第41話 隊員達に訓練をする

 昼飯時。

 オレはナナイとミラとの3人で、宿の食卓を囲んでいた。


「ミラには不自由な思いをさせた。すまなかった」

「いいえ。私は、ナナイさんに感謝してます。前日にも教えてくれましたし。貴女は悪い人ではないとお思っています」

「そういってもらえると、少しは安心してしまうよ。2人に別々の部屋を用意した。これからは客人として、不自由がないようにするよ」

「それはありがたいな。でも、何でこうも急に、態度が変わったんだ」

「簡単な話だ。ヒデ達とは、敵対するよりも仲良くやった方がいい。上がそう判断したからだ」


 なるほど。

 オレの作戦は上手くいっているようだ。


 ──表面上は。


 裏では何が起こっているかわからない。

 まだまだ気は抜けない。

 でも、警戒を緩めているように見せてた方がいいだろう。


「それは良い話だね。こっちも、喧嘩じゃなくて仲良くしたい。オレたちはきっと、良いパートナーになれるよ」

「そうだな。それに伴って、ヒデに提案があるんだ。前にも言ったが、ウチの隊に来ないか? キミが仲間になれば、私も心強い。悪い話じゃないと思うが」


 ナナイはこちらを見て、そういった。

 オレはナナイの目を見て返した。


「──断る」

「そう、か。でも、私は諦めないからな」


 ナナイってそういうキャラなのかな。

 もっとクールなイメージがあったけど。

 結構熱血なところもあるのか。

 まぁいいや。


「今の話とは別に、ヒデにウチの隊員に訓練をして欲しいんだが。頼めるか」


 訓練ねぇ。

 そういう理由をつけて、隊員たちと仲良くさせて。そうやって外堀を埋めていくんですね。わかります。

 でもまぁ、ずっと部屋に閉じ籠りっぱなしだったので、良い運動になるかもしれない。


「いいぜ。稽古の様子を見て、アドバイスでもすればいいか?」

「いや、実戦形式でやって欲しい」


 それって、暴れて良いってことか。


「分かったよ。いつだ?」

「──このあと、すぐだ」



§



 町の広場に、ナナイの隊員達が集まってきた。

 見た感じ強そうなのは1人だけ。あとは、みんな、どっこいどっこいの実力に見える。


 最初に、勢いだけは良いヤツが挑んできた。

 こういうヤツは嫌いじゃない。できるだけ、相手の強みの部分で勝負をしてやって、適当なところで、相手の勢いを崩して、勝利した。


「勢いと思いきりが良いな。それは誰でもできることじゃない。才能だ。その才能に、体力と技術が追い付いていない。走り込みと型を多くやるといい」


 そうアドバイスすると、元気な「ありがとうございます」が返ってきた。どうやら、響いてくれたようだった。

 良きかな良きかな。


 2人目は力自慢が挑んできた。

 筋肉と会話ができるタイプみたいだ。今日は左の大胸筋であるジェイミーの調子が良く、右の大胸筋のアンジェロはあんまり元気がない、と言うことを教えてくれた。よくわからないので聞き流していたが、その力は本物だった。まともに受けるのはかなり大変だったが、相手に自信をつけさせるためだ。仕方ない。苦労しながらも受け止めて捌き、受け止めて捌き、を繰り返していった。少しずつ、捌くタイミングを早くしていく。大きな力は、小回りを効かすのが難しい。だんだん早くなるタイミングに、力自慢も頑張って対応してくるが、やがて限界が来た。最後は無防備な首元に木刀を突きつけて終了となった。


「さすがの力だな、こっちもぼろぼろだよ。何が足りなかったと思う?」

「日頃の、鍛練が足りなかった」


 違う。そうじゃない。

 でも、ここで否定しちゃいけない。


「まぁ、そうだな。もっと頑張れ。あとは、チームを組んだ方が良いかもな。お前の筋肉を活かせるのは、お前だけじゃないと思うぜ」


 力自慢は、「むぅ」と唸って、それから「考えてみる」と言ってその場をあとにした。難しいことをいってしまったかもしれない。まぁ、マイナスになってないだろうから、良しとしよう。


 3人目に、一番強そうなヤツが挑んできた。

 こいつは、自分が強いことを知っているタイプだ。だからあえて聞いておく。


「あんた、強いだろ。本気でやった方が良いか?」

「──結果がすべてだ。そっちが後悔しないようにやれよ」


 いいねぇ。その真っ直ぐなスタイル、嫌いじゃない。


「OK。全力で相手をするよ」


 そう宣言して、実戦を始めた。

 勝負は一瞬だった。

 開始と同時に、足元の砂を蹴りあげて目潰しを狙うラフプレー。その対応に戸惑っているあいだに距離を詰める。相手は懐に入られるのを嫌って、剣を凪ぎ払おうとする。右手を伸ばして、その出掛かりの手元を押さえる。上手いヤツほど、剣は体を使って振る。支点となっている、体に近い部分は小さな力で押さえられる。危険を察知した相手は後方に飛んで距離を開けようとしたが、もう遅い。オレの右足が、人体急所、金的をとらえる。相手はその場にうずくまった。

 勝負ありだ。


 あまりのラフプレーに、辺りは静まり返ってしまった。そんななか、オレは相手もとに歩いていって、手を差しのべた。

 相手は、痛みと悔しさに、脂汗と涙を浮かべながら、その手を取った。オレはそいつを起こして、それから、握手をした。


「あんた、すげぇな。言い訳をしないで、素直に敗けを認められるヤツは強くなる。あんたはもっと強くなるよ。それと、すまなかった」

「訓練だ。恨んではいない」


 次の瞬間。

 相手の手に、一段と力が入った。


「でも、まだ負けないっ!」


 そういって、右足でオレの股間を狙ってきた。オレは体を横にして避けた。そのあとに、無防備なあいての股間に、もう一度蹴りを放った。

 悲鳴と共に再びその場にうずくまった相手に、声をかける。


「最高だよ。合格だ」


 それから、うずくまる相手を抱き抱えて、少し離れた安全なところに置いた。


 さて。

 これで、やっと本番に行ける。

 オレは、澄ました顔で、一番やりたそうにうずうずしているヤツの名前を呼んだ。


「相手をしてくれないか。──ナナイ」

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