勢い。



うちのロレンス監督はその部分に懸けたのが大きかったのかもしれない。



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