オーラヴェイラー~The Survivor of Fate

すみ 小桜

第1話 プロローグ

 温かな日差しが差し込む窓辺に、無表情で外を眺める貴婦人。

 茶色のストレートの髪が、冷たさを引き立てる。

 レモン色の瞳が、外の風景からノックされたドアへと移った。


 「どうぞ」


 凛とした声が貴婦人から発せられた。


 「失礼します……」


 紺色のワンピースを着た女性がお辞儀をして入って来る。

 彼女は、水色の髪の様に、真っ青な顔色だ。


 「イザベリナ様。申し訳ありません」

 「レンティー。あなたは何も悪くはないわ」


 貴婦人もといイザベリナは、レンティーへと歩み寄った。


 「ありがとうございます」

 「気を付けてね」

 「はい」


 イザベリナは、自分の下から去って行く彼女の背を見送った。


 ランキリーウ王国の側妃のイザベリナは、幼馴染の彼女を侍女として連れて来た。だが彼女は、侍女を辞め去って行く。

 彼女を守る為の決断だ。




 「彼女、辞めちゃったのね」


 廊下で王妃であるカサンドラとすれ違うと、彼女はニヤリと笑う。

 深紅のワインレッドの髪を束ね、同じ色のドレスを着た彼女は更に続ける。


 「その澄ました顔が泣き顔に変わるのを楽しみにしているわ」


 カサンドラのワインレッドの瞳が細められた。

 だが機嫌はよさそうだ。


 泣き顔など見せるものですか。

 口には出さずに、そう思いながら歩むイザベリナは、彼女の恐ろしさを思い知る事になる。


 「お父様が亡くなったですって!」


 翌年、訃報の知らせを聞いたイザベリナは、あり得ないとカサンドラの関与を確信した。

 しかし、証拠がない。


 「お母様?」


 悲しみと怒りで体を震わす母親を見上げ、レモン色の瞳は不安げだ。


 「オーラン! あなただけは絶対に守るわ」


 屈んだイザベリナは、息子をギュッと抱きしめた。

 父親であるセルゼリックと同じ金髪を撫でるが、彼女は公爵家という後ろ盾を失ったのだ。


 オーランは、第一王子だ。

 だがこの国は、生まれた順で王になるわけではない。


 王位継承権を持つ者が10歳の時に、継承権を放棄するかどうかを本人が決める事ができる。

 そして、放棄せず二人以上の継承権を持つ者が居れば、どのものが相応しいかは王が決め、指名する。

 つまり生まれ順は関係なく、その者の能力で決まるのだ。

 敗れた者は、もれなく男爵●●となる。


 勝てないとわかっていれば、放棄する方がまだましだった。

 王族として結婚して臣下にくだる事が可能だからだ。

 また、13歳までになりたい職を目指す事を決め、その道へ進む事ができた。


 10歳になったオーランは、継承権を放棄した。

 もし放棄しなければ、王妃であるカサンドラが何をしてくるかわからない。

 オーランは、騎士を目指す事にした。


 だが彼の運命は、作られて●●●●いた。


 13歳になり騎士学校に通う直前に彼は、家を別な形で出てく事になる。


 「母上、俺の事は忘れてください。父上は母上に酷くはなさらいでしょう」

 「何を言うの? もしかして……待ちなさい!」


 イザベリナの手は、彼を掴む事はできなかった。

 オーランは、その日から二人の幼馴染と共に姿を消したのだった――。

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