第46話 つかの間の休息

 戦争は終わった。

 でも、オレにはひとつだけやり残したことがあった。

 最後の仕事をするために、オレはナナイを森に呼んでいた。


「どうしたんだ、ヒデ?」

「あのさ。急な話になるんだけど、いいかな」

「いいもなにも。私はヒデの剣だ。なんでも言ってくれ」

「じゃあ発表します! ナナイ隊、解散!」


 オレの言葉を、ナナイは目を白黒させながら聞いていた。それから。


「え?」


 まぁ、そうなるよね。


「解散します。ナナイ隊は今から自由です」

「ちょっと待ってくれ。自由って」

「隊として動きたければそうすれば良いし、国に戻りたいならオレが手配する。このまま森にいてくれるなら、オレは歓迎する。やりたいようにたってくれて構わない。そういう自由だ」

「待ってくれ。私はどうしたら?」

「どうしたらいいか、わからないか?」

「ああ。なぁ、教えてくれよ。自由になった私は、どうしたら良い?」

「まぁ、急に言われたらそうなるわな。とりあえず、ウチに来ないか? そうして考えて、答えが出たら行動すれば良い。どうだ?」


 ナナイは下を向いて。

 それから答えた。


「いいのか?」

「ああ。ただひとつ条件がある」

「なんだ?」

「もう、本当の自分を隠さないことだ。耳と尻尾の再生を止めないこと。それに、目隠しを外すこと。これが条件だ」

「──なんでだ?」

「オレが、ナナイの本当の姿を見たいから」

「──何て言ったら良いか、わからない」

「別になにも言わなくていいんじゃないかな。オレは、ナナイの笑顔が見れたら嬉しいけど」


 ナナイは下を向いて、それから、こちらを見た。


「──ありがとう」


 笑ったナナイは、なかなかに可愛かった。



§



 それから、ナナイは俺たちと一緒に行動するようになった。ナナイ隊の隊員も、ほとんどがナナイの元に残った。


 戦争が終わって、森に、平和な日々が戻っていた。



§



 平和な日の昼下がり。

 オレはトモミちゃんと、久しぶりのデートを楽しんでいた。オレが、リューネの村に行く前に、トモミんとした約束。ずっと先伸ばしにされていたその約束を、やっとできる日が来た。オレとトモミんは、オレたちが生まれた場所に来た。


「ここがスタートだったね」

「ああ。ひょろひょろのガリガリで、よく生き延びたもんだよ」

「それがいまでは、この森のぬしだからね。大したもんだよ」

「全部、仲間のおかげだよ。まぁでも、一番はトモミんの支えのおかげだけどね」


 トモミんは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに「えへへぇ~」と笑った。


「ねぇ、ヒデ君。平和になって、これからどうするの?」

「食堂でもやろうかな~って思ってる。平和になったから、これから子供とかも増えると思うし。今まで以上に、みんなに美味しい飯を、いっぱい食わせてやりたい」

「それは、いいね。私も手伝う!」

「ありがとう。トモミんがいてくれたら、百人力だ」


 トモミんは嬉しそうにうなずいてくれた。


「よ~し。じゃあ早速、畑を作ろうかな。それから、次にお店!」

「おーっ!」


 そうして2人で笑いあっているところに、声がした。


「2人でずるいな。私も混ぜてくれよ」


 その声に、思わず振りかえる。

 そこには、ミコとニコがたっていた。

 2人の姿を見て、それからやっと、それがミコの声だったことに気がついた。


「ミコ! 声、戻ったのか!」

「ああ。ヒデが持ってきた食べ物のおかげだ。もうすっかり元通りだよ。まだ無理はできないけどな」

「ボクからも。本当にありがとうございました。です」

「そんなことより、楽しそうなことを話してたな、私も混ぜてくれよ」

「ボクもです!」

「やるか? 人手は多い方が良いからな」


 そういうと、さらに声が聞こえた。


「畑のことなら、ぜひ私も! 私も混ぜてください!」


 リューネが草むらのかげから出てきた。ポケモンだろうか?


「そうだな。リューネもいてくれたら心強いな」


 リューネは胸を張って、「フンス!」と鼻を鳴らした。


「私だけ、仲間はずれ、ってことはないよな? ドラゴニュートの力は、役に立つと思うが?」


 そういって、ナナイが現れた。

 もうオールスター状態だ。

 つーか、みんな何でここにいるんだよ?


「OK。みんなの力を合わせれば、たぶんものすごいことができるとおもう。みんな、協力よろしくなっ!」


 そんなことを言っていると、騒がしく森に駆け込んで来るヤツがいた。

 誰やねん。と思っていると、あのお抱え商人だった。

 すごく焦っている感じがわかる。


「どうした?」

「っ! 国が、モンスター達に襲われています」

「襲われるって、どういうことだよ!」

「説明は移動しながらします。どうか、力を貸してください」


 緊急なのは十分にわかった。

 キーリュが困っているなら、やることはひとつだ。


「わかった、今すぐにいく」


 オレはそういうと、指笛を吹いた。

 その音を聴いて、この森で一番の韋駄天いだてん、ダイフクが駆けつけてくれる。


「オレはダイフクと一緒に先に行く!」


 そういって、もうダッシュでキーリュの元に向かった。


「ダイフク! もっとスピードを出せるか?」

「え? 本気で走っていいの!?」

「構わん! 全力の安全運転で、全力の全力で走って行ってくれ!」

「全力で走れば結構早いと思うけど、振り落としちゃうかもよ?!」

「オレを誰だと思ってるんだよ! 絶対に振り落とされない!」

「了解! ワン!」


 ダイフクはそういうと、一気にスピードをあげた。

 風みたいな早さで、走っていく。


 ダイフクの背に乗って走りながら、オレは思った。


 落ち着いて食堂をやるのは、もっともっと先になりそうだと。

 でも、それも悪くない。

 腹が減っている人がいたら助ける。

 困っている人がいたら助ける。


 その先にはきっと、ハッピーエンドが待っているはずだから。



 森から吹いた風は。

 外の世界へと、走っていく。

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転生ゴブリン、食べ物チートで国を作る 文月やっすー @non-but-air

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