1人1本なのは明白ですのよ!
「おーい、ロンパオー、 お待たせー!」
試合後。せっかくだからと、もちゃ男を飯に誘い出した。
平柳と黒ちゃん、桜井さんを引き連れて、ロンパオ一家と合流。
宇都宮駅前通りから1本外れた路地。ピンサロ店の横にある台湾料理店で当時アルバイトしていた奥様。
今は足元をはしゃぎ回るお子様2人の素敵なお母様になっていた。
「どうも、ロンパオ君。ヒラヤナギです。今日はお疲れー!」
「ヒラヤナギさん、オツカレー!」
集合した広場は、球場最寄りの駅から少し離れた広場。
そこには、日本人が経営するとんかつ屋さんがあるという情報をクロちゃんからもらっていたので予約しておいてもらったのだ。
8人でぞろぞろ。途中、ロンパオの下の子抱っこしてダッシュかましたり店に到着。
「いらっしゃいませー!ご来店ありがとうございます!」
出迎えたのは、とんかつ屋シキベエの店主、敷辺さん。日本橋のお店で10年修行した後、アメリカへ。
ステーキハウスやハンバーガーショップなどで武者修行中に出会った奥様と結婚。数年前にこのお店をオープンした。
割烹着姿の奥様のご案内で広い畳の客間へ向かう。お店の中は、地元のお客さん達で結構賑わっている。
アメリカ人向けに、ポークカツ、ポークカツレツ、ポークカツバーガーなんてメニューが人気。
今日は俺の驕り。45ドルの厚切りプレミアムポークカツレツ定食。
さらにメニューの中で一際映えていた、特大ロブスターフライがドドンと鎮座する、特上フライの盛り合わせも注文した。
お店のご厚意で、2人のおチビちゃん達には特性のお子様カツセットを選ばせてくれた。
ここはチビッ子殺しタイムやと、もみじから教わったオリガミを取り出し、紙風船や手裏剣なんかを作っていたりすると………。
ピリリリリリ!!
ロンパオのスマホが鳴り出し、彼は画面の表示を確認しながら部屋を抜け出していった。
試合が終わって1時間半余り。奥様を含め、その電話が意味するものが理解出来ない大人がこの場にはいなかった。
今日の結果がそのまま自分の進退に繋がる状況。あの後、バーンズとクリスタンテをまた味方の美技もありながら抑えたとはいえ、ピリッとしないまま失点を喫してしまったわけですから。
20分程して、目を少し赤くするロンパオが戻って来る。電話そのものは5分かそこらだと思うが。既に注文した料理も届きつつある。
「まあ、座って飲めよ」
俺はそう言って彼にビールを進める。
「ロンパオよ。メジャーだけが最高の舞台なわけじゃねえ。自分のパフォーマンスを最大限に発揮出来るマウンドこそがてめえの最高の仕事場なんだ。
絶対に気持ちを切らすなよ。おチビちゃん2人と奥様の為にも、腕が千切れるまで投げ続けろ。君のドロップカーブを打ったのは俺だけなんだからな。……とにかくしがみついて、抗えよ」
「ハイ。……グスッ、アライサン、アリガト、アリガトウ……」
ロンパオは目元を拭いつつ、同じように涙ぐむ奥様の小さな頭を抱きながら、何度も小さく頭を下げる。
そして俺の分のロブスターフライに遠慮なく箸を伸ばすのだった。
「ロンパオよ、ちゃっかりしてるな!」
「「ギャハハハハハ!」」
アナハイム、アリゾナとの合わせて6連戦を4勝2敗とし、本拠地へと戻って、同一リーグ同地区球団との対戦がオールスター前の最後となった。
いまだ低空飛行と揶揄される打線も、20号を放ったチームの看板選手であるバーンズが西アメリカシリーズの遠征から豪快なバッティングが戻り、ホームランを量産。
平柳君と俺でチャンスを作り、バーンズが返してクリスタンテが追撃するという得点パターンの鋭さが増した気がしてきた。
一時は、打率が2割4分台まで低迷していた平柳君も、いよいよメジャーリーグの舞台に慣れてきたのか、持ち味の積極的なプルヒッティングが随所で炸裂。
東アメリカンリーグの遊撃手として唯一の打率3割到達で、オールスター選出の知らせも受けた。
バーンズが右方向への長打が目立って来たし、ランナーを返した後も気付けばチームトップタイの盗塁数をマークし、クリスタンテのバットで自らも生還する。
思い切りのいい5番アンドリュースと6番ブラッドリーもツボにハマッた時の爆発力は目を見張るものがある。
下位打線のヒックスとザムといった成長株も経験を積みながら、ロンギーもキャッチャーらしい、しぶといバッティングで簡単にはアウトにならない。
気付けばチーム打率は、30球団のトップをいく打線になってしまっていたのだ。
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