第2話 オープニング

 街へ向かう小高い丘を抜ける経路。

 周りは木々に囲まれ、人気などはない。

 そこに人の倍はある生物が、目の前の二人に威嚇していた。


 一人は少年で両膝を地面に付き、遠くから見ると黒と見違えるほど濃い紫色の髪を振り乱し叫んでいる。


 「お兄さん! しっかりして! 目を覚まして!」


 お兄さんと呼ばれた青年は、金髪に整った顔立ち。腰に剣を下げている事から剣士だろうが、顔だけ見れば優男だ。


 (どうすればいいんだ。このままだと僕らは死ぬ)


 少年は、チラッと生物を見た。

 この世界ではモンスターと言われる化け物だ。

 茶色くてごっつく、吊り上がった赤い目がその鋭い爪が、次は少年の番だと言っている。


 倒れた青年は、このモンスターにやられたのだ。

 彼を置いて逃げれば助かるかもしれない。

 現に一度、逃げろと言われて逃げた。だが、青年がやられてつい戻って来てしまったのだ。


 青年は、剣で切りかかるも攻撃は効いている様子はなく、振り下ろされた手で吹き飛ばされた。

 彼は何とか腕をモンスターに向けると、魔法を繰り出した。

 光り輝く光線でモンスターを貫く。

 モンスターも一度はそれで倒れ、少年が慌てて青年のもとに戻った。


 呼びかけても彼は、目を覚まさない。

 息はしている。目を覚ませば逃げられるかもしれないと、呼びかけても目を覚ましてくれないのだ。


 起き上がったモンスターが、一歩近づいて来る。


 「うわぁー!」


 それは無意識だった。

 少年は、咄嗟に右手をモンスターに向けていた。青年がしていたように。


 モンスターが、先ほどの様に倒れた。

 少年は、唖然としてモンスターを見た後に、自身の右手を見る。

 右手からは、青年が放ったような光の光線が出たのだ。


 (意味が分からない。僕には、オーラがないはずなのに。なぜか、お兄さんが使った光の光線が出た。光なんて珍しいオーラなのに)


 少年はハッとする。

 魔法だって初めて見た。オーラなど聞いた事もないはずなのだ。


 (光のオーラ? 珍しいオーラ? なぜ僕はオーラを知っているの? オーラって一体……)


 「いた……」


 ズキンと頭に激痛が走る。


 少年は、両手を地面に付き肩で息をする。

 目の前の青年と同じような者が、戦闘をするシーンなどが浮かんでいる。

 ただそれは画面越しだった。

 画面……それは、この世界にはない表現だ。


 少年は、激痛が収まり、ぼんやりと左手に見える纏わりつく光のオーラを見て、何となく理解した。

 これが右手にもあって、さっきはこれで助かったのかもしれないと。


 少年は、横たわる青年を見た。

 思い出した映像と重なる。この場面を知っていると確信した。

 それは、前世で遊んだソーシャルゲーム『オーラヴェイラー』のオープニングと同じだったのだ。


 「確か主人公のデフォルトの名前は、オーラン……」


 青年から聞いた名前もオーランだった。

 少年は、ごくりと唾を飲み込んだ。


 「マジか……僕は、ダンジョンRPGのゲームに転生したの? しかも、オープニングで死んでしまう名前もない、ただの死に役のモブ!?」


 少年は、足がすくんで立ち上がれない。

 ゲーム通りの展開なら、彼を放置しても死にはしない。オーランは主人公だからだ。


 (僕はどうあっても死ぬの? 刺客から逃げ出したはずなのに!)


 黒い影が動いた。

 ハッとして振り向けばモンスターが、起き上がろうとしてた。

 ゲームでは少年はこの後モンスターに殺され、助かった主人公のオーランは、自分が弱かった為に彼を死なせてしまったと、自責の念で苦しむ話からスタートする。


 「あ……」


 少年とモンスターの目があった。

 琥珀色の少年の瞳が、恐怖で見開かれるのだった。

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