第27話 記憶

 罪の意識がないわけないじゃないか。


「続けよう。ここにいる者に加え、警官・剣・精兵隊にも協力を要請する。構わないか。」

「いい、でもうちの子たちは戦闘には出さない。警官に関しては署長に聞いて貰えばいいけど、許可なんていらないと思うよ。」

 剣は私の宝物。拾い集めた鋼を鍛えて、鍛えて剣にしたの。死ぬなら私一人で良い。

「精兵隊も構わんですよ。そういう為の集まりですし。」


 精兵隊。かつて芳賀宜道を隊長に据え、原田左之助と共に立ち上げたあの靖共隊の名残。永倉を長とし剣術を持つ者を中心とした部隊。私や一くんが偶に剣術指南役として呼ばれているほど、今もなお刀に生きている者たちの集まりだが、しっかり統率が取れており政府からの信もある。

 彼らは新政府に恨みがある、訳ではない。しかし旧幕側の人間は多い。故に纏められるのは永倉ただ一人である。時代の敗者として生き残った魂は消えることなく爪を研いでいる。


 その後も言葉を重ねていると使いが一人、近寄る気配がした。扉を開いてやる。

「桂さん、呼ばれてるみたいだよ。」

 何かあったようだがそれは私の知るべきことではないのだろう。彼が上、私は下。

「…また使いをだそう。今日のところは先に失礼する。」

 立ち上がった彼に合わせ、朱現くんは腰を浮かす。何か小声で話した後、桂さんは笑う。

「京、任せたな。」


 桂小五郎は決して後悔しない。姫崎京子に人を斬らせることに情けをかけない。


「いいの。これしか、京にはできないから。」

 同じく笑みをたたえた唇を他所に、目の中には蘇芳の記憶がぽつりぽつり。



 一月が経った頃。

 良くも悪くも何事も起こらず、寒さだけが追いかけてきた。そんな今日、道場に遊びに来ていた胡蝶ちゃんを送る為、二人、日の落ちた往来を歩いていた。

「るか、すっかり京子ちゃんに懐いたよねえ。会ってすぐはつんつんしてたのに。」

「確かにちょっと態度が丸くなったような…。さすが、よく見てるね。」

「そりゃまあね。」

 誇らしげに頬を染めた。


 胡蝶ちゃんの実家、至家はとても厳しいと聞いた。彼女はるかくんと婚約していると言っていたが、両親から認められていないようだった。火災の日に挨拶をさせて貰った当主の姿を思い出す。薬の匂いがする、おじさんだったかな。


「それ、欲しいのか?」

 ここ暫く、毎日見かけていた女に声を掛けてみた。

 化粧をする道具が売っている店に足繫く通い、店頭に置いてあるちっこい何かを眺めてはそのまま立ち去る。宿からは丁度良く観察できた。

「…爪紅か。塗ったらいいんじゃねえの?綺麗な手してるし。」

 指先で容器をつまむ。紅花が咲いていた。

「いいんです。これは、私には使えないので。」

 女は俺の指先をじっと見つめ、その場を立ち去ろうとした。

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