第3話 葉と葉が重なるように
季節は巡り、再び秋がやってきた。
女がすすき野に誘うも、鬼の子は首を横に振った。
「行かない」
「迎えに来ているかもしれない」
「だったら、捨てなければ良かったんだっ!!」
鬼の子はすがるような目で、女を見上げた。
「一緒にいたら、困る?」
「そんなことない」
女は微笑むと、鬼の子の頭を撫でた。鬼の子はくすぐったそうに、目元を和らげた。
女は採ってきた栗を乾燥させるために、石の上に並べていく。
鋭い痛みが、胸に走る。女は胸に手を当てて、痛みに耐える。苦しむ顔を近くにいる鬼の子に見られないよう、深く頭を垂れる。
(日に日に、痛みが強くなっている。死が、すぐそばに迫っている……)
女も、鬼の子と一緒にいたいと願っている。けれど、それは叶わない。
女は、二枚のクスノキの葉を鬼の子に見せた。
「私の命は、もうじき
「死んじゃ嫌だ!!」
鬼の子がわんわん泣いていると、三人の男が現れた。
「泣き声のおかげで、見つけることができた。お迎えにあがりました。都で、父上がお待ちです」
「嫌だっ! 帰らない!!」
鬼の子は、女の背中に隠れた。
「僕の家はここだ!!」
「ならば、仕方ない」
背の高い男が、刀を抜いた。男は躊躇うことなく、女の胸から腹にかけて斜めに切る。
鮮血が吹き、女は倒れた。鬼の子は女を掻き
「泣いたから、見つかった……。背中に隠れたから、斬られた……」
女は、頭を緩く横に振った。
「あなたは、なにも悪くない」
女の手が伸び、鬼の子の頬を包む。鬼の子の目から落ちた涙がぽたりと、女の顔を濡らす。
「この人たちが来なくても、私は死んだ。父のところで、幸せになって」
女は微笑みながら、瞼を閉じた。鬼の子の頬を包んでいた手が、落ちる。
鬼の子は女の体を強く抱きしめ、自身の体に血を染み込ませる。
三人の男は、慟哭する鬼の子に心動かされることなく言う。
「邪魔する者がいれば殺すよう命じたのは、おまえの父。恨むなら、父を憎め」
「疫病が蔓延している。おまえの父は、陰陽師。災いを祓うのに、生贄が必要なのだ」
「民の役に立つのだ。ついてこい」
背の高い男が刀を構え、もう一人の男は両手に縄を持つ。鬼の子を捕まえようと、三人の男が動く。
黒かった鬼の子の両目が、赤くらんらんと輝く。頭から伸びた、二本のツノ。
鬼の子は、三人を襲った。
男たちは体を食いちぎられ、息絶えた。
鬼の子は土を掘ると、穴の中に女の体を横たえた。
その胸の上にクスノキの葉を二枚、並べて置く。
「葉が重なるときを、待っている」
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