第45話 トップ会談

 キーリュと晩飯を食べることになった。

 せっかくなので、大勢で食べられるように、酒場を貸しきることになった。別に誰が来てもよかったのだが、みんなキーリュを前にびびってしまい、誰も酒場の中に入って、席につこうとするものはいなかった。

 オレは、ナナイと隊員達を誘ったが、もれなく全員ビビっている。結局、キーリュとオレと付き人だけの、寒々しい場所になってしまっている。

 そんな状況を見て、キーリュはナナイに言った。


「こんなにうまそうな食事を前にして、相手が国王だと言うだけで諦めるのか。帝国で一番の部隊だと思っていたが、思い違いだったようだな」


 そんな言葉に、ナナイが反応した。

 わざわざ王の横の席に座った。

 それを見た隊員たちは、恐る恐る、開いているテーブルに座った。

 それを見たオレは、満足して次々に料理を出していった。


 食は、人を幸せにする。


 あんなに恐々していた空気だったが、料理が運ばれるとみんなうまそうに食べてくれた。美味しそうに食べてくれる様子を見れて、オレも満足だった。

 一通り食事が終わったところで、デザートを出した。

 森のフルーツのフルーツ盛りだ。

 すべての料理を作り終わったオレも、席について果物を口に運んだ。


「ところでキーリュ。話があるんだが」

「ああ。今後についてだろう」

「そうそう。オレはお前を気に入った。お互いに協力していかないか?」

「──条件は?」

「別に特段はない。強いて言うなら、互いに協力する、ってことぐらいかな。森への不可侵さえ守ってくれたら、それで良いよ」

「他には?」

「他には? って、別にないかな。そっちは森の資源が手に入って嬉しい。こっちは千年前の遺恨を解消できて嬉しい。双方に有益。めでたしめでたし、だ」

「それでは、対等になってしまうな」

「──それのどこに問題が?」

「お前は国と言うものを知らないらしいな。だからオレ様が直々に教えてやる。国は常に、上でなくちゃならない。対等じゃあ、ダメなんだよ」

「面白いこと言うじゃねぇか。聞かせてくれよ。そっちの意見を」

「欲しいものを言え。それをやる。国には、それが必要なんだ」


 オレは、鼻をならした。


「イカれてる。だけど、面白いな」

「そういうものだ。パートナーには、贈る物は、最高でなきゃならんだろう」

「良いこと言うじゃないか。ただな」


 オレは、少し困った。


「欲しいものはもう持っている。だから、キーリュに頼みたいものは、ないな」

「なにかは、あるだろ」


 ──そういわれても。

 う~ん。

 じゃあ、折角だから、言っちゃおうかな。


「なんでも、いいのか?」

「ああ、なんでもだ」

「じゃあ、つるぎが欲しい」

「剣?」

「ああ。国一番の宝剣だ」

「それは、私が持つ、この宝剣のことか?」


 そういって、キーリュは帯刀した剣を抜いた。

 その剣を、みんな黙って食い入るように見た。

 よくわからないが、たぶんとても良い剣なのだろう。

 でも、オレが欲しいのは、その剣じゃない。


「──いいや。それよりももっと強い剣だ」

「そんな剣は存在しない」

「あるだろ」


 それは、キーリュの横に視線を移した。


「オレが所望するのは、大国の剣。ナナイとその部隊だ」


 全員の手が止まった。全員の視線がオレに向けられ、それがらキーリュへと移った。


「ずいぶん、大きく出たな」


 キーリュは鼻をならした。


「確かに、国一番の宝剣だ。まさかそれを所望するとはな」

「で、返事はどうなんだ?」

「決まっているだろう。くれてやる。ナナイ隊は、いまからヒデの部隊だ」


 全員がその意味を理解できずに、止まってしまっていた。


「というわけで、ナナイ。よろしくな」


 オレは、ナナイに手を差し出した。

 ナナイは驚いたような顔をして、それから、一度目伏せて。やっとこちらをまっすぐに見た。


「──よろしく、頼む」


 そういって、オレの手を握った。

 そんなところに、拍手がひとつ。

 キーリャだ。

 隊員達がそれに続いた。


 こうして戦争は終わった。

 そして。

 森と帝国の新たな関係を祝う宴会が、始まった。

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