第6話 初めての...
瞼を閉じただけでは防ぎきれない閃光に思わず身体を丸める。
音は光よりも遅い。つまり閃光の後には音の壁、所謂衝撃波が迫る。そこで確実に死ぬ。逃れる事の出来ない死を待ち続けるも何かがおかしい。
「あれ......なんで? 」
恐る恐る顔を上げるとまた虚無の空間で身体を浮かせていた。
そして再び扉に吸い込まれ、気がつくと見知らぬ地で目を覚ました。
そしてまた一週間後に【死】んだ。
これを何度繰り返した事だろう。
また同じように目を覚ますとネオン煌く街の中にいた。
光と音で頭がおかしくなりそうだった。
夜の街に渦巻く人々の欲望。
笑顔の仮面で彩られた金に群がる人々が気持ち悪くて吐きそうだった。
「どうせお前らも死ぬんだ馬鹿が。精々最後の一週間を楽しめよクソが」
ふらふらと街の中を歩きゴミ箱を漁る。
大型にネズミがそこら中にいた。つまり飯はあるという事だ。
ゴミ箱を漁っている所を運悪く見つかり物を投げられた。それでも順調に食う物は確保できた。
そして4日目の晩。同じくふらふらとネオン街を徘徊していた。
こういう生活になってから気付いたのだが、前を向く事が無くなった。
下を向いていればお金が拾える事も多いからだ。
だから、人通りの多い場所では良く人にぶつかってしまう。
それでも普通の人は舌打ちをする程度で済んだが、今日は違った。
両サイドに肌の露出が多い女性を連れて歩く若い男。
多分水商売系だろう。
その女の片割れにぶつかった事が運の尽きだった。
男は怒声を放ち、己の強さを誇示するかのように暴言を放ち、胸を張り、僕の左肩を右手で突き飛ばしてきた。
満足な食事すらここ数ヶ月摂れていない。
身体はそのまま後方に飛ばされて地べたに転がり、壁にぶつかった。
「おいコラッ! ホームレスが!! テメェ道の真ん中歩くなんて数千年はえぇんだよ。 誰の女にぶつかってんだ! あぁ!? 」
転がったワタルの服を掴み、強制的に身体を引き起こす。
「ったく、クッセェな」
そう言うと今度は握りしめた拳で左頬を殴りつけた。
二度、三度と殴りつけ、四発目でついに服を掴んでいた手も外れ再び壁に吹き飛ばされた。
ワタルは、抵抗する素振りすら見せなかった。
彼はある物を見て驚きを隠せていなかった。
自分を殴りつけていた男。
なんと自分と瓜二つなのだ。
容姿、体型、声、何を取っても寸分違わない。
相手はそれに気づいていなそうだ。
正気もなく、見窄らしい格好をしている人物の顔なんてマジマジと見る事はない。
だが驚きも次第に収まると、あり得ないほどのドス黒い憎悪が腹の底から湧き出てきた。
「僕は、こんなわけもわからず......なのにお前は幸せそうで.......それなのにこんな風に人を傷つけて」
「あぁ? 何言ってんだぶつぶつと。気持ち悪いなゴミが」
そう言うワタルに似た男はツカツカとワタルに近づいてきて蹴りを入れる。
女達はそれを見て笑っていた。
周りの人もただ見て指をさして笑ったり、我関せずと素通りしたり。
救いなど一切無かった。
執拗に蹴られた為か吐血した。内臓が傷ついたのかもしれない。
「うわっキタねぇ。 こいつゲロしたよ」
大声で笑うワタルに似た男。
女達も男を絶賛するかのような声援を送り、それに満足したのか男は踵を返して女達の元へ向かった。
腹痛が酷い。しかしそれよりももっと酷いのはやりようの無い殺意だ。
蹲るワタルの眼前にコンクリートの破片が落ちていた。
多分、ビルの老朽化により剥がれ落ちて外壁の一部であろう。
手をゆっくり伸ばして石を拾う。
立ち上がる力が無い。だが火事場の馬鹿力とはこの事だろう。壁に手をかけ痛む身体を起こす。
ドラマじゃこんな時叫ぶ物だろう。しかしワタルにはそんな事する余裕すらない。避けられたら反撃にあい死ぬだろう。
まさに一撃必殺。
残された全体力を足に集中して走り出した。
男がこちらに振り向くとほぼ同時に、持っていて右手の石を眉間に叩き込んだ。
思わず後ろに転がり顔を押さえて暴れる男。
隙を与えてなるものかと馬乗りになり、今度は両手で何度も何度も顔面を狙い石を叩きつけた。
鈍い音、飛び散る血飛沫、響き渡る悲鳴。
どれもがスローに感じた。
そして血で濡れた手のひらから石が滑り落ちると、ワタルの攻撃は終わった。
冷静に顔を見る。
もはや見る影もなく、そこにある“物”は生命活動を完全に停止していた。
腹の中から血と、先程のゴミ箱から拾って食べた飯が込み上げて男の顔にかかる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
ワタルは雄叫びを上げて血まみれの手を振り回した。
そこはまるでモーゼの如く人の海は割れて道が出来上がる。
全速力で駆け抜けるとワタルはビルの隙間へ身を隠した。
己を超えて限界突破〜可能性はインフィニティ〜 八隣 碌 @kuronosu99
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