プロローグ〈後編〉 オカルトラジオ📻♪
俺は、あまりの恐ろしさにカーラジオの電源を慌ててOFFにし、車の外に飛び出した。慌てて辺りを見回すが、周囲には誰も乗車していない車が何台か止まっているだけで、人の気配など全く無い。
情けないことに、俺は暫くの間オロオロと車の周りを歩き回った。どこかの村で、とんでもない事態が起きているに違いなかったんだ。
携帯電話で通報しようと思い至った俺は、携帯電話が車内に置きっぱなしだった事に気が付いて、一旦車内に戻ることにした。荒い息もそのままに車の中に戻っても、まだ俺の心臓は驚く程に震えている。
110と押してから通話ボタンに指先が向かった時、俺は我に返った。
通報するって、何を……だ?
そう言えば、どこの村で何が起こっているか、自分はまるで把握していないじゃないか!?
村の名前は電波状況が悪くて、よく聞き取れなかった。
状況だってよく分からない。
それに化物って何だよ?
警察に、名前も何処にあるかも分からない村が、よく分からない化物に襲われているみたいだって通報するのか?おいおい、正気なのかよ!?
理解出来ない出来事が起こり、俺の頭の中はパニックを起こしていた。どうなっているのかラジオ局に確認してみようと、携帯電話を手に握ったまま俺は固まってしまった。
…………一体、どこの局なんだ?
そういえば、”秘密の花園”の番組内で局の名前を名乗っていたか?いいや、名乗っていない。そんな事が、あるのだろうか?いやいや放送している局名を名乗らないラジオ番組なんてあるはずがない。
その事に気が付いて、俺はぞっとした。
俺は慌てて車を発進させると、その駐車場を後にした。落ち着かない心持ちのまま暫く車を走らせていると、段々と気持ちが落ち着いてきて冷静に物事を考えられるようになっていった。
さっきのアレ……違う局の放送が紛れ込んだだけなんじゃないか?
朗読ドラマかなんかのフィクションの………
それにしても、聴き馴染んでいたあの番組は、一体どういう番組なんだろう?
思い返してみれば、まるで所在が分からない番組だ。局名もそうだが、CMも一切なかった。放送局も不明ならスポンサーも不明。もちろん国営放送でもない。
そう言えば、あの番組の後はそのまま寝入っていたので気にならなかったが、あの周波数はあの番組以外の違う番組が流れているのを聴いたことがない。
考えれば考えるほど全身に悪寒が走って、俺はぶるっと体を震わせた。
………もう、あの番組を、聴かなきゃいい話じゃないか。
そんなことを自分に言い聞かせて心を落ち着かせると、俺は街灯が明るくて広めの道路を選んで車を脇に止めた。そしてサイドブレーキを引いてハザードランプを点滅させると、大きく息を吸い込んだ。
「………何だったんだ?あのラジオ番組は?」
その日から俺は、ラジオのスイッチをONにすることはなかった。
暫く経っても、どこのマスコミもどこかの村で大きな事件や災害があったという報道をすることはなかったし――やはり、そんな事件など起きていなかったんだろう。
それから直に、俺は会社に頼み込んで夜から昼の勤務に変えてもらい、あの時間にラジオを聴くどころか車に乗る事もなくなったんだが……今になって、色々と調べてみたんだ。―――やっぱり気になってな。
あの番組”秘密の花園”の事なんだが、色々調べても何も情報が出てこなかった。そんな番組、どの局でも放送されていなかったんだよ。
まず考えられないことだが、ラジオ局以外の個人でやっているネットラジオを偶然キャッチしてしまったっていう線も考えた。だが、それも無さそうだ。番組のことは全く情報が無いし、分からないまま。それでも、どうしても気になってな―――。この掲示板で、お前らに聞いてみたんだよ。
やっぱり………
もう一度、あの番組を聴いてみるしかないか。もしも、この掲示板で分かったのなら、そんなことをするつもりも無かったんだけどな。後は、この方法しか思いつかん。
明日の夜―――俺はもう一度、同じ時間に同じ場所で同じ周波数に合わせてみようと思う。もちろん同じ車でな。
そうすれば、何か分かるかもしれん。
もし何か分かったなら、お前らに報告する。
………それじゃあ、おやすみ。
―――またな。
しかし、その書き込みを最後に、そのスレ主が掲示板に戻ってくる事はなかった。
そして、その書き込みがネット掲示板に書き込まれてから数日が経ち、とある病院横の駐車場で一台のタクシーが放置されていると、警察に通報があったそうだ。警察がタクシー会社に確認すると、そのタクシーを運転していた運転手と連絡が取れなくて困っていたという。結局、その後もその運転手との連絡が取れることはなく、行方不明者として捜索願いが出されたそうだ。
―――今でも、彼の行方は不明のままだ。
◇ ◇ ◇
………ここまでが、何年か前にこの掲示板内を賑わした通称「オカルトラジオ」と呼ばれている都市伝説スレの始まりの内容だ。当時、掲示板の中ではちょっとした騒ぎになったから、当然知っている奴はいると思う。だが、お前らは勿論知っているよな?「オカルトラジオ」が、本当の意味で伝説と呼ばれるようになったのは、この先の出来事からだったよな?
さて、これからオレは、この続きを書き込んでいく。
釣りと疑う奴も、勿論いると思う。だが、最初に言っておくぞ。
今から話す物語は、創作ではない。
冒頭にも書いたが長い話になるし、何人かの人生を巻き込んだ重たい話になるから
観覧注意だ。それでもいいという奴だけ、どうか話の続きを聞いてくれ。
―――但し、スマン。
これからオレはある人に会いに、少し遠出をしなくちゃいけないんだ。その用事が済んだ後で、書き込みを始めようと思っている。
書き込みのスタートは、そうだな………
1月3日のAM3時30分から始める。
少し先になってしまって申し訳ない。その代わりと言っちゃなんだが、待たせた分、一気に話をする約束をさせてもらう。
それじゃあ、その時間に―――またな。
そう書き込んで、私はPCのキーボードから手を離した。
別に、勿体ぶるつもりもない。本当なら直ぐにでも全て書き込みたいところだが、これから私は本当に人に会いに遠くに赴かなければならないんだ。
何故なら、この出来事はまだ本当の意味では終わってはいないからだ。そして、これから会いに行く人は、この出来事を結末へと導いてくれる大切な人なのだ。
書き込む日をその日に決めたのは、手元にある日記帳の最初のページが、その日付だったから―――区切りをつけるには丁度いいと思った。
玄関に向かうと、小さなキャリーケースが既に準備を終え、私を待っていた。私はそれに手を伸ばし、外へと一歩踏み出した。わざとゆっくり閉めた鍵がカチャリと重い音を立てて――「もう引き返せないよ」と、私の心に囁く。
この旅から戻ってきた時……
私は、どんな気持ちでいるのだろうか?
不安に胸を圧し潰されそうになりながら、何度も繰り返す葛藤に自分では答えなど出せない事を私は知っている。
その答えを知るには、彼に会うしかないのだ。
彼の答えを知る前に敢えてあのスレッドを立てたのは、その勇気をもらう為。スレを立てた以上、どんな結末になろうと最後まで書き切ろうと私は心に決めていた。そうする事で、どんな結末になろうと自分を保てるような気がしたから―――。
外に視線を向ければ、まだビルの隙間から顔を出し始めたばかりの太陽が、夜空を橙色に輝かせ始めている。
その光にも勇気を貰い、《《私達》》は一歩、歩みを進めた。
物語は、「―ヒミツの花園🥀―」本編へと続きます。
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