第33話 決着点

「…おかえり。」

「ただいま!」

 胡蝶ちゃんの顔は澄んでいた。朝日が昇る。


 おじいちゃんがずっと嫌だったのは、「私が至の医者として間違った道を進むこと」だった。

 陰で「至の最高傑作」と呼ばれていたのは知っていた。そのせいで他の人より厳しい指導があることも薄々気づいていた。お姉ちゃんたちは気に入らないようで、大きくなってからは会話も無い。

 爪紅を塗ること。恋愛をすること。可愛く着飾ること。友人を作ること。…人斬りのひとたちと仲良くなること。これは間違った道だとおじいちゃんは言いつけた。


 ちょっと期待していた。巴さんの道場も京子ちゃんの周りも危険が存在する。だから関わることをやめるように言ってくれていたのかと思ってしまった。それは見当違い。至胡蝶を失えないから、それ。


「おじいちゃんたちは、誰も私を見てはいなかった…!」

 ここまで途切れることなく続いた傍白は一度足を止めた。泣き出す彼女を抱きしめる。あの夜、祝福してくれたのと同じように。


 私は娼婦の娘だ。実は家のしがらみを理解できなかった。元々愛なんて受けて育っていない。構ってもらったこともない。それが当たり前すぎて、求めたこともなかった。

 それでも師匠お兄ちゃんや仲間に置き換えれば解る。寂しい、じゃないか。


「今の至ではこの環境は変わらない。だからね、決めたの。」

 私の胸から顔を上げ、手をしっかり握る。胡蝶ちゃんが治療してくれ、傷も残らず治った掌を包む。

「私が当主になった。」


 至の当主は投票制。立候補者を家の者や家に勤めている人が選ぶ。深夜家に帰り、緊急で決めたそうだ。実力で見れば、ふさわしいことは明らかだった。そして、正常に判断できる人もまだいた。お姉さんたちも認めたらしい。

 これらすべて、胡蝶ちゃんが一人で決めたこと。でも、るかくんの存在は大きかったんじゃないかな。


 胡蝶ちゃんを寝かせ、居間に戻る。

「うーん、吃驚したよ。てっきり家でるもんだと…。」

 ちょっと欠伸しながら思ったことをそのまま言った。手には酒を持っている。

「当主になれたのは努力を続けて圧倒的に技術をもってたからだろうな。あの人柄だ、助手たちからは相当慕われてたらしい。胡蝶にしかできないよ。」

 眠そうなるかくん。

「前代はどうするんだ?」

 酒を注ぎ、渡しながら朱現くんが問う。

「当主サマ絶対、らしいからな。胡蝶がそうするかは知らねえが。特に追放なんかはしないらしい。」

 無言で盃を傾ける一くん。

「一くん、珍しいね。なんか気になる事でもあった?」

 胡蝶ちゃんの件に協力的。帰りまで待っていた所を見ると何かあるのだろう。

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