もうあの頃の君では……。
「もう5年前ですか。日本のチームからやって来た頃はいい調子でした。しかし、近年は年齢のせいもあるのか、多少ピッチングスタイルをマイナーチェンジして持ち直した時期もありましたけど……。メジャーリーガーとして、正直厳しい立場になっているのは事実です」
「まさに後がないリー。その状況はチームにとっても同じこと。とにかくこれ以上の連敗は避けなければなりません。
1点リードを許した展開。シャーロットの攻撃は8番のロングフォレストからです」
何度もロジンバックに手を付けて、ボールを揉み込むロンパオの姿。
メジャーのボールだから仕方ない部分があるのかもしれないが、ビクトリーズの頃のロンパオは、あんましそういうのを気にしないピッチャーだった。
テンポよくどんどん投げる。たまに鶴石さんがちゃんと考えて投げてんのかと怒っていたくらい。
それと、ちょっと痩せたなぁという感じ。
ビシュッ!!
シュルルル!
スパーン!!
「ストライー!」
真ん中低めに少し動いたボールが決まる。カットボールだろうか。球速は87マイル。140キロ程度だ。
ビシュッ!!
カキッ!!
バシィッ!!
「オオーッ!!」
痛烈なライナー性打球。ショートの選手がセカンドベース方向へ、目一杯に体を伸ばしてナイスキャッチで1アウトになった。
カンッ!
ザムも2球目を打っていった。アウトコースへ向かっていくカットボール。バットのヘッドを残すようにして、叩いた打球はショートの左へ弾む。
それほどいい当たりではなかったが、打球が掴まれた頃には送球しても到底刺せない位置。
内野安打になった。
「1アウトランナー1塁となりまして打順はトップのヒラヤナギです。このところ調子を上げて、打率も2割7分台に乗せてきました」
「オールスターの人気投票も集めるナイスガイですね」
「日本時代のデータでは、リーとの対戦で打率は2割8分5厘。ホームラン3本。左対左というのを考慮すると、まずまず打っている数字でしょうか。初球は低めに外れました」
ロンパオと言えば、ノビある直球に、ドロンと曲がり落ちるドロップカーブのコンビネーションだった。
しかしここまでそのストレートもドロップカーブもない。コーナー付近に打者の手元で曲がるようなボールばかり。
それが良いか悪いかは置いといて、バッターとしての怖さは感じないだろう。
2ボールからの3球目。若干外寄りの低めのボールを平柳君が狙い澄ましたように強振した。
カキィ!!
引っ張ったスイング。気持ちのいい打球音。低い打球のまま、ライト後方のフェンスに直撃。
僅かにファウルだった。
地面から伸びたラインと黄色いポールから下ろされたラインの数十センチ右側。
強く跳ね返った打球がファウルグラウンドのフェンス際をネコが走るように転がっていた。
「ヒラヤナギの打球は惜しくもファウルです。アウトコースの低いボールをライトフェンスまで軽々飛ばしました」
「すごいスイングでした。僅かなアンラッキー君が彼のヒットを阻止してくれました。同じボールは危険です。タイミングを外す、カーブやチェンジアップを投げたいところです」
「4球目はそのカーブだ。しかし、低めワンバウンド。キャッチャーが押さえています。3ボール1ストライク」
5球目はアウトコースへの速い球それでもバッターを怖がって投げたような大きく外れる球。
平柳君はフォアボールを選んだ。
「バティセカン、トキヒト、アライー!」
ピー、ピー!
という相手ファンのブーイングが気持ちいい。
打席に入ってしまえばね、相手ピッチャーの背景とかはあまり関係ないですから。
平柳君に1球だけ投げたドロップカーブだけは一応頭に入れておいて、低めのカットボール、ツーシームという球種を引っ掛けて内野ゴロというのだけは避けたいところだった。
そんな中で初球、2球目とその低めのちょいと動くボールが僅かに外れる。
3球目は、もう半ば開き直りという感じのど真ん中目掛けてきたようなストレートだった。
それが若干スライドする形になり、インコースベルトの際どいコースへ飛び込んでくる。
「ストライー!!」
これで2ー1。膝に左手を置く格好でロンパオがキャッチャーさらのサインを覗き込む。
もういっちょ速いボール。そんなイメージだったのだが、来たのはアウトコースのボールゾーンからドロンと曲がり落ちるドロップカーブ。
紛れもないロンパオのドロップカーブ。キレよし、速さよし、コントロールよしの彼の1番いいボール。
もう11年前ですか。栃木の山奥の球場で行われた入団テストの時を思い出しますよ。
初めて相対した台湾人リーガーの本物のボール。
あの時は俺もただのパチンコ屋の店員。ライト線ギリギリにポテンヒットを打つので精一杯でしたが、今はメジャーリーガーなんですよね。
あの日のとんかつ代もまだですしね。
ピンクバットから放たれた打球は、ライトの頭上を深々と破り、ワンバウンドでスタンドに飛び込んでいったのだった。
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