第40話 金の切れ目は縁の切れ目

 ナナイの結論が出るまで、オレはミラと同じ待遇を望んだ。

 ミラは町の特別に貸し切られた宿にいた。

 部屋に鍵をかけられ、人目を憚るように、閉じ込められれていた。


 扉を開けると、ミラの驚いた顔が迎えてくれた。

 オレは経緯を話した。


「ということで、ナナイの結論が出るまで、お邪魔します」

「私は構わないけど、ヒデは本当にそれで良かったのか?」

「もちろん。ミラのこと心配だったからさ。元気そうで良かった」

「うん。それは元気だよ。自分で選んだ道だからさ。でも──」

「オレも一緒。自分で選んだ道だからさ。それに、この状況も長くは続かないかな。早ければ今日の夜。遅くても明日までだと思う」

「何かあるの?」

「うん。戦争じゃなく、商売をしようぜって、話をした」


 それを聞いたミラは、笑った。


「なんか、ヒデっぽい。私はダメだったけど、ヒデなら、きっとうまくいくよ」

「ああ。そうなるように準備はしてきたよ。いまは、相手の出方を待つだけだけどね」


 オレはそういうと、ミラの隣に座った。


「今はやることないし、おしゃべりでもしようぜ」


 ミラは少し笑って。


「うん。そうしようか」


 それから、二人で他愛もない話をした。



§



 朝、部屋の扉がノックされた。


「ナナイだ、入るぞ」


 部屋の扉が開き、目隠しをつけたナナイが入ってきた。ナナイは、壁にもたれ掛かって眠るオレの様子を見て、鼻を鳴らした。


「これでも、気を使ってやったつもりだったんだが、どうやら必要なかったみたいだな」

「これでも、心に決めた人がいるんでね」

「それは興味深いな。今度、紹介してくれよ」


 オレは返事代わりに鼻を鳴らした。


「そんなことより、結論は出たか?」

「それは、そっち次第だ。お前から聞いた話だが、信憑性が薄い。かといって無視できる内容でもない。結局落とし所として、実際にどれくらいの物が出せるのか。そいつを実証してもらうことになった」

「用意するものは?」

「未加工のヒヒイロカネを5個」


 オレは眉を「ハ」の字にして、口を「へ」の字に曲げた。

 それを見たナナイは言う。


「どうした。そんなの無理だ、って顔をして」

「──逆だよ。そんな程度に見られてるのかって。まぁ、いいよ。どうせ30個用意してるから。それ全部持っていくと良い」

「本気か?」

「それに、ヒヒイロカネだけじゃない。その他の特産品もつけるよ。ただ、それがそっちにとって、どれ程の価値があるのかは知りたい。今の話しの流れだと、目利きがいるはずだろ。そいつから直接、価値を聞きたい」

「──いいだろう。物は、夕方までに、ここに持ってこられるか」

「使いを呼んで持ってこさせる必要がある。それさえできれば、今すぐにだって出せる」

「分かった。こちらも準備がある。昼だ。それまでに準備をしておけ」



§



 オレは、ナナイの許可をとって、町の外でダイフクを呼んだ。それから、準備していたものを、ダイフクに持ってきて貰った。

 昼に、それらを、国のお抱え商人の鑑定に立ち会った。

 ヒヒイロカネはもちろん、建物や武器を作るのにも必要な木材、果物に保存食などだ。商人の反応は概ね予想通りだった。ヒヒイロカネや木材は絶対に必要なものだが、その他は嗜好品、最初こそ高値で取引されるだろうけど、そのうち飽きられる、ということだった。それに、実際の反応は売ってみないことにはわからない、とのことだった。オレはその様子を見て、この商人を信用した。その上で、商人が提示した金額を断って、全部タダで渡した。


「今回は、金は要らない。友好の証として。そして、オレたちの有用性を示したい。それが高く売れるようなら、その時に改めて、金額の話をしようぜ」


 その言葉に、商人は目を細めて怒った。それから、承認が提示した金額を無理矢理渡してきた。なんでも、商人の間では、金の切れ目は縁の切れ目だという。最初から金が動かないのは、縁を結ばないのと同じだ、と。そう言って怒ってしまった。何をいっているのか、オレには理解できなかった。でも、ちゃんと筋の通ったヤツなことは分かった。


「じゃ、全部あんたに任せるわ。高く売ってくれよ」

「言われなくても、そうする!」


 商人は早速、それら全部を、国に持ち帰って行った。

 それらが終わったあと、ナナイは声を掛けてきた。


「ヒデは、これから暇か?」


 オレの呼び方が「ヒデ」に変わっている。

 なんでだろう。


「ま、こんな状態だからな。暇だ」

「一緒に飯でもどうだ?」

「別に構わないけど、急にどうしたんだよ」


 次にナナイの口から出た言葉には、少しだけ驚いた。


「──ヒデをウチの隊に入れたいと思っていさ」

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